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LEGEND SPIRIT 〜後に伝説と呼ばれる者たち〜  作者: ゆに


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36話 謎の病

「……。」


 純香の体から力が抜け、その場に崩れ落ちた。


「純香っ!」


 琉妃の叫びが響く。


 琉妃は男たちを押し退けようと、さらに激しく暴れた。


「おいおいマズくないか?」


 俊音が顔をしかめる。


「行こう。」


 悠尋は短く言い、そのまま駆け出した。


「琉妃から手を離せ!」


 俊音が怒鳴る。


「あー悪い。こいつに用はないんだわ。」


 男は興味を失ったように琉妃から手を離し、その場から下がった。


「純香!」


 解放された瞬間、琉妃は一直線に純香の元へ駆け寄った。


「大丈夫!?」


 肩を揺する。


 だが、返事はない。


 その顔色の悪さに、琉妃は歯を食いしばった。


「お前らまじで……この子は体が悪いんだぞ! こんなにこの子を追い詰めて……どうしたいんだよ!」


「知らねーよ! その女だって貧しい俺らをほったらかしだ! 金くらいよこしゃ、こんな事にはならなかった!」


 琉妃の目が冷たく細められる。


「つくづくムカつく奴らだ。」


 低い声だった。


 怒鳴り声よりも、ずっと冷えた声音。


 琉妃は深く息を吸い込み、悠尋たちを見た。


「みんな……道を確保してくれる? 頼んでもいいかな?」


「どうするつもりなんだよ。」


「純香を病院へ連れていく。残念だけど、俺にできるのはこれくらいだよ。」


「わかった。」


 悠尋は真っ直ぐ頷いた。


「ここは俺たちに任せろ。」


 その時、空介が琉妃の隣へ歩み寄る。


「病院までは、俺が着いていくよ。」


「心強いよ。頼むね、空介。」


「その前に、万全の状態で連れていきたい。少し時間をもらうね。」


 空介は静かにしゃがみ込み、純香へ手を添えた。


「できるだけ早く……。」


「分かってる。汗がすごいからさ、ある程度の処置だよ。」


 空介は集中するように目を閉じる。


 やがて、純香の荒れていた呼吸がほんの少しだけ落ち着いた。


「よし、これで体温は調整できるはずだよ。さあ、行こう。」


「うん……。」


 琉妃は小さく頷いた。


「さあ、どいてもらおうか!」


 俊音が前へ出る。


 悠尋たちもホームレスたちを押し退け、無理やり道を作った。


「さあ、行け!」


「ありがとう……助かるよ。」


 琉妃は純香を抱き上げた。


 軽かった。


 あまりにも軽すぎて、胸が痛んだ。


「行くよ。」


「うん。」


 二人は病院へ向かって走り出した。


   ◇


 病院までの道が、異様に長く感じた。


「この先真っ直ぐだよ!」


「はぁ……はぁ……。」


 琉妃は息を切らしながら走る。


 腕の中の純香は、ぐったりとしたままだった。


「純香……。」


 何度呼んでも返事はない。


 その沈黙が、怖かった。


   ◇


「すみません! この子の意識が!」


 病院へ飛び込む。


「分かりました。緊急ですね。今すぐに対応を。」


「お願いします。」


 医師は純香の様子を見ると、一瞬目を見開いた。


「ん。」


 じっと観察する。


「すごい……ちゃんとしている。」


「ええ。体温調整など、やれる範囲のことはやりました。」


 空介が静かに答えた。


「ありがとうございます。では、取り掛かります。」


 そのまま純香は病室へ運ばれていった。


 扉が閉まる。


 静寂が落ちた。


「助かったよ空介。君がいなかったら……。」


「いいんだ。守りたいものは守るべきだよ。」


「ありがとう……。」


 琉妃は壁にもたれ、小さく俯く。


「あの子はさ……本当はあんなに色素がないわけではないんだ……。」


 目を閉じる。


「本当はあんなに痩せ細っていないんだ……。」


 拳を強く握りしめる。


 涙を堪えるように、顔に力が入っていた。


「本当はちゃんと笑えるんだ……本当は……。」


「分かってる。分かってるよ。今は落ち着こう。」


「ごめん……取り乱した……。」


   ◇


 数時間後。


 病室の扉が開いた。


「一応命は取り留めることができました。」


 医師の言葉に、琉妃は顔を上げる。


「しかし、まだ意識は戻っていません。むしろ……遠くなる一方のようです。」


 琉妃は静かに俯いた。


「あの子……生まれながら病気を持っているんだ。原因不明の病。体の中が病によって侵され続けている。」


 声が掠れる。


「かなり深刻なはずなのに……うちに来た。ってことは……。」


「助けて欲しかったんじゃないかな。」


「そういうことだよな。」


 琉妃は頭を抱えた。


「あぁ……何で気づけなかったんだ……。本当に自分に腹が立つ……。ただ、純香と会えたことで浮かれ気分でいた。」


「そばにいてあげてください。」


「すみません。この度はありがとうございました。」


   ◇


 そして、時間だけが過ぎていく。


 一時間。


 三時間。


 六時間。


 純香は一度も目を覚まさなかった。


 静かな病室。


 椅子に座ったまま、琉妃はずっと純香の手を握っていた。


 その時――。


「……琉妃。」


 か細い声が響いた。


 琉妃の目が大きく開かれる。


 ベッドの上で、純香がゆっくりと目を開けていた。

次回 琉妃と純香

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