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LEGEND SPIRIT 〜後に伝説と呼ばれる者たち〜  作者: ゆに


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28話 無力(風の支配者編)

風が唸る。


 渓谷の空気を裂くように、俊音の姿が揺れた。


 ――次の瞬間には、もうそこにいない。


 風に紛れ、ウィンディベルの間合いへと滑り込んでいた。


「……風に慣れてるね」


 ウィンディベルが目を細める。


「そうだろ。馬鹿ガキ」


 日和が、低く笑った。


「馬鹿ガキ」


 その一言と同時に二つの気配が動く。

 ウィンディベルの視線が揺れる。


「どっちだ……どっちからくる」


 わずかな殺意の差を読む。


「違う……殺意マシマシな彼だ」


 視線が、日和へ向く。


「残念」


 背後。


「俺だ!」


 俊音の声。

 振り返る。


「だよね、読んでるよ!」


 だがその瞬間。


「残念、二人同時だ!」


 日和が踏み込んでいた。

 斬撃。


「っ……!」


 刃が、確かに届く。

 ウィンディベルの体が揺らぐ。


「なっ……!」


 目を顰める。


「あぁ……」


 目を押さえる。


「目が……眩む……!」


「……眩むか?」


 日和の目が細まる。


「うん。きもっちがわるい……!」


 息が乱れている。

 明らかに、異変。


「そうか」


 日和は剣を構え直す。


「なら……ここで終わりだ」


 踏み込む。


「妹の仇は、ここで取る!」


 振り下ろされる刃。


「やば……」


 ウィンディベルの瞳が、日和を捉える。


 ――その瞬間。


「っ……!?」


 止まる。

 体が、動かない。


「なんだ……!」


 筋肉が強張る。


「動けない……!」


 目の前の存在が、圧となって全身を縛る。


「体がこいつの圧を感じているのか!?」

「ぐああっ……!」


 ウィンディベルが叫ぶ。

 両目を押さえ、膝をつく。


「目が……!」

「また目の痛みか……!」


 日和が歯を食いしばる。


「もう何なんだよ……!」


 ウィンディベルの声は、焦りに満ちていた。


「最近……ひどい……目が痛む回数が増えてる……!」


 そのまま、踵を返す。


 逃げる。


 渓谷のさらに奥へ。


「待て!」


 日和が叫ぶ。


「逃がすか……!」


 だが――


「っ……!」


 足が重い。

 思うように動かない。


「なんでだ……!

体が思うように動かない!」


 一歩。

 また一歩。

 ゆっくりと踏み出す。


「動けよ……!」


 歯を食いしばる。


「追いかけなきゃ……!」

「やめろ、日和!」


 強く腕を掴まれる。


「離せ、俊音!」


 振り払おうとする。


「俺はあいつを……!」

「分かってる!お前の気持ちはよく分かってる!」


 俊音の声が、鋭く響いた。


「でも見ろ!」


 指差す先。


 そこは――


 地面が抉れ、崩れかけた崖。

 足場は脆く、風はさらに強い。

 一歩踏み違えれば、終わり。


「今のお前が生身で行っていい場所じゃねえだろ」

「……でも……!」


 拳が震える。


「俺はやらなきゃいけないんだ……!」

「日和!」


 強く、呼ばれる。


「俺を見ろ!」


 はっとして、振り返る。


「妹に守られてるんなら」


 俊音の声は、静かだった。


「命を落として守ってくれたならさ」


 一拍。


「お前は死のうとすんじゃねーよ」

「……っ」

「生きろ。お前はよ」

「敵討ちなんだよ……!」


 日和の声が震える。


「妹の……!」

「そんなの出来る場所でも場合でもないだろ!」


 即答だった。

 ぐっと距離を詰める。


「今じゃねえだろ!」


 その言葉が、突き刺さる。


「お前なら分かんだろ!」

「……分かってる……!」


 膝から力が抜ける。

 その場に崩れ落ちた。


「分かってるんだけど……!」


 拳を握る。


「俺は……あいつを……倒せなかった……」


 風の音だけが、響く。


「……落ち着いたか?」


 静かな問い。

 日和は、ゆっくりと目を閉じた。


「……ああ」


 呼吸を整える。


「今回の件は……イレギュラーだった」

「……あと一歩だったんだけどな」


 ぽつりと漏らす。

 だが、その“一歩”が遠い。


(最後……動けなかった)


 思考が巡る。


(俺がビビってたのか……?

俺は根っからあいつを倒す気満々だった。)


 否定したい。だが――


(違う……それだけじゃない)


 あの圧。あの異常。


(なんで動けなかったんだ……)


「どうした日和」

「……いや、なんでもない」


 立ち上がる。


「帰ろう」

「……ああ」


 背を向ける。

 崖から離れる一歩が、やけに重い。


 だが――確実に、生きている側へ進む一歩だった。


 しばらく歩いて。

 ふと、日和が足を止める。


「なあ、俊音」

「ん?」

「さっきは……俺を止めてくれてありがとな」


 少しだけ、照れたように笑う。


「多分、一人だったら突っ込んでた」

「だろうな」


 軽く笑う。


「いいってことよ」


 また歩き出す。


 風の音が、少し遠くなる。


「そういえばさ」


 俊音がふと思い出したように言う。


「妹ちゃんには?」

「ああ」


 日和は前を向いたまま答えた。


「杏奈には――」


 一瞬、風が優しく吹く。


「渡してきたよ。綺麗な花を何本も」


 その言葉は、静かに、確かに――


 前へ進んでいた。

「あれ、今日も行くのか?」

「うん。ちょっと行ってくるよ。」


そう、これは俺とあの人の話。


 雪のキラワレモノ編 開幕

次回 『キラワレモノ』

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