15話 お小遣い
ゆにです。
ぜひ楽しんでいってくださいね。
夕方の光が、窓から柔らかく差し込んでいた。
「……あぁ暇。」
ソファにだらしなく体を預けた俊音が、天井を見上げながらぼやく。
「今日も何もなかったね。」
珠架がクスッと笑った。
その声はどこか軽やかで、部屋の空気を明るくした。
「誰が依頼持ってこいよなー。」
「ない方がいいんだぜ?こういうのは。」
日和が肩をすくめる。
「もう夕方かぁ…。」
弘明が窓の外を見ていた。
その時。
「あ!私そろそろ帰らなきゃ!ごめんね!」
珠架が慌てて立ち上がった。
「謝らなくてもいいのに。」
「うん!ごめん!」
「いや、だから謝らないでいいって……。」
少しズレたやり取りに、場の空気が緩む。
「それじゃあ、お邪魔しました!」
元気よく頭を下げて、珠架は家を飛び出した。
その背中を見送りながら、琉妃がふっと笑う。
「偉いね、なしゅかちゃんは。
ちゃんと門限守ってて。」
「まだ中学生だもんな。なしゅかも、俺らも。」
悠尋の言葉に、どこか現実を思い出したかのような空気が流れた。
「そういえばカメラ買うって話はどうなったのかな?」
空介が思い出したかのように言う。
「高級な奴な!高いんやろうな…。」
俊音が目を輝かせた。
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帰り道
「早く帰ってお手伝い!お小遣い貯めなきゃ!」
珠架はそう言って、軽やかに駆け出す。
夕焼けの中、その背中がどんどん遠ざかっていった。
――――――――――
「ただいま!」
勢いよく玄関を開けた。
「お母さん!お風呂掃除!」
「終わってる。てか沸いてる。」
「夕食の準備!」
「終わってる。てかできてる。」
「……まぁ、帰宅遅いとそうよね普通。」
しょんぼりと肩を落とす珠架に、母が優しく言う。
「早く帰ってくればいいのよ?」
「それはダメ!
私はみんなのサポートするって決めてるから!」
その言葉に、部屋の奥から父の咳払いが聞こえた。
「だったら、みんなでうちにくればいいんじゃないか?」
「みんなはみんなのお仕事があるのー。」
「若くして仕事だなんて、しっかりしてるわね。」
母は微笑みながら続ける。
「珠架ちゃんも、そんな真剣な人たちのそばにいるんだから、半端な気持ちじゃ失礼よ。」
珠架は少しだけ表情を引き締めた。
「分かってるよ。半端な気持ちなんかじゃない。
本気でサポートするって決めてるから。」
「ならいいの。ほら、これ。」
母が差し出したのは、一つの封筒。
「今月分のお小遣い。」
「待ってました!」
ぱっと開いて、中を覗く。
「1万……え、高くない?」
「最近お手伝い頑張ってるからよ。」
「お手伝い代は別でもらってるじゃん。」
「いいの。これはサービス。」
「ありがとう…。」
少し照れたように笑った。
「それとな、俺からだ。」
父がもうひとつ封筒を取り出した。
「え、いつもくれないのに。」
「たまにはカッコつけさせなさい。」
受け取って封筒を開ける。
「2万……?なんで…?」
「毎朝俺の弁当を作ってくれてるだろ。
同僚に自慢できて嬉しいんだ。弁当も娘もな。」
「……なんか恥ずかしい。でも、ありがとう。」
「おう。」
胸の奥がじんわりと温かくなる。
ーーこうして貯め始めて、数ヶ月。
お手伝いとお小遣い。
絶対に自分の手で買うって決めた。
学生じゃ買うのに抵抗のある、カメラを。
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翌日、皆が集まる宮地宅にて。
「えへへへへへ……。」
珠架はなぜか声に出して笑っていた。
「何その顔。めっちゃ幸せそうやん。」
それを見て日和も微笑んだ。
「聞く?私ね、今結構お金溜まってきてね!
そろそろ買おっかなって……カメラ!」
「なんか初めて見るな。
こんなほわほわしてるなしゅか。」
「ほわほわなしゅかちゃん。」
琉妃が楽しそうに続けた。
「ふへへ〜。」
体をくねらせながら笑う珠架。
「くねくねなしゅかちゃん。」
またも琉妃は楽しそうに続けた。
「それで、いつ買うの?」
弘明が現実的な質問を投げる。
「んー、次の土日あたり、カメラ屋に行こうかな。」
「じゃあついていっていい?」
悠尋がすぐに反応する。
「来てくれるの!?」
「性能とか見るなら、俺も手伝うよ。」
「ありがと!さすが天才頭脳の持ち主!」
「いや、それとこれとは別だと思うけど…。」
苦笑する弘明に、みんなが笑った。
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土曜日。
「そろそろ集合時間だけど……あと、なしゅかだけか。」
「なんか知らんけど、ワクワクしてきた!」
俊音がそわそわしている。
「わくわくさんの正体。俊音説。」
「なんでやねん!」
琉妃と俊音はふざけ合って笑った。
「ワクワクするのは分かるよ。
高額な買い物ってあんまり見ないからね。」
「普通に電気屋ってワクワクすんだろ!」
「単純…。」
そんなやりとりの横で。
「あー負けた負けた!金がねえ!」
荒れた声が響く。
「兄貴!あの子供。チョロそうですよ!」
「最近のガキは金持ってるらしいからな。」
男たちの視線の先には、
楽しそうに歩く珠架の姿があった。
「きゃっ!」
ぶつかられ、よろける。
「いったた……ごめんなさい。
お怪我はありませんか?」
「……あーいてぇ。まじいてぇわこれ。骨折れたなこりゃ。」
男は大袈裟に腕を押さえた。
その目は半目で、何やら小馬鹿にしているようだった。
どうするのだろうか。
ほわほわなしゅかちゃん。
次回『そわそわなしゅかちゃん』




