第9話:復讐のライドと、白き強襲者
1. 孤独な決別
深夜、救急病院の入り口。
街灯の光が、ボロボロになったブルーのベスパを冷たく照らしていた。
「マサオ、お前はもう帰れ。……東京へ行くんだろ。美容師になるんだろ」
「……翔也、一人で行く気か。あいつらは数が多い。俺の『読心』があれば……」
マサオの「読心」には、翔也の心の中で爆発しそうな、どす黒いほどの怒りのノイズが聞こえていた。それは闇レースで負けた時の悔しさとは違う。友を傷つけられ、バイク乗りの誇りを踏みにじられた男の咆哮だ。
「俺のせいで、お前の未来が汚されたんだ。……これは俺がケリをつける」
キック一発。白煙とともに、紫のジョグが夜の闇へと消えていった。
2. 深夜のハント
国道4号線を北へ。翔也は野生の獣のような鋭さで、夜光虫のテールランプを追った。
頭の中には、10秒間の**「ライド」**をどう使うか、そのイメージだけが研ぎ澄まされていく。
(摩擦を消して、加速を一点に集中させる。逃げるためじゃない、あいつらをブチ抜くために……!)
3. 白き影、降臨
その時だった。ジョグの背後から、地を這うような鋭い排気音が迫る。
音もなく真横に並ぶ「白い影」。あの闇レースの勝者、**ディオ(ショウ)**だ。
「……ッ!? なぜここに……」
ディオはフルフェイスのシールド越しに、冷徹な視線を翔也に向けた。
「ひどい走りだな。そんな濁った殺気を振りまいて、何をするつもりだ」
「うるせェ! どけッ、あいつらは俺がやるんだ!!」
翔也の絶叫を、ディオは鼻で笑った。
「フン。あんな路上の掃き溜めを相手に、その『能力』を浪費するのか。お前の価値も底が見えたな。だが——」
ディオが一度アクセルを戻し、一気に開け直す。チャンバーが咆哮を上げ、白い車体が弾丸のように飛び出した。
「あんな連中が道を塞いでいるのは、俺の走りにとっても邪魔だ。……『掃除』ついでに、お前の覚悟を見せてもらおうか」
4. 復讐の処刑場
ディオの走りは次元が違った。神業のようなすり抜けと、圧倒的な威圧感だけで、暴走族の連携をバラバラに引き裂いていく。
「な、なんだアイツ!? 速すぎる!!」
混乱する集団のど真ん中、逃げ遅れた一台の単車——マサオを殴った竹刀の男——の背後に、翔也が躍り出た。
「……ライドッ!!」
翔也はジョグごと数センチ浮遊し、アスファルトの摩擦をゼロにしたまま、慣性だけで弾丸のように加速。
重力を無視した軌道で横に滑り、男の単車のフロントタイヤへ、ジョグのリアを思い切り叩きつけた。
「がはっ!?」
横から弾き飛ばされた単車が、火花を散らしながらアスファルトの上を転がっていく。
5. ケンジとの対峙
転倒する仲間、逃げ惑うメンバー。
その混乱の先に、引きつった顔でハンドルを握るケンジのセドリックが見えた。
翔也は「ライド」を維持したまま、セドリックのボンネットにジョグのフロントを乗せるようにして、フロントガラス越しにケンジを睨みつけた。
3センチの浮遊が生み出す、死神のような静かな加速。
「ケンジ……。次は、テメェだ」




