ピッピちゃんのご飯
ルナちゃんが早速ピッピちゃんを自分の部屋に連れていったから、僕も少し遅れて続いたんだ。
「ルナちゃん、入るよ」
「はーい。どうぞ~」
部屋に入ると、ルナちゃんがピッピちゃんを抱きながらその目をジーッと見つめているところだった。
「どうしたの、ルナちゃん?」
「ユウキくん。ピッピちゃんのお目々、とっても可愛いと思いませんか!?」
ピッピちゃんを抱えて目を輝かせるルナちゃんのテンションに、僕は思わず戸惑ってしまう。
「う、うん。本当に可愛いよね」
ルナちゃんの言う通り、ピッピちゃんの目は黒くてつぶら。
そういう僕も最初は連れて帰るのに反対だったけどこのお目々にノックアウトされたんだった。
「そうですよね! ピッピちゃんは可愛いんです!」
「ピィ!」
ルナちゃんに反応するよう、ピッピちゃんも甲高い声で鳴く。
「よしよし、ピッピちゃんは可愛いですね~」
「ピィ~」
ルナちゃんに背中をなでられて、ピッピちゃんはうっとりとしたような顔に。
僕もふわふわの羽に触ってみたいんだけど、さっき噛まれちゃったからね……。
そう思っていたら、ピッピちゃんが急にけたたましく鳴きわめきだした。
「ピィ! ピギィ! ピギギギ!!」
「はわわわっ、急にどうしたんですかピッピちゃん!?」
突然騒ぎ出したピッピちゃんに、ルナちゃんはおろおろとするばかり。
よく見るとピッピちゃんは騒ぎながら上を向いて口を大きく開けている。
これはもしかして!
「ねえルナちゃん、もしかしてピッピちゃんはお腹が空いてるんじゃないかなあ?」
「それもそうですね! ……ですけどピッピちゃんは何を食べるんでしょう?」
目をつぶって考え込んでしまうルナちゃん。
「ルナちゃん、動物って食べるものによって口とか歯の形が違うんだ。もしかしたらピッピちゃんの口を見たら分かるかも」
ひらめいた僕がピッピちゃんの口をよーく観察してみる。
ピッピちゃんの口、上の嘴がちょっとだけ鉤状に曲がっている。
これはワシとかタカみたいな猛禽類とおんなじなんだ!
「ねえルナちゃん、ユノさんから何かお肉みたいなのをもらってこれない?」
「分かりました! ちょっと待っててくださいね」
ピッピちゃんを降ろすなり、ルナちゃんは台所に直行する。
「ピピ……」
「うう……っ」
すると僕がピッピちゃんと二人きりになっちゃって、なんか気まずくなってしまった。
「ねえ、ピッピちゃん?」
「ピギャ!!」
僕が手を近づけようとすると、ピッピちゃんはやっぱり羽を膨らませて威嚇モードに。
「はあ、僕もピッピちゃんと仲良くなりたいだけなのに……」
相変わらずのピッピちゃんに、僕はすっかりうなだれてしまう。
するとそこへルナちゃんが駆け戻ってきた。
「ピッピちゃん! お母さんからハムをもらえましたよ~!」
「ピィ!」
ルナちゃんが部屋に戻るなり、ピッピちゃんがぎこちなく歩み寄って口を大きく開ける。
「ピィ~ピィ~!!」
「はいはい、慌てなくてもちゃんとありますよ~」
ニコニコ笑いながらルナちゃんがハムを差し出すと、ピッピちゃんはすごい勢いでハムをさらってするっと丸のみにしてしまった。
「わあ、すごーい」
ものすごい食べっぷりに僕が唖然とするよそで、ルナちゃんは笑顔で次々とハムをピッピちゃんに分け与える。
笑ってハムをもたらす姿はまさに聖母の恵み、美しいなあ……。
結局ルナちゃんが持ってきたハムをあっという間に平らげたピッピちゃんは、急にうとうととし始める。
「どうやらお腹いっぱいになったみたいですね。よしよし」
ルナちゃんに優しくなでられながらこくりこくりと頭を揺らすピッピちゃんが本当に気持ち良さそうで。
なんだか僕まで眠くなってきちゃった。
「えへへ、ユウキくんもおねむみたいですね~」
ルナちゃんの言葉を最後に、僕はそのまま夢見心地に落ちていく……。
――ん、んん……っ。
気がつくと僕は今となっては懐かしい部屋の中にいた。
これは昔の僕の部屋……!?
すくっと身体を起こすと、胸元にはゾウのぬいぐるみが。
あれっはなちゃん、どうしてぬいぐるみに戻ってるの!?
慌てて辺りを見回す僕のもとにやってきたのは、僕のママとパパだった。
「あらまあ、もう起きたのね」
「よっぽどそのぬいぐるみが気に入ってたみたいだね~」
「うん! ぼくね、このこにはなちゃんってなまえをつけたんだあ!」
あれ、僕が勝手にしゃべってる。
そう思っていたら、急に全体の俯瞰が見えて、今の僕が小さい僕を見下ろしている。
そうか、これは僕が小さい頃を夢として見てるんだ!
「そうなのね~。はなちゃんを大事にするのよ?」
「うん! ぼく、はなちゃんとずーっといっしょ!」
はなちゃんをぎゅーっと抱きしめる小さい頃の僕に、自分のことながら微笑ましくなってしまう。
だけど次の言葉で僕は現実に引き戻された。
「また動物園に行こうな~」
「約束だよ、パパ!」
ウソ。あのあとパパは動物園に連れていってくれなかった。
それだけじゃない、このしばらく後を境にパパは二度と帰ってこなかったんだ。
違う、これは僕が夢見てた光景じゃない!
そう思った途端、目の前の風景が割れたガラスのように崩れ落ちていく。
その先に広がっていたのは、周囲を包む炎だった。
これはあの時迎えた僕の最期!?
炎の中で僕は縮こまる他なくて、もう何も見えなくなっていた。
「――うわあああああ!!」
飛び起きた僕の前には、ビックリして目を見開くルナちゃんの顔がある。
「なんだ、夢かあ……!」
「一体どうしたんですかユウキくん!? ずいぶんとうなされていたみたいでしたけど……」
「あ、ううん。僕は平気だよ。ちょっと怖い夢を見てただけ」
慌てて取り繕う僕の手にすり寄ってきたのは、なんとピッピちゃんだ。
「あれ、僕のこと怖くないの?」
「ピィ?」
僕の問いかけにピッピちゃんは不思議そうに首をかしげている。
「もしかしたら一緒に寝たユウキくんのことを仲間と認めたんじゃないですか?」
「え、そんなことってある?」
「実際さっきまでピッピちゃん、ユウキくんのお顔の上で座ってましたよ」
「そうなの?」
どうりで顔がなんだか火照ってると思ったよ。
「それじゃあ僕も触れるかなあ?」
僕がその羽に手を伸ばすと、ピッピちゃんは大人しく触らせてくれた。
ふわふわで温かくて気持ちいい……!
「あ~気持ちいい~!!」
「ピギョ!?」
抱き上げて思わずピッピちゃんの胸元に顔を埋めたら、さすがにつっつかれた。
「あはは、ごめんごめん」
「――ブロロロロロ」
この声で振り向くと、はなちゃんが窓から恨めしそうにこっちを見つめている。
「もちろんはなちゃんも一緒だよ」
「パオン」
そう言って僕ははなちゃんの鼻をすりすりとなでてあげた。
一度死んだ僕だけど、今もやっぱり幸せだよ!




