推ししか勝たん
自慢ではないが、感情の抑制には職業柄長けている方だ。
と、今日までリアは思っていた。
(えっ? 何この子……見れば見るほど……黒髪の天使だわ。お顔も整っているけど、それだけじゃなくて……神秘的な瞳と無邪気そうな笑顔と、無自覚なのか自覚しているのか愛嬌を振りまいているところなんて……伯爵だってニコニコじゃない。こんな態度、わざとやってたら相当な策士だわ。いや、それでもいいけど……むしろ美味しいかもしれないけど……えっ、これでまだ十代なの? 信じられない……)
「あの……? どうしました? 気分でも悪いですか?」
ティモが長めの前髪をサラリと揺らしながら、リアを見上げる。
オッドアイが心配そうにこちらを見ているのに気付いて、リアは自分の足元が崩れ去っていくような感覚におちいった。
(何かしら、この味わったことのない感覚は……そう、まるで底なし沼に足をとられているような)
伯爵がリアを気遣って言った。
「馬車のスピードが速かったのかもしれません。すみませんな、屋敷の修繕まではなんとかできたのですが、私邸の周りの道路にはまだ手が入っていない。舗装も時折ないような荒い道だったでしょう」
「はあ……」
「酔われたのかもしれません。少し外の空気を吸いますか?」
すると、ティモが立ち上がって言った。
「それなら、温室に行きますか。お嬢様が毎日熱心に手入れされておられますよ」




