三日
かいがいしく世話をするシュテファンの勧めてくるブランデーをどうにか固辞して、メルジーナが聞き出したことは皇帝陛下の使者が来るのは三日後だということだった。
「三日って……早くないでしょうか?」
「さあ、僕たちだってこんなことは初めてだからね。だけど、もし何か企んでいるとするなら隠すのには時間がかかる、とみなしているんだろう」
つまり、皇帝は急激に力をつけたリーメンシュナイダー家を警戒しているのだろう。
そうでなければこんなに短期間で来る必要がない。
自室の寝台に腰かけながら、メルジーナは思案した。
ここで皇帝に睨まれるのは得策ではない。
いや、むしろ敵意などひとつもないことを証明しなければならない。
さらに言えば、この帝国の皇帝はカリスマ性がある人物だ。
ツァイデルに暮らすわけではないメルジーナは一度も姿を見たことはないが、《将軍様》の噂は有名だった。
先の戦では身一つで武功を立て、何でも一度も怖がったことがないらしい、笑ったこともないらしい、目を見ると氷にされるらしい、という真偽のほどが定かではないものまであった。
とにもかくにも強大な権力者だ。
と、いうことは、メルジーナの――いや、表面上はティモの――ニシンの塩漬けプロジェクトは成功をおさめたといっていい。
何しろ皇帝の耳にまで入っているということだ。
使者の歓待というのは名目上で、伯爵であるにもかかわらず、莫大な富を得たリーメンシュナイダーを調査するというのが内実だろうとメルジーナは思った。
(いいわ。やってやろうじゃない)
メルジーナは決意した。
期間はあと三日。
「うちは善良な伯爵家だし、戦や反乱を起こすつもりなんて毛頭ないんだって、分かってもらわなきゃいけませんね? お兄様」
と、メルジーナが言うと、世界一美しいとされる《絹羽鳥》に喩えられる美貌の兄は、端正な顔を歪ませた。
「メルジーナ……君はどうしてそんなに聡明なんだ。僕は末恐ろしいよ、こんなに利発な子がいるなんて。そしてそれが僕の妹だなんて」
そういうシュテファンは帝国のアカデミーを首席で卒業し、エリート中のエリートとして帝国軍部で勤務している。
軍司ではなく医療を担当する部署なのだそうだが、軍部の男社会の中では麗しすぎるらしく、一種の偶像崇拝のようになっている隊員すらいるらしい。
とにかく賢い人間に賢いと褒められたところでたいして嬉しくない。
メルジーナは微笑を浮かべてシュテファンの言葉を聞き流した。
それに、うまくいけば。
(変人令嬢の汚名を返上できるかもしれないわ! よーし!)




