マルガレーテの手紙
1××2年 6月
拝啓 カルラお姉様
お元気ですか。
ようやく婚約をしたとお伝えできることにほっとしております。
誰かの噂で先に知る前にと急いでペンをとっています。
相手はもちろん、以前からお話していた帝国の騎士団長様です。
私にはもったいないお相手で、とても幸せです。
お姉様もどうぞお体を大切に。
愛をこめて。
マルガレーテ
エマ? お姉様へのお手紙なの、すぐに出してくれるかしら。
婚約が決まったことを書いたわ。
お姉様、ずっと気を揉まれていたからこれで安心してくださるといいのだけれど。
え? 一度断ったことは書いたのかって?
うふふ、いやね、そんなの書けるわけないじゃない。
また「真面目もそこまでいくと罪だ」って言って怒り狂ってしまうわよ。
お姉様は少しばかりせっかちな性質だから。
それに断ったつもりはなかったのよ。
だって……誰だってあんなの、わかるわけないと思うわ。
いくら恋愛結婚が増えてきたとはいっても、うちはこういう家でしょう?
婚約なんて、書状で親のもとに届くものとばかり思っていたから。
ロベルト様に会って直接お話するのも、三度目くらいだったのよ。
しかも、病院の廊下でよ。
誰がそんなところでプロポーズされると思って?
指輪? そんなの見てもいないわよ。
あの方、私と少しお話をしたら、急に絶望的な顔になって行ってしまわれたんだから。
ふふふふ、思い出してもおかしくなってしまうわ。
ずいぶん顔色が蒼褪めていらっしゃったから、どこかお悪いのかと心配になったけれど。
結局、あれはただ緊張されていただけだったのね。
え? 何と言われたのかって?
うふふ、秘密にできる? ロベルト様の威厳にかかわるのだから。
エマ、あなたが口が堅いとは正直あまり期待してはないけれど。
どうしても知りたい?
ふふ、二週間くらいは我慢できるかしら。
あの方、私にこう言ったの。
「突然だが、君はパンを作れるか」
って。
そんなの作ったことなんてないから、できないって答えたわ。
そうしたら、
「君の作ったパンを毎日食べたい」
っておっしゃるの。
私、怪我の手当てや病人の介抱はできますけど、パン作りはできません。
誰か他の方にお頼みになって、て私言ったわ。
そしたらあの方、針でも飲み込んだような顔をされて、
「それなら、税金を一緒に節約しないか」
っておっしゃったの。
何かをすると節税になるらしいって話をされていたけれど、私、そのときちょうど病棟で呼ばれたから、ごめんなさいと言ったわ。
でも、まさかあれがプロポーズだなんて、本当に誰が思うの?
エマ、笑いすぎよ。
ああ、それにしてもびっくりした。
いきなり我が家をたずねていらっしゃるんだもの。
お父様もお母様も卒倒しかねない勢いだったわ。
今どき、交際と同時に結婚を申し込みに来る殿方なんていらっしゃるのね。
え? ロベルト様がそんなことを?
いやね、恥ずかしいわ。
でも悪くないわね。こういうのも。
結婚って楽しいわ。
これから何が待っているのか私にはまだあまり想像がつかないけれど、きっと今まで知らなかったことがたくさんあるわね。ロベルト様となら、頑張っていけるという気がするの。
ふふ、あまりあの方のことをまだ知らないのに、私っておかしいかしら。
あら? エマ、どうしたの。嬉しいの?
そうね。あなたにも小さな頃からたくさん働いてもらったわね。
大丈夫よ、お別れじゃないんだから。
ちょっと、そんなに泣かないでエマ。
私だって泣きそうになっちゃう、やめて、エマ、エマったら、もう……




