65話 赤く染まるミー君
ドドドドっと盛大に音を立てているのは何だ!?
はい……お湯ですね……。
何だもくそもないですよ。魔導炉を蘇らせてしまった上にモモがデタラメに操作してお湯を出してしまってるわけですよ。
「と、取りあえず上の様子を見にいこう」
「そ、そうだね! まずはあの不気味な音の正体を確かめないとね!」
音の正体を察する事が出来なかったミー君は一人張り切り、元気いっぱいに上層に向かって駆けだしていった。
「正体も何も……状況から判断するにあの音は明らかに……」
「いいんだ、いいんだよエミル。ミー君が妙に楽しげにしているんだ、そこは合わせてやろうじゃ無いか」
「ナツ殿……そうだな、張り切るミー殿に水を差すのは良くないものな!」
上階に戻ると、直ぐにうれし気なミー君の声が耳に届いた。
「わー! すごーい! お湯がどんどん溜まっていくよー! 謎の音の正体はお湯が出る音だったんだー!」
声の方角、女湯へと足を向けた我々探検隊は恐れを捨て去り意気揚々と飛び込んだ。
……ううむ。湯煙に包まれると……こう、生々しくてより一層の禁忌感がありますね。
「ミー君、いくら踏破済のダンジョンとはいえ、独断先行は褒められたものじゃあないぞ」
「あ……ごめんね、ナツ君。好奇心に負けちゃったんだよ。でも、見てよこれ! すごいよ! お風呂だよ! いろんなお風呂に入れるよ! やったね、ナツくん!」
ブンブンと揺れる尻尾を幻視してしまうレベルでミー君が興奮し、大喜びをしている……が、だめだろう、いくらなんでもだめだろうよ、ミー君。
「いいかい、ミー君。確かにお湯は出るようになったよ。けれど、ここはもう大分前から使われていない遺跡なんだよ? そんなお風呂に入ったら汚いだろう?」
「あ、そっか! でもさ、大丈夫だよ! こうすれば良いんだから!」
「うおっまぶしっ」
言うが早いか、ミー君は両手を天に突き上げ『えい!』と声を上げた。瞬間、まばゆいばかりの光がミー君を中心として広がり……あっという間に遺跡がピカピカになってしまった。
あの光量からすれば、恐らくは遺跡全体が浄化されちまったんじゃなかろうか。
……いやいやいや。
遺跡ってピカピカにしていいものなんですかね……? いや、魔導炉を再稼働させてしまった俺が言える台詞じゃあ無いけどさ、これはこれで文化財の損壊とかそういうアレで怒られちゃうんじゃ無いかな……。
「どうだいナツくん! これなら文句なしだよね! 入っていいよね!?」
俺がそうやって軽く頭を悩ませているのを知らず、ミー君は脳天気な事を言っている。そこまでして入りたいのか……っていうか、ミー君、君は大事な事を忘れているぞ。
「いいかいミー君。確かに綺麗になったし、入浴しても問題なくなったのかも知れない。でもさ、ごらんよこの明るくなった館内を。きっと外から見ても異変に気づくはずさ。
何が起きたのだろうと、人がやってくるのは目に見えているだろう?
困窮して退屈な街のことだ、近所の人から始まって、噂が噂を呼んできっと沢山の人達がやってきてさ、ぞろぞろと入ってきてはあちこち見て歩くわけだ。その頃、君はお風呂を楽しんでいるわけだろう?」
「いいんじゃない? こんなに広いんだしさ、皆で入っても窮屈じゃ無いよ」
「その時、ここを入浴施設だと思って使っているのはミー君だけだよ。他の人からすればただのダンジョンさ。ダンジョンには男湯も女湯も無い。まして、裸で寛いでいるような人なんて居ないだろう?」
「え、ええと‥…つまり?」
「遠慮なく女湯に入ってきたおっちゃんたちと、裸のミー君がかち合うことになるんだって言ってるの。あ、もしかしてミー君はそういうの平気なタイプだった?」
「!!!!!」
たちまちカーッと顔を赤く染めるミー君。ようやく気づいたか……。
「そんなわけないよ! ナツくんのばかー! えっち! えっちー!」
「怒らないでくれ。俺はミー君が恥ずかしい目に合わないように警告をしてあげたんだよ」
「あ、そうか。ナツくんごめんね、そしてありがとう!」
馬鹿だけど素直なんだよなあ……。簡単にわがままを引っ込めてくれるからありがたい。
とりあえずこれはギルドに報告したほうが良いよな……? ああ、一応ついでにお湯が無害か鑑定しておくか。うっかり毒の湯でも復活させてたら何か起こる前に止めないといけないし。
……【鑑定】 グフッ
『まずはおめでとうと言わせて頂こう。今日、君はとても素晴らしい物を蘇らせた。
もう言わなくともわかるな? そう、スパだ! なんとここのスパは地中からくみ上げた温泉を使用したスペシャルなスパだ!
お湯の効能は……驚くぜえ? 龍脈の恩恵を受けたそのお湯は、魔力を含み結構な回復効果がある。そう、ポーション風呂に浸かるのと等しい効果だ。
怪我は勿論の事、美肌にだって素晴らしい効果があるんだぜ!
今回のクエスト報酬はこの素晴らしい温泉と、何よりミー君の笑顔。これは得がたい報酬だろう?』
……あーうぜえ……! くどい、くどいんだよ! 何がミー君の笑顔だ! そりゃまあ、温泉に入れるとなれば、ミー君はスゲえ喜んで良い笑顔を見せてくれるだろうけれど、それを鑑定さんに言われるとこう、めっちゃイライラするな! つうか鑑定がクドい!
「ナツ殿? どうしたのだ? 突然ぐったりとして……まさか何らかの罠でもあったか?」
「いや……湯を鑑定して驚いただけさ。どうやらこの湯は龍脈付近から汲み上げられた回復効果がある温泉のようでな。ちょっとびっくりしちゃったよ」
「な、なんとそんな物が存在するとは……!」
「え! 凄い! ここのお湯温泉なの!? ねえね、ナツくんナツくん! 絶対に入れるようにしようね! 誰に言えば良いんだろうね? 王様かなあ?」
「ダンジョンの権限はギルマスにあると思うのだが、流石にここの領主にも話を通さねばならぬだろうな」
「そしたら温泉に入れるのかな!?」
「そ、そこまでは我にもわからぬが……」
「ま、取りあえずギルドに報告してみようぜ。全てはそこからだよ」
今にも服を脱ぎ出しそうなミー君を宥め、すっかり眠りこけてしまっているモモを懐に入れて入口まで戻ると……こんなに居たのかというレベルの人だかりが出来ていて、その最前列にはニッコリと笑うギルド嬢、ニーファさんの姿が……。
「な、ナツくん? なんだかニーファさんが怖い顔で手招きしているよ?」
「あれはあれで笑顔のつもりなんだよ……」
「ともあれ、我らを呼んでおるようじゃしな……ナツ殿、覚悟を決めるしか無いぞ」
「ああ、そうだな……」
はい、こちらから向かうまでも無く向こうからやってきましたね……。




