122話 あばばばば あばばばあばば あばばばば
誰よりも先にワニさんとコンニチハしたのは勿論わたくし、ナツでございます。
いやあ、こいつぁ流石にちょっと迫力ありますな。なんたってデケえもん。ジュラシックなパークかよ。
ワニっつうか、恐竜じゃん。ファンタジー世界だから地龍って言った方がいいのか?
デカいから愚鈍かと思いきや、そこそこの速度で尻尾を振り回しやがるしよ……頭をゴチンと軽めに叩いてみりゃあ、バチンと跳ね返しやがった。
……あいつら大丈夫かな?
さらに強めに何度か叩いてみりゃあ、まあバコンと地面に顔をめり込ませて動かなくなったから……連中でも気合い入れたらいけるか。
なんたって今のあいつらと来たら、ソロでオークを捻り潰せちまうからな。
数で掛かれば連中でもワニさんの1体や2体なんとかしちまうだろうさ。
ワニの奴、生意気にも固まらずにバラけてきやがったからな。まとまってきてたら全部俺がやっちまっても良かったんだが……頼むぜお前ら、死ぬんじゃねえぞ!
……
…
主人公があまりにも強すぎると戦闘描写が書きにくい、誰が言ったかはしらねえけれど、もしも俺がその主人公とやらであるならば相当に厄介な存在だろうさ。
なんたって、強キャラ感たっぷりに現れたワニさんも俺に掛かればあっさりとぶちのめされちまうんだからな。
カメラさん、いいんですよ? 俺視点じゃなくて冒険者視点に変えちゃっても。そっちのがよっぽど熱い感じに……え? 何? もう手遅れだ? あちゃー、我々、またやっちゃいました?
てな感じのジョークを飛ばせるくらいには我々が優勢だ。現在残りのワニさんは残すところ2体。 俺も暴れまわったが、冒険者や狩人達が思った以上に頑張れたのがデカいね。
なんだよあいつら、ジャイアントキリングってレベルじゃねえぞ? わらわらと殺人蟻のように群がってさ、よってたかって武器で殴るんだよ。ありゃ斬ってるんじゃねえ、殴ってんだ。
そりゃ確かに……重魔鉄鋼でも刃が通らねえからな? しょうがねえと思うけど……まあ、ゴチンゴチンで済ませちまう俺が言えたことじゃないか。
でもさ、俺知ってんだぜ? このワニさん達が1セット目だって。
索敵でもしたのかって? 違う違う。パターンだよ、パターン。
これまでもそうだったってのもあるし、世の中そういうテンプレで出来てるんだって言うのもある。まして、どうにも何らかの意図が裏で動いてそうな大襲撃だ、そろそろ最大勢力をもって決戦に持ち込もうとするはずなのさ……っと、おでましだ。
鐘の音を聞くまでもねえ、こっからでもようく見えるぜ、敵さん達の姿がよお。
……あー……ありゃちょっとやべえかも。
……
…
フラグっていいですよね。良くねえよ! 良いフラグは甘ったるくてエッチなフラグだけだ!
「ガツ、状況は!?」
「やべえな、ミューラさんが居なかったら今頃更地だぜ」
現在我々はユーリが大工たちと作った簡易シェルターに身を隠して居る。
これは門外や村内のあちらこちらに設けられているもので、いざって時に頭上からの攻撃から身を護れるってもんなんだけれども……そのいざって時が――俺のフラグが見事に回収されてしまった。
現在村の上空を飛び回るのはワイバーンとグリフォンだ。 あいつらムカつくんだよ。
最初の内は魔術やら矢やら俺の投石やらでボチボチやれてたんだが、無駄に頭がいいみたいでな……。
途中から高度を上げ、こちらの射程外に出ちまったのだから腹立たしい。
それだけであればまだしも、連中め、上から石やらヒッグ・ホッグやらを落としてくるんだぞ? どこの爆撃機だよ! つうか昔なんかのネトゲでそんなの見たわ! ああ、くそ! ファンタジーならファンタジーらしく火でも吐きに来たらいいじゃんか!
それをお前……かわるがわる石やらなんやらを落として攻撃なんて……いやまあ投石大好きマンの俺が言えたもんじゃないですけどね。
ミー君の魔術なら届くかもしれねえが、現在彼女は絶賛結界に集中しているところだからな。
敵さんが落としやがる石ころやらはただ落としているだけじゃあなくてさ、生意気にも魔力が込められているとかで、ミー君の結界であっても、ガチで張らねえと貫通しちまうらしい。
そこまでのもんだからさあ……。
『あばばばばばばばばばば!!! やべえ! あれはやべえ! お前ら撤退! 撤退だああああ!』
と、恥ずかしながらタイトル回収しながらシェルターに駆け込んだってわけよ。
でもこのシェルターすげえんだ。1つにつき3人程度しか入れねえ狭いシェルターだけれども、それだけ頑丈でね。重魔鉄鋼ベースで作られているだけではなく、強度上昇や衝撃吸収等、様々な付与がされているため、ミー君の結界に迫る防御力を誇るんだ。
せめえけど。
これ以上広くすると強度が下がるってんだからしょうがないよな。
どうせ身を寄せ合って非難するならこんなおっさんじゃあなくて、可愛らしいお嬢さんなんかが良かったんだけど……そういう子は冒険者にしか居ねえからなあ……当然、俺と一緒になっちまうのは狩人共ってわけで、狭っ苦しいもんだから、おっさんどもの吐息がかかっちまって嫌で嫌で仕方がねえわ。
「ちょっと見てくるぜ」
「ああ、気をつけてな、ナツさん」
ずりずりとシェルターから這い出てお外の様子を見れば……あれだけ魔物を食い止めてくれていた防壁が随分とやられてやがる。
あの様子だと村も相当に……そうだ、ミー君、ミー君は大丈夫だろうか!?
『ミー君、聞こえるかい? ミー君』
念話の範囲がどれだけの物かわからないけれど、物は試しと送ってみれば――
『あ! ナツ君! 良かった無事だったんだね! こっちはなんとか……平気だよ』
若干つらそうな声ではあるけれど、ミー君が健在なようで良かった。
『わりい、今の所手も足も出ねえよ』
『アレは無理だよ……あんな高いところを飛んでたらそう簡単には届かないと思うよ』
『たまに降りてくる奴を……フッ! 少しずつやるしかないかあ』
『あ、ナツ君今やっつけた?』
『おお、よくわかったな。間抜けなグリフォンをぶち抜いてやったよ』
『さっすがナツ君……と、ごめんね、結界に集中しなきゃだから……』
『ああ、わるいなミー君。じゃあ、また後で』
『うん、今夜はシチューにするからね、ちゃんと帰ってきてね』
一時の清涼剤って奴? むさっ苦しいおっさんと密着し続けてどうにかなっちまうかと思ったが、いいですよね、念話。ミー君の声を聞いただけでむくむくとやる気が復活したよ。
おかげで間抜けなグリフォンを1体片付けられたしな……っと! やべえ!
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ナ、ナツさ……ぐぼぁ!」
シェルターにヘッドスライディングをすると同時に背後と頭上に聞こえる轟音。
砂煙がもうもうと上がり、辺りに何やら金属片が散らばっている。
あんなもん落とされたらひとったまりもねえぜ……つうかあんなもんどっから持ってきやがったんだ。
「いい加減……どいてくれるとありがてえんだけどよお……」
「ん? あ、ああ……わりい……」
甘酸っぱいエッチなトラブルとかそういう物ではない。飛び込んだ勢いでガツの胸元に頭突きをかましてそのままになっていただけでございます。
「まったく死ぬかと思ったぜ……カゴを受ける前の俺だったらきっと破裂していたぞ?」
「だからわりいって……」
しかし一体どうすりゃいいんだこの状況。
何体かは仕留めることが出来たが、今も上空にはワイバーン、グリフォンがたんまりと旋回してやがる。
しかもこれ、ローテーション組んでやがるんだぜ? 投下用の何かを取りに戻る奴と、見張る奴といるもんだから、うかつに外に出られねえし、出たところでこっちの攻撃はめったに届かない。
しかも投下される物がどうもだんだんと頑丈な、威力が高いものに変わっているような気すらする。
それに、他のシェルターの様子はわからねえが、重傷を負って逃げ込んだままの連中だって少なくは無いだろう。このままじゃあじり貧だ。
ああ、これはマジでヤベエかもしれねえ。
ズズン、ズズンと地響きが聞こえる。また何処かのシェルターか村の建物が狙い撃ちをされてしまったのだろう。
くそ、せめて非戦闘員達が、ミー君が護る集会場が護りぬければ良いのだが……。
ズズズン、ズズン、ズズン。
敵さんも本気を出したのか知らねえが、随分と投下感覚が短くなりやがった。
畜生、こうしていても仕方ねえ……腹を括るか!
「ガツ、どの道このままじゃあじり貧よ。俺は行くぜ」
「待てよナツさん! 出ていった所で……」
「男にはよ……やらねばならぬ時ってのがあるのさ……」
「ナツさん……じゃあ、俺だって……」
「だめだガツ。お前さんにゃかわいい奥さんに娘さんが居るじゃねえか。悲しませちゃいけないよ」
「けどよナツさん、あんたにだって奥さんが居るじゃねえか! 俺だって随分と鍛え……」
「わりい、ガツ」
「ヌッフ!?」
……いやほんとに悪いガツ。力加減間違えたかもしれん。まあ、致命傷じゃねえし、事が済んだらミー君に回復してもらうから……ほんとにごめんね?
気絶させようとエイ! とやったら、思いのほか強かったようでメリっと少し嫌な音がしてしまったよ。
まあ、鑑定しても『重症』と出ていないから……平気だろ……多分。
さて、遊びはここまでだ。
俺はどうやら多少頑丈らしいし、少し無茶をしたところで死なない筈だ。
アレを喰らったら実際の所どうなるかはわからねえが、俺がやらねば誰がやるよ。
「行くぜクソ共! 俺が相手……だあ?」
意を決し、外に飛び出してみれば……地に落ちる多数の魔物達の姿が。
先ほどまでの落下音は墜落した魔物達……だったのか!?
一体何がと思わず空を見てみると、そこには――
まだほのかに朝の桜色が混じる空に浮かぶ飛空艇……!
大小数隻の飛空艇からは鬼のように矢や魔術が放たれ、魔物達を地面にたたき落としている。
「ひ、飛空艇!? 一体何処から……? まさかここの国がやってくれた……のか?」
なんにせよ助かった、そう思った時である。
飛空艇から何やら光るものが2つ飛び出し、凄まじい勢いでこちらに向かってきたではないか。
それは明らかに俺を目掛けて飛翔しているらしく、避けようにも追従して位置を変えてくる。なんだよ、ホーミングレーザーか何かなのかあ!?
「み、味方かと思いきや第三勢力ってやつかよおおおおおおおおお!」
謎の光は凄まじい速度で、このナツの目をもってしても捉えきることは出来ず……そしてそれは間もなく俺の腹部へと衝突した。
「グッフゥウウウウウ!?」
「あ! ああああ! ナ、ナ、ナナナナツ殿おおおおお!!!?」
「だからいったじゃないか! えみるはまだへったくそだからやめろって!」
なんだかとても懐かしい声を聞きながら……俺は意識を手放した。




