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地に響く天の歌 〜この星に歌う喜びを〜  作者: 春日千夜
第2部 旅の一座 【第6章 二人のハーモニー】
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76:二人のお祭り1

前回のざっくりあらすじ:ニースはセラと仲直りした。

 セラの誕生日は、穏やかな秋晴れとなった。グスタフは自分の部屋で朝早くから、ジーナとマルコムに話をしていた。グスタフの話を聞いて、ジーナは怒りに肩を震わせ、立ち上がった。


「そんなの、断れば良かったでしょう⁉︎」

「ジーナ、本当にすまない! だが、仕方ないんだ。分かってくれ!」


 床に額を擦り付けるようにして謝るグフタフだったが、ジーナは腕を組み、仁王立ちで睨みつけた。


「信じられないわ! なんでよりによって今日なのよ! セラちゃんのお祝いは、どうするのよ⁉︎」


 ひたすら謝り続けるグスタフだが、ジーナの怒りは止まらない。ジーナのあまりの剣幕に息を潜めていたマルコムだったが、小さくため息を吐き、声を挟んだ。


「ジーナ、そろそろ許してやれよ。それに、せっかくの()()だ。ニースとセラちゃんのデートに出来るんじゃないか?」


 マルコムの言葉に、ジーナの眉がぴくりと動いた。


「二人のデート……」


 怒りに歪んだジーナの顔は、ニヤリと不敵な笑みに変わった。


「それはいいわね……。二人をくっつけるには、ちょうどいいわ」


 キラリと怪しく目を光らせるジーナを見て、グスタフは慌てて立ち上がった。


「お、おい、ジーナ。二人はもう仲直りしたと、メグが言ってたぞ。もうそれでいいわけで……」


 ジーナがギラリと、鋭い目をグスタフに叩きつけたので、グスタフは最後まで言いきる事が出来なかった。蛇に睨まれた蛙のように、グスタフはしゅんと肩を落とした。


「わかりました……」


 グスタフの返事を聞いて、満足げにジーナは頷いた。


「そうと決まれば、早速計画を立てましょー!」


 いつもの明るさを取り戻したジーナの声に、マルコムは苦笑いを浮かべ、グスタフは青ざめた。


 明るい朝日に照らされた町では、これまでどこにいたのかと思うほど、たくさんの人々が活気にあふれて動き出した。朝食を食べに、ニースがラチェットと部屋を出ると、セラとメグに会った。ラチェットは穏やかに、二人に声をかけた。


「おはよう、二人とも。セラちゃん、お誕生日だね。おめでとう」

「ありがとうございます!」


 喜ぶセラを見て、ニースは微笑んだ。


「おめでとう、セラ」


 セラは頬を赤く染めて、にへらと笑った。


「ありがとう、ニース」


 窓から差し込む朝日に照らされて微笑み合う二人は、キラキラと輝いて見えた。ラチェットとメグは、二人の姿に目を細めた。


「仲直り出来て良かったわ」

「そうだね。お疲れ様、メグ」

「ラチェットも、お疲れ様」


 四人は和やかに会話をしながら、久しぶりに同じテーブルを囲んだ。小さな宿の朝食は簡単なもので、毎朝ほとんど変わりがない。籠に盛られたパンに、野菜の入った日替わりスープ。それから、ジャムとチーズという簡単なものだ。食事の内容はいつもと変わらないはずなのに、ニースには、ずっと美味しく感じられた。

 楽しく朝食を食べながら、メグはグスタフから聞いた話を、ニースたちに話して聞かせた。ニースは食事の手を止めて尋ねた。


「お祭り?」

「そうなの。昨日雨が上がったから、秋祭りをやるらしいわ。お父さんが夜遅くに帰ってきて、言ってたのよ」


 セラは、パンにたっぷりと赤い林檎ジャムを塗りながら、キラキラと目を輝かせた。


「どんなお祭りなんですか?」


 メグは、いたずらっ子のような笑みを浮かべると、一転して、ふっと目をすわらせ、表情を暗くした。


「それがね……お化けのお祭りらしいわよ……」

「ひっ……」


 おどろおどろしいメグの声に、ニースはテーブルにパンを取り落とした。ラチェットが苦笑いを浮かべてパンを拾い、表面を払った。


「メグ、そんなに驚かせちゃダメだよ」

「ふふ。ごめんね、ニース」


 メグは楽しそうに笑うが、ニースは、おどおどしたままだ。ラチェットは、カタカタと小さく肩を震わせるニースの前に、新しいパンの入っている籠を寄せた。


「お化けって言っても、お化けになるのはニースたち、子どもなんだよ。だから驚かされるのは、僕たち大人の方。そんなに心配しなくて大丈夫だよ」


 ラチェットが、拾い上げたパンを口に放り込むのを見て、ニースはごくりと唾を飲んだ。


「ほ、本当ですか? でも、なんでぼくたち子どもが、お化けになるんですか?」


 メグが温かなスープを飲み、ニースに答えた。


「冬になると、寒さで体調を崩して亡くなる人が多いから、病魔を寄せ付けないために、子どもに仮装させるらしいわ。子どもをお化けだと思わせて、手を出させないようにするんですって。面白いわよね」


 セラはパンを食べ終えると、また一つ手にとって、真っ赤なジャムをたっぷりつけながら、メグに尋ねた。


「でも、それでどうして、お祭りで大人を脅かすんですか?」

「町の色んな所から現れる、お化けの子どもたちに慣れて、大人は病への抵抗力を身につけようってことらしいわ。これも変わった風習よね」

「そうなんですね」


 セラは頷くと、ジャムを塗ったパンをニースの皿に乗せた。ニースは、ほっと胸をなでおろした。


「ありがとう、セラ。……そのお祭りって、町中でやるってこと?」

「そうよ。夕方から夜にかけてやるみたい。鐘の音を合図に、子どもたちが大人を脅かして回るんですって。それで日が沈んだら、町の広場で踊るそうよ。楽しく騒いで、病魔を追い払うってことらしいわ」


 ニースは、パンを千切りながら首を傾げた。


「そうなんだ。じゃあセラのお祝いは、いつやるの?」


 メグはカップを置いて、肩をすくめた。


「それが問題なのよ。夜の踊りの時に演奏してほしいって、お父さんが頼まれちゃったみたいでね。朝になったらマルコムと相談するって言ってたけど……。たぶん今頃お父さんは、お母さんに怒られてると思うわ。今日は珍しく、お母さんが早起きだったから」


 ニースは、怒るジーナの姿を思い浮かべ、ぷるりと身を震わせた。恐怖を誤魔化すようにパンを口に入れると、パンは甘くて美味しかった。しかし口元に付いたジャムは血糊のように赤く、口を拭ったニースは小さな悲鳴をあげた。


 ニースたちが食後のお茶を飲んでいると、マルコムがやってきた。


「お、みんないるな。セラちゃん、お誕生日おめでとう」

「ありがとうございます、マルコムさん」


 セラが微笑みを返すと、マルコムは厨房から朝食を乗せたトレイを受け取り、隣のテーブルについた。


「いやあ、ジーナには敵わないな。あんなにグスタフが小さく見えたのは、久しぶりだよ」


 おどけたように肩をすくめるマルコムに、ラチェットは苦笑いを浮かべた。


「マルコムさん、それで座長はどうするんですか? セラちゃんのお祝いは?」

「それなんだがな。祭りの舞台に、俺たちも出ることになった」


 メグが驚き、目を見開いた。


「え⁉︎ どういうこと⁉︎」

「まあ、落ち着けお嬢。これはジーナの発案だ」


 マルコムの言葉に、さらにメグは混乱した。


「意味がわからないわ。お母さんがそんなことを言うなんて」


 マルコムは、はははと笑った。


「お嬢の言うことも、もっともだよなぁ。だが、本当の話だし、安心していい。舞台が終わったら、すぐにセラちゃんのお祝いをするから」


 マルコムが、セラにパチリと片目を瞑ると、セラは嬉しそうに頬を緩めた。


「ありがとうございます。楽しみにしています」


 マルコムはセラに頷くと、ニースとセラの顔を交互に見た。


「それで、二人にはちょいと頼みがあるんだよ」


 マルコムの言葉に、ニースは首を傾げた。


「頼み……ですか?」

「ああ。新しい歌は、もう完成してるんだろう?」


 マルコムがラチェットに尋ねると、ラチェットは戸惑いながら頷いた。


「ええ。完成はしてますが……もしかして、祭りで歌わせるんですか?」

「ああ。二人にも、一曲歌ってもらおうって話になってな」


 ラチェットは、気遣うようにちらりとニースに目を向け、小声でマルコムに尋ねた。


「ですが、まだ歌い手は狙われてるんじゃ……」

「そこは心配ない。ちゃんと考えがある。それに、ただ歌うだけじゃなくて、新しい手品も加えることにした」


 マルコムの言葉に、メグが訝しげな目を向けた。


「新しい手品って、まさか、私たちが練習していた……?」


 マルコムは、ニヤリと笑みを浮かべた。


「ああ、そうだ。というわけで、朝食が終わったら、すぐに準備を始めるぞ。ニースとセラも、覚悟しておいてくれ」


 ニースとセラは、不思議そうに顔を見合わせたが、ゆっくり頷きを返した。メグとラチェットが不安げに顔を歪める中、マルコムは黙々と朝食を平らげていった。


 午前中のうちに、公演の準備と手品の練習を終えたニースは、ジーナの部屋へ向かった。ニースが扉を叩くと、ジーナは笑顔で部屋から出てきた。


「ニースくん、待ってたわー。はい、これ。ちゃんと出来てるわよー」


 ニースは、セラのクリーム缶と同じ、小さな銀色の缶をジーナから受け取った。ニースが蓋をかぱりと開くと、中には花の香りのする乳白色のクリームが、ぎっしり詰まっていた。


「ありがとうございます、ジーナさん」


 ニースが缶を懐にしまい、微笑むと、ジーナはひらひらと手を振った。


「いいのいいのー。無くなったら、いつでも私が足せるから、セラちゃんに伝えておいてねー」


 ニースは、ぺこりと頭を下げると、マルコムの部屋に向かった。マルコムも、ニースがやってくると笑顔で部屋に迎え入れた。


「もらってきたか?」

「はい、マルコムさん」


 ニースは、懐から缶を取り出した。マルコムは、テーブルの上にニースが彫った木板と、ニースが磨いた蛍石の首飾り(ペンダント)を置いていた。


「ちゃんと紐はつけておいた。これでいいか?」


 ニースは首飾りを手に取って、しげしげと眺めた。


「はい。大丈夫です。……セラ、喜んでくれるかなぁ?」


 不安げに呟くニースの頭を、マルコムがくしゃりと撫でた。


「大丈夫だ。俺が今まで見た、どんな蛍石の首飾りより綺麗に出来てる。きっとセラちゃんも気にいるさ」


 ニースは、マルコムを見上げて微笑んだ。


「そうだといいんですけど」


 ニースは、そっと首飾りを置くと、用意したプレゼントをマルコムに手伝ってもらいながら、綺麗な紙で包んだ。最後に艶やかなリボンで結び、立派な包みが出来上がった。


「しっかり渡せよ、ニース。()()()を忘れずにな」


 ニースは、きりりと表情を引き締めて、しっかり頷いた。


「はい。頑張ります」


 ニースは包みを懐にしまい、部屋を出た。マルコムはニースの後ろ姿を、ニヨニヨと笑みを浮かべて見送った。


 昼食を終え、ジーナの部屋に呼び出されたニースとセラは、困惑していた。セラは、震える声でジーナに尋ねた。


「あの……ジーナさん、本当にこれを着るんですか?」


 ジーナは、当たり前だといわんばかりに笑顔を浮かべた。


「もちろんよー。そのために、大急ぎで作ったんだからー」


 ジーナの言葉に、ニースは顔を引きつらせた。


「ジーナさん……。今日はセラの誕生日なのに、どうしてぼくまで?」


 ジーナは当たり前だと言わんばかりに、ニースの肩に手を置いた。


「それはもちろん、お化けの仮装が必要だからだけどー。それとは別に、可愛いからよー!」


 ニースに向けられたジーナの目には、強い意志が込められていた。ニースは逃げられない事を悟り、がっくりと項垂れた。ニースの目は、死んだ魚のようになっていた。

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