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地に響く天の歌 〜この星に歌う喜びを〜  作者: 春日千夜
第2部 旅の一座 【第6章 二人のハーモニー】
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★[幕間劇〜とあるスパイの話]最終回

お話の区切りとして、コメディ色強めの幕間劇を、今回も書きました。

読み飛ばしていただいても、本編ストーリーの進行に問題ありません。

 街道を走る馬車がガタゴトと揺れる。布を被せられた暗い鳥籠の中で、一羽の白い鳥が目を開けた。その鳥の右目は深い青色で、左目は澄んだ緑色の瞳だ。

 彼の名はバード。彼はただの鳥ではなく、優秀なスパイである。バードは、キョロキョロと辺りを見回すと、集中するように目を閉じた。


「こちらバード、こちらバード。エクシー、エクシー。応答ねがいます」

「こちらエクシー。バード、時間通りだな。様子はどうだ?」

「ニースは無事に皇都を出たよー。皇国の偉いおじちゃんに勧誘されたけど、断ったみたいー」


 バードは優秀なスパイである。バードの通信は、脳内でテレパシーのように行われているため、周りに聞こえることはない。


「そうか。それならしばらくは大丈夫そうだな。次に例の子どもが長く滞在する町がわかったら、すぐに連絡をよこせ。例の子どもを()()するぞ」

「そっかー。俺っちのこの旅も、これで終わりかー」

「どうした、バード。嬉しくないのか?」


 バードは優秀なスパイであるが、いまは手品の助手もしている。それに以前とは違い、バードは愛しのココとも連絡が取れるのだ。バードは今の生活を、存外気に入っていた。しかしバードは、ココから口止めされているため、それをエクシーに言うことはなかった。


「そんなことないよー。嬉しいよー。だって、ココとデートさせてくれるんでしょー?」


 バードは一羽の恋する鳥である。好きな子との約束の方が、何倍も大事なのだ。バードは、今の楽しい生活を振り切るように言ったのだが、エクシーの答えは何とも歯切れの悪いものだった。


「いや……うん、まあ、そうだな……」

「エクシー、どうしたの? 全くやる気が感じられないよー」

「ああ。うん……。まあ、お前はココのことしか頭にないからな。隠しておくわけにもいかないか。……はぁ」


 ため息を吐くエクシーに、バードは首を傾げた。


「ちゃんと言ってよ、エクシー。ココに何かあったの?」

「バード、落ち着いて聞けよ」

「俺っち、いつも落ち着いてるよー!」

「わかった。じゃあ、言うぞ。……ココは逃げた」

「……え?」

「だからな、バード。ココが、全ての通信回線を断って、消えたんだ」

「えぇぇぇぇ⁉︎」


 突然馬車が急停止し、思わずあげたバードの叫びと同時に、鳥籠がガシャンと大きな音を立てた。バードの叫びはくるっぽーと響いたが、それ以上に馬車の中は騒がしかったので、気づかれる事はなかった。


「なんで? なんで? なんでなんでなんでー⁉︎」

「落ち着け、バード。俺にもさっぱりわからん。ちゃんと()()出来てたはずなんだが……」

「そんな! ココが! ココが消えたなんて!」


 バードは一羽の恋する鳥である。好きな子の事が心配でたまらなくなっても、仕方ないのだ。


「いまはフォーゲルが追っているが、なかなか見つからないんだよ。もし、お前にココが接触することがあったら、すぐに知らせろ」

「え……。あ、ああ。うん。わかった。でも、エクシー。ココを捕まえたら、どうするの?」

「それはお前、もう一度……いや、まあ、もちろん、説得して戻ってもらうさ」


 バードは優秀なスパイである。エクシーが言いかけた()()()()()を聞き逃しはしなかった。


「そうか。わかった。安心したよー。じゃあ、何かわかったら、すぐ連絡するねー」

「バード、頼りにしているぞ。やっぱりお前は優秀だな」

「俺っち、天才だもーん!」


 バードは優秀なスパイである。たとえ、心中穏やかでなかったとしても、好きな(オンナ)を守るためなら、いくらでも演技は出来るのだ。


「ははは。そうだな、バード、お前は優秀じゃなくて、天才だよ。例の子どもを()()したら、ココ以上に良い相手を紹介してやろう。しばらくは俺も忙しい。定時連絡はしなくていいから、長期滞在する町と、ココのことだけ忘れるな」

「やったー! りょーかいだよ、エクシー! 俺っち、頑張るから、頼むねー!」


 エクシーが通信を切ると、バードは目を開いた。


 ――ココ以上の素敵な子なんて、いるわけないのに! エクシーのバカヤロウ! 俺っち、信じてたのに!


 バードは優秀なスパイであるが、涙を流す()()はついていない。しかしきっと、感情豊かな人間であったなら、ぽろり、ぽろりと涙が出ていただろう。涙も流さず、表情も変わったようには見えないが、バードは真剣に考えていた。


 ――ココとのラブラブスイートな生活のために! ココと駆け落ちするぞー!


 バードは一羽の恋する(オトコ)である。あまりのショックで、まだココに片思いであることをすっかり忘れ、考えが飛躍しすぎても仕方なかった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ガタゴトと馬車が揺れる。バードは鳥籠の中で目を閉じ、座っていた。バードは悩んでいた。ココとの()()()()()を成功させるために、どうしたらいいのか考えていたのだ。


 ――どうしたらいいのかなー。俺っちまで、いきなり回線切って逃げたら、絶対にまずいし……。それに、()()されないように、うまく誤魔化す方法見つけないとなー。


 すると、セラが鳥籠の布をめくった。


「バードちゃん、つまんないね」

「なんだよ、セラっち。どうしたんだ?」


 バードは一羽の鳥である。バードの声は、セラにはくるっぽーとしか聞こえなかった。


 バードは鳥籠を出ると、メグの肩に止まった。メグがバードを撫でるので、バードは目を細めた。


 ――そういえば、相方もここのところずっと落ち込んでるよなー。ニースっちといい、相方といい、みんなどうしちゃったんだろー?


 バードが考えていると、セラがバードを呼んだ。バードは考えにふけりながらも、羽ばたき飛び上がる。すると、何かが翼に当たった。


「ああっ!」


 バードが見おろすと、メグが慌てて床にへばりつき、長椅子の下の隙間に、必死に手を伸ばしてるのが見えた。


 ――メグっち、どうしたんだ? ああ、メガネっちからもらった髪飾りを落としたのかー。ごめんよ、メグっち。今探すからー。


 バードはそのまま棚に乗り、目を瞑った。バードは優秀なスパイである。物陰に隠れた物も()()事が出来るのだ。


 ――えっと、髪飾り……って、うわ! 何これ! この椅子の下って、魔窟なの⁉︎


 バードは驚いた。椅子の下には多数の髪飾りの反応があったからだ。騒ぐメグたちを尻目に、バードはひとつひとつ確認していった。


 ――これも違う、これも違う、これも違う……多すぎでしょー!


 呆れながら髪飾りを探すバードの()に、ふと、とある物の()()が映り込んだ。


 ――これって……使えるかも!


 バードが発見に喜ぶうちに、セラがメグの髪飾りを拾い上げていた。バードは、胸に手を当てて俯くセラの肩に止まると、頬をすり寄せた。


「必殺! バードおねだり! 頼むよ、セラっちー。あそこにある、アレも取ってくれないかなー?」


 バードは一羽の鳥である。バードの声は、くるっぽーとしかセラには聞こえない。バードの願いが通じることなどないのだ。

 しかし、ジーナはバードの言葉がわかるのだろうか? バードをむんずと掴むと、ぐいぐいと椅子の下に押し込んだ。


「え⁉︎ 自分で取れってこと⁉︎ まあ、いいけどさー。俺っち、息してないから埃っぽくても平気だけど、ほかの鳥にこんな事させるなよー?」


 バードは真っ直ぐ、目的の品……ぺしゃりと潰れた鳥のぬいぐるみに近づくと、こっそり腹の中に二つ入れた。バードは一羽の鳥であるが、胃袋はついていない。代わりに、収納スペースが腹部についているのだ。中綿が抜けたぬいぐるみは、ちょうどバードの腹に収まった。


「ジーナっち、ありがとねー。俺っち、これでココと逃避行出来……え? なに? 違うの?」


 用事を済ませたバードを、ジーナは逃さなかった。バードはジーナの意図を汲み取り、埃まみれになりながら、ジーナのために働いた。バードに鼻はないが、心の中でくしゃみが出るほど、バードは埃にまみれた。



 ◆◇◆◇◆◇



 バードは宿の中にいた。マルコムがほとんど部屋にいるので、バードも部屋の中で自由に飛び回っていた。


「相方、すっかり元気になったみたいでよかったなー」


 バードは心優しい鳥である。ココとの逃避行で悩みつつも、落ち込んでいたマルコムのことを、少しは気にしていたのだ。


「バード、お前もしかして、卵でも抱えてるのか? 飛び方が重そうだな」

「相方、何言ってるんだよー。俺っち、(オトコ)だよー? まあ、雌だったとしても、卵は産めないけどねー」


 バードは、未だ椅子の下から入手した潰れたぬいぐるみを腹に入れていた。バードは優秀なスパイである。()()が整うまで、きちんと隠しておかなければならないのだ。

 するとそこへ、ニースが部屋を訪ねてきた。


「マルコムさん、こんばんは。今日もよろしくお願いします」

「おう。ニース、待ってたぞ。頑張れよ」

「ニース! 今日も頼むよー! 俺っち、まさかニースがアレを持ってくるなんて、思わなかったよー!」

「ふふ。バード、くすぐったいよ。遊ぶのは、これが終わってからね」


 バードは一羽の鳥である。感極まって、ニースにすり寄ってしまうのも仕方ないのだ。バードは、石を磨くニースの周りを歩きながら、こっそり石のカケラを啄んでいった。


 ――これだけあれば、俺っちのこれと混ぜて……よし、できた!


 バードは気づかれないように、そっと部屋の隅に行くと、腹の中から潰れたぬいぐるみを二つ出した。そして、鳥籠から集めておいた抜けた羽を中に詰め、破れた箇所をしっかりと()()する。最後に、ニースが落とした石の欠片で作った物を、ぬいぐるみの目にしっかりつけた。


 ――これで完璧だー!


 バードは喜んで部屋を飛び回った。


「ん? バード、ずいぶん軽そうだな。お前、どこかで卵産んだか?」


 マルコムが卵を探し出したので、バードは慌ててぬいぐるみを隠した。



 ◆◇◆◇◆◇



 バードは、祭りの舞台にいた。ニースとセラの出番が終わると、いよいよバードの出番である。しかしバードは、優秀なスパイである。自分が最もしなくてはならない()()を、忘れることなどないのだ。


 ――これが終わったら、うまく鳥籠から抜け出さないとなー。


 バードは、颯爽とマルコムの絹布から飛び出すと、大人しく鳥籠に入った。するとジーナが、鳥籠を舞台裏手へ運んだ。


「ジーナっち、ありがとねー。俺っち、この後ちょっとだけ抜けるけど、すぐ戻るから心配しないでー」


 バードは一羽の鳥である。バードの声は、ジーナにはくるっぽーとしか聞こえなかった。


「バードちゃーん。もう少し静かにしててねー」


 ジーナが布をかけて立ち去るのを確認すると、バードはこっそり籠の鍵を開けて抜け出し、馬車の屋根に隠していたぬいぐるみを掴んだ。


 ――どの人にしようかなー。あ、あれ、ニースたちだー。


 バードの目に、金魚すくいを楽しむニースとセラの姿が見えた。バードは、そっと屋台の屋根に舞い降りた。


 ――このおっちゃん、旅してるっぽいなー。よし、おっちゃん! 君に決めた!


 バードは、ニースたちにかかりきりの店主の目を盗み、店主の荷物の底に、小さな穴を開け、器用にぬいぐるみを二つ押し込んだ。


 ――ちょうど二重底になってて助かったー! これなら、気づかれずに皇国中を回ってくれるはずー。


 バードは丁寧に穴を塞ぐと、再び屋根の上に飛び乗った。


 ――あとは、おっちゃんが次にどこの町にいくのかがわかればいいんだけど……。


 バードがヒントを探そうと見回すと、隣のくじの屋台の店主が、ニースたちを見送った店主に声をかけた。


「お前さん、なかなかアコギな商売するなぁ。そのポイ、壊れやすくしてあるだろ?」

「へっ。何いちゃもんつけてんだよ。お前んとこのくじだって当たりなんざ入ってねぇだろうがよ」


 ――うわーヤバイよー! ケンカされたら俺っちの計画がー!


 焦るバードの予想と違い、二人はがっしり握手をした。


「お前、わかってんじゃねえか。次はどこの町で稼ぐ気だ?」

「俺は皇都に行くぜ。今あそこは景気がいいからなぁ」

「十日後の祭りに間に合えば、荒稼ぎ出来そうだもんな」

「おうよ。俺はそれが目当てでな。……おっと、お客さん、金魚すくいはどうだい?」


 ――おっ! ナイスおっちゃん! 皇都ならバッチリだよー!


 バードはそっとその場から離れる。薄暗い木の上に止まると、通信を始めた。


「こちらバード、こちらバード。エクシー、エクシー。応答ねがいます」

「お電話ありがとうございます。こちらは、技術研究本部……」

「あちゃー。もうエクシー帰ってるのか。確かこの前ようやく娘っちが生まれたって言ってたもんなー。メッセージだけ残しておこっかなー」

「ピーという発信音の後に、メッセージを録音してください。……ピー」

「バードだよ、エクシー。ニースたち、なんか急に皇都に呼び出されたみたいで、皇都に逆戻りするってー。それから、俺っちにココから助けてって連絡きたよー。ココにも皇都に行くって伝えてあるから、後はよろしくねー」


 バードは録音を終えると、通信を切った。


 ――よーし。これであとは、アレを起動させればおしまーい! これでココとラブラブだー!


 バードは上機嫌で再び鳥籠に戻った。バードがその後、エクシーに通信を行うことは、二度となかった。



 ◆◇◆◇◆◇



 アウクリシウムを出た馬車の鳥籠で、バードはココと極秘回線で通信を行なっていた。


「バード、本当に大丈夫?」

「安心していいよー、ココ。相方はすごくいい奴なんだー。きっとココのことも迎え入れてくれるよー。ニースの行方をエクシーはもうわからないし、ニースが音楽院に行っても、相方たちは旅を続ける。だから、俺っちたちが隠れるには、ちょうどいいと思うんだー」

「ありがとう、バード。それじゃあ、聖皇国に着いたら、あなたのところに行くわ」

「うっひょー! ほ、ほ、本当にー⁉︎」

「ええ、もちろん。よろしくね、バード」


 バードは、叫びたい気持ちを必死に抑えた。


 ――嬉しい! 嬉しい! ついに、俺っち、ココと結婚出来るー!


 バードは一羽の恋する鳥である。ココは結婚するなど、一言も言っていないが、あまりに嬉しくて考えが暴走しても仕方ない。歓喜に震えるバードを乗せて、馬車はゆっくり走っていった。


 ――――――

 これにて、バードの幕間劇は終了です。今後は本編にて、バードの活躍をご覧ください。

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[一言] あぁ、バードの話が終わってしまった…… いやもう、かなり笑かせてもらいました。 バードの話、結構好きです!
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