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8.告白②

大リニューアルと宣伝されたお化け屋敷は、

「ハリウッド仕込みのゾンビたちがあなたをお出迎え」

と入口のポスターでうたっていた通り、リアリティーたっぷりで決して誇大広告ではなかった。


3人並んで座ったカートだったが、怖いと声も出ないようで、

久志も臣も二人とも声はほとんどなかった。

しかも、真ん中に座った臣にずっと握られていた俺の左腕には

臣の手跡がくっきりと内出血の形で残っていた。

その臣は、久志からずっと抱き着かれていて、


俺はほんっとうに、羨ましかったよ・・・臣・・・。


出口から数歩出たところで、2人とも足元がふらふらな状態だ。

まぁ、かわいいけどね。


「2人とも、大丈夫か?」

「・・・へ、平気だ・・・」

「仲居は?」

「・・・」

「ゆっくり座れるし、ちょっとフードコート行くか?」


へっぴり腰の2人とともにゆっくりと歩を進めていると、

途中で30分待ちのジェットコースターの列にいる

里中と黒岩さん、引田と田中に会った。


「おう、葉、これすごい面白いぜ。俺たちもう2回目なんだ。お前らも乗らない?」

「はは。後で乗るよ。お化け屋敷も良かったよ。後で、行ってみるといい」

「ああ、あれも今回リニューアルオープンだったよな。田中、後で行こうぜ」

「はい、はい。でも、ほんとに面白いみたいだね。彼ら真っ青だよ」


田中が側のベンチに座ってしまった久志と臣をみて面白そうな顔をする。


「まあね。悪くはなかったよ。で、里中? なぜ俺の目を見ない?」

「ええっ! いやあ、今日はよい天気だな~」

「やっぱり、会長にばらしたのは里中だったのか」

「あ~、ごめん。だって引田が部活ですっごく自慢するからさ~。

昨日、生徒会室で俺も行きたいな~って愚痴ったら、会長がじゃあ行くかって」

「軽いだろう」

「俺の口? それとも、」

「会長の行動だ」

「そんなのいつもだし。あの人、思ってからの行動がすごく早いんだよ。

だからずっと会長なんじゃん」

「あと、お前の口もね」

「そうだぞ、軽いよ~、葉に謝れよ~」

「いや、引田もだから」


てへっっ、じゃない。

食堂で散々、誰にも言うなよと口止めしたよな。


「葉、あの2人放っといて大丈夫?」


田中と黒岩さんが心配そうにベンチに沈む2人を見ている。


「ああ、今からフードコートに連れていくから。

田中たちも乗り終わったらおいで。混むから少し早めに昼にしよう」

「「「「了解~」」」」


気持ちのよい返事を後ろ手に、ベンチに沈むゾンビ2人に向かった。


「紅林、仲居、そろそろ行くぞ。なにか、飲み物でも飲んだほうがいい」

「・・・わかった、久志、立てるか?」

「・・・」


うん? そんなにひどかったか。小さいときより感受性が付いた分、

怖さが倍増したかな。

ふふ。やっぱりかわいいな。


「仲居、おんぶしようか?」

「! う、うるさいっ!」


顔を真っ青から真っ赤にしながら、ふらふらと先に行ってしまった・・・。


「葉、お前ばかだろ」

「仲居、かわいいな~」

「っ、お前にはやらん!」


いや、それ俺のセリフだから。

お前のじゃないから、久志は俺の息子。俺のなの。


「紅林と尾辻くんは、まるで前からの知り合いみたいだね」

「会長・・・」


どっから湧いてきたのか、園井、剣野、早瀬の2年生の3人組がいた。

おれは臣に目で先に行けと合図し、臣が久志を追った。


「不思議な人だね、君は。引田くんと田中くん。

それに紅林と仲居。彼らはもともとすぐに警戒をとく子たちではないんだけどね」

「ああ、俺もそれは思った。尾辻は人たらしだよな」


副会長の剣野は毒舌タイプだ。

園井が優しいタイプに見せているから、

そこそこよい組み合わせとなっているみたいだ。


そして、剣野に同意するように会計の早瀬が頭をぶんぶんと縦に振っている。

この早瀬は、どちらかというと見かけはかわいい系だ。


今日の10人の中では、黒岩さんより少しだけ背は高いけど、

女装すると絶対女性にしかみえないような容姿と骨格をしている。しかし、目が鋭い。

いや、特に今日の俺に厳しくないかこの目。


「いい方がひどいですよね、

俺がまるで二股も三股もかけているように言うのやめて下さいよ」

「まるでじゃない。弥生もたらしてる」

「え?」


早瀬の言葉に、驚く。弥生って黒岩さんのことじゃなかったか?


「黒岩弥生は早瀬の従妹だからな。尾辻、気をつけろよ。

早瀬はこんな見かけだが、古武術の有段者だからな」

「ちょ、早瀬さん。それ、ないですから。たらしてないから!」


さっきから、早瀬の視線が痛かったのはこういうことか。

古武道術なんて冗談じゃない。

あれって、相手の力を利用して倒したりするやつだったか?

怖すぎるな・・・。


「へぇ、すごいね。たらしてるんだ。俺もその中に入れてほしいな」

「・・・会長、まじ、勘弁してください」


園井、あんたマジで笑えない。

目が笑ってないから。


ほんと、無理だこれ。

俺の癒しのところに行こう・・・。


「葉! 遅いじゃん。 もうランチ注文しちゃったぜ、おれら」

「引田・・・いつの間に・・・」


会長たちも連れて(不本意だが)フードコートにいくと、

まだ昼前ということもありテーブルは7割ぐらいの人で埋まっていた。


引田たちは久志と臣と一緒に、10人全員座れるテーブルを無事確保していてくれた。


ただし、引田の前にだけ、特大のかき氷、それに手には抹茶のアイスクリームもある。


「引田、昼飯前によく入るな」

「大丈夫だ。葉の弁当で鍛えられたから」

「俺が腹の容量を大きくしたような言い方だな」

「違わなよな? 田中」

「そうだね。違わないね」

「田中・・・俺、責められてる?」

「別に責めてはないけど、引田をどこまで太らせるつもりかなって」

「え? 俺、太ってないよ。ちゃんとバスケで消費してるし」

「今はまだ暑いから消費しやすいけど、冬になったら絶対太るから、お前」

(ああ、う~ん。その時はもう俺はいないからとは言えないしな・・・)

「ええと、善処します」

「うそ。俺、葉の弁当食べられなくなるのは嫌だ」

「なら、お前の弁当を葉に食べてもらって、

葉の弁当をお前がもらえばいいだろう。

引田が、どっちも自分で食べるから、葉は少食のままじゃん」

「む~ん」

「考えるところじゃないし。葉のこの細さ見ろよ。前よりひどくなってない?」

「いや、俺、夏はいつもこんなだし。冬になったら太るから、ちょうどいいんだよ」

「・・・本当だろうね」

「ふふ、田中、俺の母親みたいだね。大丈夫だよ。

ほんとだから。昔から夏には胃が弱るんだ」

「・・・中年のオヤジみたいだな」

「聞こえてるから、紅林」


鋭いな、臣。


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