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第18話 記事

 翌朝。


 目が覚めてから、しばらく天井を見つめていた。

 昨日のことが頭から離れない。


 先週からずっと、黒崎家に会って話したいと思っていたのに、いざ顔を合わせると何も聞くことができなかった。


 どうやって家の中に入ったのか。何を伝えようとしているのか。


 そして――


『三人目、ですかね』


 この言葉がずっと頭に引っかかっていた。この言葉が何を指し示しているのか。黒崎家があそこまでして俺に構うのはなぜなのか。


 新たに生まれた疑問で俺の心は埋め尽くされていった。



 布団から起き上がり、枕元のスマホを手に取る。


 時刻は9時。

 せっかくの休日だが、今日はゆっくりしている気分ではない。何かをしていないと、昨日のことを考えてしまいそうだ。


 でも、俺が一人で考えたところで何か状況は変わるだろうか?


「よし……」


 俺はスマホでメッセージアプリを開き、フリック入力を始める。



【湊斗】

 おはようございます。朝早くすみません。

 少しお話ししたいことがあるのですが、いつなら空いてますか?



 休日の朝、そう簡単には返事は返ってこないかと思ったが、スマホをテーブルに置いた瞬間、通知オンが鳴った。



【紘一】

 おはようございます〜

 いつでも大丈夫ですよ。今日と明日は丸々空いてるので。



 メッセージの送り先、それは結城さんだった。

 他に頼れる人もいないので、ダメ元で頼んでみてよかった。



【湊斗】

 分かりました。

 今日の14時にまたお伺いしても良いでしょうか?


【紘一】

 はい、お待ちしています



 軽快にメッセージをやり取りし、午後の予定もスムーズに決まった。


 そうと決まれば、色々と準備をしなくては。


 俺はゆっくりと立ち上がり、洗面台へと向かった。



 午後2時前、先週来た時と全く変わらない重厚な門を通り、インターホンを押す。


「こんにちは、清水です」


『あ、どうぞー!』


 インターホン越しに伸びやかな声が聞こえた。


 俺がガチャと玄関の扉を開けると、ちょうど結城さんが玄関まで歩いてきた。


「すみません、突然連絡して」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ。さぁ、どうぞ奥に」


 前回と同じ奥の書斎に通される。


「それで、話って何でしょう? 黒崎家についてですか?」


「はい、そうなんです」


 結城さんに言われ、ソファに腰をかける。


「実は、昨日、黒崎家に会えました」


「あぁ、会えたんですね。良かったじゃないですか」


「ただ、また……」


「家の中に、いたんですか?」


「は、はい」


 結城さんは一つ息をついて、ゆっくりと話し出した。


「……それで、何か話せましたか?」


「いえ、話そうと思ったんですけど、その、恐怖が勝っちゃって」


「……」


「ただ、ちょっとだけ気になることが……」


「気になることですか?」


「はい、ケンジさんが言ってたんですけど、『三人目』って言われて」


「『三人目』か……」


「何か思い当たることありますか?」


「ちょっと待ってくださいね」


 そう言って結城さんは、後ろの棚から分厚いファイルを取り出した。


「清水さんは、前に住んでた方について何か知ってますか?」


「あぁ、ちょっとは調べてみたんですけど、他殺だったってことしか……」


 結城さんはファイルの中から一枚の紙を取り出した。


「実はあの事件についての記事を残してたんです」


「え、本当ですか」


「これがその記事です」



―――――――――――――――


【自宅玄関で男性死亡 殺人容疑で捜査】


 22日早朝、◇◇市〇〇町の住宅で、この家に住む会社員の前田翔馬さん(32)が死亡しているのを、訪ねてきた知人男性が見つけた。


 〇〇警察署によると、前田さんは住宅の玄関付近で倒れており、胸部には刃物による傷があった。同署は何者かに襲われたとみて、殺人事件として捜査している。


 知人男性は、前田さんと連絡が取れなくなったことから自宅を訪れたという。


 現場は◇◇市中心部から約5キロ離れた住宅地。警察は前田さんの交友関係や事件当時の状況などを調べているが、これまでに容疑者の逮捕には至っていない。



―――――――――――――――



「3年前ですかね。あの時はそこそこの騒ぎになりましたよ」


「結構ニュースになったんですか?」


「そうですね……事件の直後は結構騒がしかったですね。ただ、ニュースはあんまり。この地方紙くらいしか報じてないですね」


「犯人もまだ捕まってないんですよね」


「はい。あんまり詳しくは知らないですけど」


 結城さんに断って、記事を写真に撮らせてもらった。


 これまで自分で調べてもなかなか見つからなかった情報がこんなに簡単に手に入るとは思わなかった。


「ありがとうございます。それで、この事件が昨日のケンジさんの言葉に関係してくるんですか?」


「正直、それはよく分からないです。ただ、私が気になっているのはこれだけなんです」


 そう言って結城さんは、手元のファイルからもう一枚の紙を取り出した。


「清水さん、ちなみにですけど、この前田さんの前に清水さんの家に住んでた人については、何かご存知ですか?」


「前の前の人ですか? ……そこまでは調べてないです」


「そうですか。それじゃ、この記事を見てもらえれば、全てが繋がるかもしれませんね」


 そう言って結城さんは、俺の前に一枚の記事を差し出した。

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