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その伯爵令嬢、〝替え玉〟につき ~替え玉のわたし(妹)が侯爵に溺愛されるなんてあり得ません  作者: とんこつ毬藻
<Ⅲ.夏の社交界編~Scene Moria>

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第69話 その伯爵令嬢、謎の町娘と出逢う

 セントルム地区のルモーリア城寄り。やや東に位置するルモーリア教会は、創世の女神ディーヴァ様を信仰する人々が身分関係なく訪れる場所。カントリー子爵家でのお手伝いをしている際、わたしもアリーシェの姿でよく立ち寄っては、お祈りをしていた過去がある。


 教会へ到着すると、礼拝堂では何人かお祈りをしている人やステンドグラスを眺めている人、教会のシスターと話している人も居た。礼拝堂奥、説教台の前に立っている神父さんがわたし達の顔を見て、こちらが声を掛ける前に話しかけて来てくれた。


「ファリー殿。ようこそルモーリア教会へ」

「サザン神父。談話室、お借り出来ますか?」

「ええ、勿論。ですが、その前にご挨拶をせねばならないですね。ローズ・ゴルドー伯爵令嬢が教会へ来て下さるとは珍しい。ルモーリア教会の神父を務めます、サザンと申します。ネンネ殿が連れて来て下さったのですか?」


「ゴルドー伯爵家長女、ローズ・ゴルドーにございます。初めまして、サザン神父」


 サザン神父とは全然初めましてではないので、久し振りの穏やかな神父さんに懐かしさを憶えつつ、挨拶をするわたし。ちなみにネンネはサザン神父と昔馴染みらしく、ルモーリア教会へ訪れた時はいつも神父さんと長く話をしている事が多い。神父さんによると、町娘のお姉さんはファリーさんというみたい。わたし達はそのファリー、そしてレックと共に談話室へ入る事に。因みにずっと手に抱えていたパンはジウさんが持っている。どこで手に入れたのか、パンを入れる紙袋へ入れた状態で。


「護衛の方は部屋の外で待っていて下さいますか? 先程からこの子が警戒しているので。それから部屋の中での会話へ聞き耳を立てぬよう、よろしくお願い致します」

「承知致しました。ローズ様。小生は外で待機しておきます」


 ファリーさんからの提案の結果、談話室の中にはファリー、レック、わたし、ネンネの四人で入る事となった。


「改めましてファリー・アクアマリンと申します」

「ご存知でしょうけど、わたくしはゴルドー伯爵家長女、ローズ・ゴルドーですわ」

「侍女のネンネと申します」


 互いに自己紹介をした後、ずっと腕組みをしてこちらを睨んでいたレック君へ視線が集まると、彼は溜息をついて自身の名前を名乗った。

 

「おれの名前はケインだ。レックじゃねぇ」

「よろしくね、レッ……え? ケイン」

「嗚呼、それにこいつは姉でも何でもねぇ! 今日初対面だ!」

「え? えええええ?」


 ネンネは眼鏡の淵をチャキっとしていて、姉なんかじゃってさっきこの子が言い掛けていたけど、あの場でまさか本当だとは思わない訳で。


「ああでもしないと、店主から逃れられないと思ったからです。それに君とちゃんとお話がしたかったの、ケイン君」


 そういうとファリーさんはケイン君へどうして盗みをしようとしたのかを尋ねる。わたしも気になっていた事だった。ケイン君は応える。城下町の街外れに貴族の者が立ち寄る事のない貧民街があり、ケイン君は妹二人と弟一人、計四人で暮らしているんだそう。まだ働く事も出来ない彼等は盗むか残飯を漁るかでしか生きていけない。ルモーリア王国は一見平和に見えるけど、かつての紛争の名残や、まだまだ貧富の格差が多い場所も少なからず存在するんだ。生きていくには自分たちでなんとかするしかない。そんな彼等の現実にわたしも胸が痛くなる。


「貴族も王族も何もしてくれねぇー。だから俺が盗みを働くしかない」

「じゃあ、ケイン君。此処、ルモーリア教会で働かない?」

「は?」

 

 ファリーさんはケイン君にそう告げた。ファリーさんは何でもサザン神父と交友が深いらしく、ルモーリア教会が運営する身寄りのない子供が集まる孤児院へケイン君とその兄弟を紹介すると提案した。孤児院は修道院と隣接しており、ルモーリア教会の人達が食べる作物も全て裏の畑と鶏舎で自給自足しているんだそう。明日食べるものがないケイン君たち兄妹にとっては願ったり叶ったりの提案の筈だ。


「どうしてあんたは……俺なんかに優しくするんだ?」

「ふふふ。どうしてでしょうね。困っている人を放っておけない性格なのかも」


 そうファリーさんはおどけて見せる。とっても話しやすいし優しい印象のファリーさん。でも、何だろう……それだけでは言い表す事の出来ない不思議な魅力を持つ人だ。真っ直ぐな蒼色(アクアマリン)双眸(ひとみ)が凄く印象的な人。年齢も同じくらいに見えるし、とても親近感が湧く。


「少し……考えさせてくれ……」

「じゃあ、今週末のお休み、教会のミサがあった後で炊き出しをやるから一緒に連れて来るといいよ。そんなに豪華なお食事は出ないけど、パンと栄養満点の野菜スープを振る舞うよ?」

「本当か!? いや、考えとくだけだからな!」

「交渉成立ね」


 こうしてパン屋さんからファリーさんが買ったパンはケイン君へ渡され、その交換条件として今度の炊き出しへ兄妹で来るという話にまとまった。炊き出しは三日後、わたしも教会が子供達のためにそんな事をしているって知らなかった。貴族向けには行っていないだろうから、以前のわたしにはサザン神父も話さなかったのかもしれない。この後、サザン神父へ少しケイン君を紹介し、此処での密談は無事に終わる事となる。わたし達はもう少しだけ教会に残り、ファリーさんと話す事に。


「ローズ御令嬢。突然巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」

「いいのよファリーさん。それに、ローズでいいわよ? 歳も近そうだし」


「いえいえ!? ゴルドー伯爵家の御令嬢へそんな言葉遣い! とんでもございません」

「でも、あなたもいいところの出自なんでしょう?」


 そう。ネンネも途中から気づいていた。ファリーさんの佇まい。そして、サザン神父へのスムーズな紹介。盗みを見た時の現場での判断と行動力。どう考えてもただの町娘とは思えなかったんだ。もともと彼女が教会の孤児院で育ったというパターンもあるけれど、それでも盗みを働いた他人のために金貨を払えるような人物は一般庶民には居ない。一般庶民ならば、そもそも金貨が二、三枚あれば一ヶ月は食べていける。

 談話室の扉は締めていて、ジウさん含め、誰も盗み聞きをしていない事を確認したファリーさんはわたし、そしてネンネへこう話す。


「ふふふ。流石、ゴルドー伯爵家の御令嬢ね。ローズ。あなたもそうだと思うけど、ある程度知られている立場だと、表での行動は目立つでしょう? それもあって私は変装しているの。今は無理だけど、時が来たらあなたにならお話しますわ。その時は、あなたの本当の名前を教えて」

「え? 何を言って……」


 一瞬だけ蒼色(アクアマリン)の双眸を閉じ、再び開いた町娘へ扮するファリーは、外へ聞こえない程度の小声で私にこう言った。


「私と一緒だもの。その双眸(ひとみ)の色。虹色咲花(レインボーダンテ)でしょう?」


 隣に控えるネンネが静観する中、わたしの心臓はこの日一番の早鐘を打っていた。


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