Wave.2 底辺・オブ・底辺
「はっ!?」
わ、私は何を!?
ここは私の部屋……1DKの居室、PCの前だ。
という事は、さっきのは夢か。そりゃそうだよね~。ハスキーボイスで乱暴な口調の先輩が『わぁるふぁ』なわけないよ。はー、ビックリしたぁ。ホッとしたら何だか疲れが……。
こういう時は癒しが必要だよねぇ。PC立ち上げてWave開いて、登録チャンネル選択して動画をポチリ。って、身体が自動で。
『みんな~、来てくれてありがとう!』
『癒しの力をみんなにお届け!』
『キミの隣の仮想の友達、わぁるふぁ、ですっ!』
『今日は、歌枠! みんなで盛り上がって、ぃこ~~~っ!』
昨日の歌枠、リピートリピートっと。
いや~、やっぱり耳に良いね『わぁるふぁ』の声は。
……。
頭に先輩の顔がチラつく。
ぬがーっ! あんな夢を見るからだっ! 癒しの時間なのにぃ。
うーん、と。
うぅん、と。
あーっ、と。
なんだろう。
『わぁるふぁ』の歌声の端々に、聞いた事がある声が混ざってる気がする。
『星の夢を抱いて~、キミの下へ、行ッくよ~』
!!!
今の!
行ッくよ、の声が跳ねた所!せ、先輩の口調に似て……る?
いや、間違いない。
私、一応は音楽やってきたから何となく分かる。声には質がある。絶対に変わらない癖が滲む事がある。凄く上手く変化させてるけど、じわっと出てきてる、気がする。
そ、そんなバカな。
頭の中で夢の、いや今日の事が思い出される。先輩の言葉が。
『その通りだ。オレが『わぁるふぁ』だ』
身体が跳ねた。そんな事が有り得るのか、と思って。
「あっ!!!」
もう一度、身体が跳ねた。
時間! あと十分で配信開始時間だ!
『わぁるふぁ』じゃなくて『椋鳥 ひより』の。
そう、私の!
ヤバい、ヤバい。急がないと。配信の準備っ。
配信画面に切り替えと、ツールの起動。音声確認も。ああっと、ヘッドセット付けないと。ノイキャンも作動させて、っと。あ、今日はRPGの配信だ、ゲームも起動しておかないと。
配信開始、一分前。よしよし、ギリギリ間に合った!
三十秒前。もう活動初めて半年か~、早いなぁ。
十秒前。よしっ、頑張ろう!
配信開始。
『皆さん、こんにちは!』
『空へはばたく鳥の子、雛の子』
『貴方の下へ飛んでいく』
『椋鳥ひより、です』
よし、今日も問題無し!
……まあ、問題なのは同時接続数なんだよね。
同接の数字は底辺中の底辺を指していた。
そう、ゼロ人だ。
配信開始したばかりなのに、思わず溜め息が出てしまった。時々覗きに来た人がいるのか、一瞬だけ一人になってまたゼロに戻る。少し長く居てくれる人もいるけど、平均を出すなら限りなくゼロに近いはず。
三時間の長時間配信。結局、コメントは一つも付かなかった。
活動している意味、あるのかなぁ。