三日月に照らされた輝く思い出。
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「アンネ様ー!今日も来てやったぞー!」
在る日の午後。勉強が終わり庭で紅茶を飲んでいるといつもの明るい声が聞こえてきた。
「来てやったって何よ。私は頼んでいないけど?」
「アンネ様は嘘つきだなぁ。ジョンはまだかしらと、いつも紅茶を飲みながらため息をついてるとメイドさんから聞いたぞ?」
私は顔を赤らめるとメイドを睨みつけた。メイドはサッと顔を逸らす。
「こら!ジョン!アンネ様に向かってなんて態度を!アンネ様……いつも申し訳ございません。」
ジョンの父親である庭師のケリーは顔を青ざめながら頭を何度も下げる。
「いいのよ。ジョンが失礼なのはいつものことだから。さぁ、ジョン!罰としてここで紅茶を飲みながら面白い話をしなさい!」
ジョンは任せろ!というと椅子に座りクッキーを頬張りながらいろんな話を話し始めた。
ケリーの常連のお客さんの庭の木を勝手に切ってひどく怒られた話から、1人で大きい熊を退治したなど、てんで信じられない話までジョンは楽しそうに話した。
いつも勉強などで退屈だった私には、ジョンの話は楽しくてしょうがなかった。
「そういえばこの間、またテムズ川に釣りに行ったんだ。」
「本当に?何か釣れた?」
「全く。そうだ!今からアンネ様も一緒に釣りに行くか?」
「ううん……。テムズ川は大きくて危ないからお父様に勝手に行ってはいけないと言われてるの。」
「そっか……。あ、じゃぁ今からあの小山に行かないか?昨日行ったらパンジーが咲いていて綺麗だったぞ!」
「本当!?行きたい!」
私はメイドに頼んでピクニックの準備をさせるとジョンと一緒に歩き出した。
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「わぁ!」
歩くこと10分。開けた場所に出るとそこには。
色鮮やかなパンジーが咲き乱れていた。
「とっても綺麗ね!」
「だろ?」
私達は近くの木陰にシートを敷くと座って話し始めた。
「はい、ジョン。飲むでしょ?」
私はメイドが持っていた陶器の容器に入ったホットバタードラムをカップに注ぐとジョンに渡した。
「これ、お酒じゃないのか?まだ俺たち子供だぞ。」
「大丈夫よ。大人用はしっかりしたお酒だけど、私達のはラム酒は1滴ぐらいしか入ってないのだから。代わりにたっぷりのお砂糖が入ってるけど。」
「でもラム酒1滴でもお酒だし……。」
「あら?ラム酒はお菓子作りにも使われてるのよ?昨日ジョンが食べたパウンドケーキにだって入っていたんだから。」
「そうなのか!?……じゃぁ。」
ジョンは受け取ると、甘い!と言いながら飲み始めた。
「本当に綺麗ね。…ふふ、ジョンは私を楽しくて綺麗な世界に連れてってくれる。まるで白うさぎみたいね。」
「白うさぎ……?美味しそうってことか?」
「違うわよ。不思議の国のアリスの白うさぎよ!この間うちで本を見たでしょ!」
「本……?ああ、あのおとぎ話か!確かにアンネ様はアリスに似ているな。長い金髪にいつも綺麗な洋服に……好奇心旺盛で周りを振り回すところとか。」
「ちょっと!最後は余計よ!」
私ってそんなに振り回してたかしら……と少し焦りながらクッキーをかじる。
「……ああ、でもアリスの冒険みたいに終わってしまうのはダメよ。私はいつまでもジョンの楽しい話が聞きたいんだから。」
だからいつまでも楽しい話をしてね、とジョンに言うとジョンは珍しく神妙な顔をしていた。
「ジョン?」
「……もし、もしさ、俺がテムズ川で月を釣り上げたらお金持ちになって……。」
「ジョン……?」
「なんてな!」
ジョンは何事もないようにクッキーを頬張り始めた。
そうよね……月を釣り上げるなんてそんなおとぎ話みたい話……。
でももし、ジョンがお金持ちになって一緒になれたらどんなに幸せだろうか…。
私はクッキーを頬張るジョンを見ながらずっと考えていた。




