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白うさぎの居ないモノクロ世界。


「ん……。」

眩しさに目を覚ますとノックの音が聞こえてきた。

「アンネ様、おはようございます。」

リネがガラスのボウルを持ちながら入ってきた。

「昨日はよく眠れましたか?こちらに顔を洗うお湯を置いておきますね。朝食もお持ちしてよろしいでしょうか?」

「……食欲が無いから軽いもので良いわ。」

「具合でも悪いのでしょうか?」

「いえ、大丈夫よ。」

昨日あんな大きい三日月を見たせいか、まさかジョンの夢を見るなんて……。

私はガラスのボウルに入ったお湯で顔を洗うと深いため息をつく。お湯に垂らしてあったラベンダーオイルが鼻腔に広がった。



*********


―――ジョンと距離が出来たのは14歳の夏頃からだった。

「え?ジョン……今日も来られないの?」

庭でミントティーを飲みながらジョンを待っていた私にケリーは気まずそうに答えた。

「すみません、お嬢様……。ジョンは庭師の仕事の手伝いに忙しくて……。」

「庭師の手伝いって……もう2週間来てないのよ?ケリーは毎日来てるのに……。」

「すみません、家の事をしておりまして……。それにお嬢様……ジョンと仲良くしていただけることはとても光栄なことなのですが、お嬢様もそろそろお年頃ですので……。」

「……お父様に何か言われたのね?」

「いえ!決してそんなことは!」

ケリーは青ざめた顔を何度も横に振る。

「……そう。」

私はため息をつくとメイドにインクと便箋を持ってくるように伝えた。


――本当は分かっていた。

ジョンはお父様に言われて距離を置かれたこと。

社交界に出るようになってから貴族同士の友達が増え、それは私の婚約者探しが始まったことも告げていた。

平民の男の子と仲良くしているなんて、イメージが悪いとお父様はお怒りになったのだろう。

ジョンと遊ぶ機会が減ると同時にお茶会の数が増える。

お茶会は別に嫌いでは無い。可愛い洋服を着て美味しい物を食べながら女の子達で話す。楽しいといえば楽しい。でも――。

「おまたせ致しました。」

メイドが持ってきた万年筆にインクを付けて便箋に文字を書き始める。招待状の返事だ。

「……アンネ様、そちらのお嬢様の家はフランスの画家がよく出入りしてるそうです。運が良ければお会いして、アンネ様の美しい肖像画を書いてもらえるかも知れませんよ?」

「そうね……。私は肖像画より、野花の栞の方が嬉しいのだけれど……。」

私が呟くとメイドは困った顔をした。

「ごめんなさい。あなたを困らせるつもりは無かったのよ。大丈夫よ、ちゃんと招待に応えるわ。」

「アンネ様……。」

野花の栞は、絵本が好きな私にジョンが作ってくれた物だ。

本当は花束を渡したかったけど……。と照れながら渡された栞はお世辞にも綺麗な仕上がりでは無かったけど。

「ありがとう!ジョン!!」

大好きなジョンからのプレゼントは私にとって一番の宝物になったのだ。

「もうボロボロになってきたから、新しい野花の栞が欲しかったな……。」

私はそう呟くと便箋を蝋で封をした。




*******

「スープをお持ちしました。」

リネの声にハッとなる。いけない。またジョンの思い出を……。

「サラダもお付けいたしますか?」

「いえ、結構よ。」

私が座っていたベッドから立ち上がろうとすると読みかけの本が落ちてしまった。

「あ……。」

いけない、と急いで拾おうとすると挟んでいた栞がリネの足元に飛んでしまった。

「この栞……アンネ様はとても大事にされていますね。」

リネは拾うと私に差し出した。

「ええ。とても大事な思い出だから……。」

ジョンから貰った栞はすっかりボロボロになってしまった。

1度あるメイドに見窄らしいと心無い言葉をかけられたけど、私は全く気にならなかった。

…そういえばあのメイドは全く見なくなったわ。まぁ興味無いから良いけど。


私は大切に栞を本に挟むと、椅子に座りスープを飲み始めた。





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