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鋼鉄の指揮官(ハガネノシキカン)  作者: 黒縁眼鏡
第二部条約締結編
29/31

第四章「新しい風(後編)」

 模擬戦用の訓練フィールドに到着すると松平から攻撃の指示が入った。

「もっさんイッシーに向けてロックオンして射撃してみて。んでイッシーは回避しようと動いてみてね」

 言われた通りにロックオンをして射撃を行うと攻撃を行った瞬間に左方向に滑るような回避行動をとられた。正確に言うとこちらが構えた瞬間から動いていたのだが。

「今のは一体?」

 避けた本人も混乱している。てっきりこちらの構えを見て避けたのだと思ったんだが。

「今のがBRCSを使った回避行動だよ。今は左に避けようと左手の操縦幹動かそうとしたでしょ」

「その通りです。簡単に言えばパイロットの動きを先読みするということですか?」

 なるほど。機体の反応性が格段に上がる訳だ。回避行動における認識、操作、行動の操作部分を削ったのか。

「さすがイッシー頭が良いねぇ。適性が低いともうちょいタイムラグがあるけど、30%もあれば普通に対応出来るようにはなってるよ」

 そうなると次に疑問となるのが私のような適合者はどうなるかだ。

「で、私の場合は緊急時だけでなく通常時の操作で出来るってことか? ゴーストと同じような感覚で動かせてしまったんだが」

「そそ、その点はゴーストと似てるねぇ。あれは主にバランスとるのがメインで行動の制御はサブだったけど。今回はそんな細かいことじゃなくて機体の動きがメインだからね。思った通りの動きをしてくれるよ」

 便利になったもんだなぁ……。気が早いが第四世代が出たらどうなるんだろうか。

 技術の進歩にしみじみとしていると、松平からとんでもないことを言われた。

「ってことで、戦闘訓練でデータを取りたいので、よろしく! チーム分けはそうだなー……もっさん対全員で」

「おい、待て! 私には2年のブランクがあるんだぞ? ハンデとしてはおかしくないか?」

「良いじゃん。ちょっと荒いリハビリだよ」

 勘弁してほしい。いくらなんでも条件が不利過ぎる。

 松平を無視してチーム分けをしようとすると。

「大佐殿、手合せ願います!」

「特殊部隊ゴーストの実力。この手で確かめたいです」

「大佐の良いとこ見てみたい!」

 ダメだ。3人ともノリノリだ。腹をくくってやるしかないか。

「分かった……仕方ない。3人まとめて相手をしよう。ただ言っておくが2年のブランク持ちに負けたら分かってるだろうな?」

 3人の顔に緊張が走り、息をのんでいる。

「特別訓練メニューを出してやる。楽しみにしておけ」

「話がまとまったようで何より。んじゃ距離を離してー」


 高度1km相対距離約1.5km地点まで離して対峙する。レーダーを見ながら敵の情報の確認をAIに指示する。

《敵機マップス3機。該当機種データ無し。武装構成よりファイター1機。スナイパー2機と推定。ターゲットをそれぞれα・β・γと設定します》

 敵の編成に対して自機の武装は近中距離仕様だ。ファイター相手にすると強力な援護射撃が、スナイパーを先に落とそうとすると挟み撃ちか。やれやれ困ったもんだ。普通は一時撤退して味方と合流するレベルなのだが……。

「ターゲットαを最優先ターゲットに設定。ロックアラートはβおよびγからのみ」

《了解。ターゲット・ロックアラート設定完了しました》

 深呼吸をして頭を研ぎ澄ませていく。

「ふぅ……こちら坂本準備完了だ!」

「オッケー。両者準備完了ってことで、模擬戦開始―!」

 

 松平の合図とともに田口軍曹が突撃してきた。

「行きますよ大佐殿!」

 アサルトライフルが正確にこちらを捉えながら発射されるが、急加速からの急制動。さらに急上昇と急降下を組み合わせて自由自在に空を駆けて回避する。

「この動きやすさ。ゴーストとハガネ以上だな。大体動きの癖も掴めてきた」

「やりますね大佐殿。でもこちらは3人です」

 近づいてきた田口軍曹が一旦距離を取り始めろと、ロックアラートが鳴り出した。

 狙撃が来るか! 浮遊装甲をβγ方向に展開。

 装甲に銃弾が当たる音が鳴り響く。どうやら防げたようだ。

「ちょっと何今の? 動きが速すぎてどうしようもなかったからロックオン使ったのにあの装甲展開スピードは反則よ」

「うちの隊長より速いか」

「足を止めて攻撃を当てる。2人とも援護射撃を頼むぞ」

 今度は一旦離れていた田口軍曹がブレードを抜いて再度接近してきた。

「そう簡単に当たってはやらんぞ軍曹!」

 こちらもアサルトライフルを発射するが、構えて発射した瞬間に横に急加速で回避されてしまう。

 これが実戦におけるBRCSによる回避か。

「なるほど。これはなかなか厄介だな」

「すごいでしょー。これが今度から組み込もうとする反射回避だよ」

「……何だ今のは?」

 軍曹も困惑気味だ

 動きに舌を巻いていると遠距離からの狙撃が相次いで飛んできた。

 田口機がこちらに近づいてきている中、足を止めて防ぐか。回避しながら突っ込んで狙撃の誤射を軍曹にぶつけるか。

 さっきの避けられた様子から、この回避能力は恐らく攻撃認識があって初めて成り立つもの。となると、後ろから来る味方の攻撃なら反応出来ないはずだ。突っ込むか。

「田口軍曹、まだまだだな。私に近づくことすら出来んか」

 わざと挑発をしてこちらに突っ込むのを止めないように挑発する。バレルロールをしながら狙撃を回避し、田口機を近くまで引き付ける。

「大佐殿、落とさせてもらいます!」

 ロックアラートはしっかり鳴っている。田口機もかなり近い、タイミングはここか。

「よく言った! 私を落としてみろ!」

 急制動から一気に田口機に向けてこちらも加速する。

 田口機のブレードによる突きを回転しながら下降で回避し、後ろに回ってワザと射線に背を晒す。

「もらったよ!」

「やめろ武田! 軍曹回避を!」

 射線に乗るように田口機の背面に蹴りを入れながら急上昇する。体勢を崩された田口機にロングレンジライフルの弾が直撃するが、想定してたダメージより何故か少ない。

「おい、松平。なんかやたら設定が頑丈じゃないか?」

「あー、近接機はとっても堅くなりました」

 そういえばカタログスペックは凄かったな。

現行機以上のスペックに加え熟練パイロットが搭乗してながら、特殊システムを使われるとは、めんどくさいことこの上ない。

 射撃で落とすとすると時間がかかりそうだ。ただでさえ数が不利な状況なので、早いところ落としておきたい。少々リスクはあるがブレードで速攻をかけるか。

 ブースターの出力を上げて再接近する。今度は射線上に田口機を盾となるよう位置を取り直して攻撃をする。

「悪いな落ちてもらうぞ軍曹」

 袈裟切りをしかけると強力なバックブーストで距離を一気に取られた。どうやら近接攻撃も簡単に当てられないようだ。

「さすが、大佐殿! ですが、このシステムに慣れてきました。そう簡単にやられませんよ」

「本当に厄介なシステムだな!」

 追撃を入れようとこちらもブースターの出力を上げ急接近してもう一度袈裟切りをしかけると、田口機は浮遊装甲を展開し私のブレード防いでいだ。しかも、それだけではなく装甲間からブレードを差し込んで反撃に出た。

 浮遊装甲に隙間が出来た瞬間に距離を取って回避出来たが、狙撃が続けて放たれる。回避しながら反撃の隙を伺うが、なかなか攻撃が激しくて近づきにくい。

「やるじゃないか3人とも」

「大佐がそれ言う? シミュレーションならさっきまでに2、3回は落としてますよ!」

「さすが大佐殿。先ほどは確実に入ったと思ったのですが」

「さっきのは良かったぞ軍曹。危うく落とされる所だった」

 BRCSを搭載していないハガネだったら確実に落とされていた。機体の性能に助けられたな。

「直撃コースをこうも簡単にあしらわれるとは……」

「買い被りすぎだ石山。ここまで動けるのは機体のおかげだ。では軍曹今度こそいただくぞ!」

 少し卑怯だが、会話によって油断したのか弾幕が薄くなったので、その隙に軍曹にもう一度攻撃をしかけるために突っ込んだ。

「油断するなよ軍曹!」

「っ!?」

「大佐卑怯だー!」

 今度こそ貰ったと思いきや、やはりBRCSによる反射のおかげか高速で後方に下がる回避行動をとられた。そこに連続して射撃を撃ち込み続ける。

 私の追撃に対して、反射の直線的で急激な動きではなく一般的な円軌道による回避行動をとられた。

「ん? まさかな」

 一旦射撃を止めて、もう一度射撃を1発放ってみる。

 私の弾丸に対して田口機は左にスライドして回避した。そのまま射撃を続けてるとやはり普通の回避行動をとり、反射による急加速的な動きは見られなかった。

「なぁ、松平。BRCSの反射回避って、もしかすると制限かかってるのか?」

「あー、もっさん気づいちゃった?」

「やっぱりそうだったか」

「適性が低いと仕方ないよー」

 間違いない。BRCSによる反射は一度脳が危険を感じて緊急回避に成功した後で、相手の攻撃に集中しだすと、連続で使用出来ない仕様らしい。

それなら、連続で攻撃を叩き込むことが出来れば崩せるかもしれない。やってみるか。

 アサルトライフルを撃ちながらブースターの出力を大幅に上げて急加速する。ブレードで袈裟切りをしかけるが、浮遊装甲を展開され斬撃を防がれる。

 こちらはそれに対して、アサルトライフルとブレードを即座に交換し、二刀流で浮遊装甲を弾いた。

《βγの射線からαが外れました》

 2機で挟むつもりだな。悪くない戦術だ。

 浮遊装甲を両肩にマウントして、多少の被弾を覚悟しながら致命傷を防ぐ準備をする。

こうなると田口軍曹を他2機が後ろに回り込むより前に落とさなければまずい。

「落ちて貰うぞ軍曹!」

「させませんよ!」

 田口機は先程と同じ手で、既にブレードによるカウンターの体勢に入っていた。

 私は機体を後方に宙返りさせて攻撃圏内から一旦退避して、再突撃をしかける。

 初撃は恐らくBRCSが作動して後退するはすだ。なので、初撃は捨てる。勝負は2撃目の追撃からだ。

 左腕で予備動作の少ない突きを初撃に放つと、予想通り急後退して回避された。

「もらった!」

 右腕のブレードを同時に投擲する。

 田口機の右腕に直撃するが、そのまま左腕でライフルを構えて射撃体勢に入っている。

「甘いな軍曹!」

 ワイヤーで右腕のブレードを回収しながら左腕のブレードを投擲し、田口機の左腕も潰して、ライフルを使用不可能にする。

 がそこで、レーダーを見て回り込まれていることに気が付いた。

 β方向に浮遊装甲3枚展開。間に合うか?

「さすがタグポン。よく頑張った!」

「タグポンは止めろ武田!」

 田口軍曹の怒鳴り声が聞こえた瞬間に弾丸が浮遊装甲に当たった。

 危なかった今のもギリギリだったな。

「今の防ぐ?!」

「こちらに任せろ」

 今度はγ方向にも浮遊装甲展開し、角度を維持しながら上昇して機体を反転させる。

 ファイターである田口軍曹が行動不能の今、遠距離からの防御がしやすい。

「む、これも防ぎますか。後ろにも目がついているかのようですね大佐」

「人を勝手に妖怪扱いしないで欲しいな石山。レーダーを頼りに動いているだけだ」

「うちの高井と同じことを言いますね。彼も油断さえしなければ、防御がかなりうまい方なんですが、大佐はそれ以上に当てにくい」

「ちなみに、君たちの狙撃も十二分にいやらしいぞ。この第三世代型じゃなければ本当に数回落ちている」

「お褒めに預かり光栄です」

 おっと、褒めてる側から直撃コースだ。やるじゃないか。

 ブースターの出力を上げて最大速度で大きく回りながら石山機に近づいていく。

 攻撃の要領はさっき田口軍曹相手に掴んでいる。

 まずはアサルトライフルを撃ち込み反射回避を誘導しようと試みる。

 しかし、こちらの意図に反して石山はダガーとブレードを装備してこちらに接近してきた。

 思い切りが良くて大変結構! それに高速機動を相手に取り回しが悪いロングレンジライフルは使いにくいのも確かだ。その判断は間違っていない。

 つばぜり合いをしながら通信を入れる。

「近接戦闘に入るタイミングも悪くないな。犬塚に叩き込まれたか?」

「その通りです。隊長相手にファイターのあしらい方を研究させてもらっています」

 そういえば、以前の模擬戦でもアームズ相手に近接武器で対応していたな。

「勉強熱心だな。その実力見せてもらおうか」

 お互いの得物を打ち合うが決定打が出せないでいた。

 なるほど、本当によく鍛えられている。普通に切りかかるだけではらちがあかないようだ。

 そう判断して、つばぜり合いから胴体に蹴りを入れて体勢を崩し、突きの構えで突進する。しかし、正面に捉えていたはずが、反射回避で左に大きく避けられ、すぐにこちらに切り返してきた。素早いカウンターだ。浮遊装甲は今全て武田機の方にマウントしてある。ここはブレードで防ぐしかない。

 ブレードでダガーを防ぎ、もう一度つばぜり合いに持ち込む。相手の体勢を崩そうとするが逆にこちらの体勢が崩された。さらにロングレンジライフルの狙撃をコアに貰ってしまう。

 《コアに被弾。戦闘継続に支障ありません》

 くっ、今の衝撃は何だ?

「いやー、石山さんも無茶しますねぇ。後でオヤッさんに怒られますよその使い方」

「やむをえない状況だ。おかげで当てれた」

「そりゃそうなんですけどねー。ロングレンジライフルでまさか殴るとは思ってなかったですよ。下手すれば戦闘中に二度と狙撃できないですよ?」

「その時は、ほかの武器で何とかするまでだ」

 なるほど一本取られたな。さすが犬塚の部下か。

「よく攻撃を当てた。だが、まだ落ちてないぞ油断するなよ」

「分かってます。武田、2機で接近戦を挑む」

「了解っと」

 そういえば、本職はスナイパーながら近接武器の扱いには2人とも結構長けているんだったな。まともに相手をすると危ないかも知れないが、やるしかないか。

 石山に切りかかられた攻撃を受け止めていると、武田から色っぽい声で通信が入った。

「大佐ーこっち向・い・て!」

 レーダーを見るとかなり近い、ダガーを構えながら射撃された。一旦距離を取って仕切り直しをしなければと思い上昇して体勢を立て直した。

「大佐のいけずー」

「まったく攻撃をしかける掛け声とは思えないな」

「私の魅力が通じないなんて……手ごわいわね」

 残念ながら君よりも魅力的な人を知ってるのでね。と心の中でつっこみを入れてカウンターの準備をする。

 2機が左右から同時に切りかかるのをブレードで受け止めると、石山、武田両者が肩の粒子砲によるゼロ距離射撃を放とうとしたが、それより先に浮遊装甲をぶつけて体勢を崩す。

「甘い!」

 機体を石山機の方に向け、ブレードの投擲から突きの構えで突進の連携攻撃を放つ。やはり初撃は避けられるが。追い打ちが当たり撃墜することが出来た。

「さすが、大佐やりますね。完敗です」

 いや、正直かなり苦労した。何度も言うがハガネだったら負けている。

「何というかもっさんにしか出来ない対反射回避の必勝パターンになってるねぇ……、普通は操縦の際に生じる動きで出来るちょっとしたタイムラグがほぼ無いもんなぁ。さすがというかなんというか」

「これ以外で倒す方法を考えるのが今後の課題だな。というか松平も出来るだろ?」

「そりゃー僕の子ですからね。出来るに決まってるよー」

「やっぱりか。だったら松平も久しぶりに一緒に乗れば良いのに」

 おっと私語をしている場合ではなかった。まだ武田が残っている。

「さて、ギブアップするか?」

「大佐は冗談がお好きなようですね。もちろん最後までやりますよ」

「特別訓練を回避してみせろ。君ならやれるさ」

「まったく嫌味を言うのもお好きなんですか? 女の子にモテないですよ!」

 とこっちを動揺させるためであろう言葉を投げかけながら武田機が接近してくる。

 こちらも迎えうつ構えを取っていたらダガーが投擲された。この後のカウンターを用意する意図も込めて浮遊装甲で防ぐと、金属音と共に展開していた装甲が吹き飛ばされた。

「何度も見てますからね! 同じ手は食いませんよ」

どうやら肩に浮遊装甲をマウントさせタックルを入れてきたらしい。おかげで体勢が完全に崩された。

「これで丸裸ですよ大佐!」

 ライフルと粒子砲による一斉射撃が放たれる。

「っ!?」

 直撃すると思ったら瞬間機体が勝手に動いていた。機体のバランスはメチャクチャだったが強引に右に大きく動かされたらしい。おかげでかすり傷で済んだ。

 なるほど、これが反射回避か。感覚としては「危ない」と思ったから避けたんじゃなく、避けてから「危なかった」と認識するような感じになるのか。

「なんですか今の動き。反則臭くないですか?!」

「これがさっきまで君たちが使っていた主なシステムなんだが……」

「え? んじゃもしかして今までのって単純に操縦してたんですか?」

「いや、イメージコントロールだ。考えに合わせて機体が動いてくれる」

「卑怯だー! やっぱこの人卑怯だ!」

 距離が離されたので、アサルトライフルで応戦を始めるとちょっとした違和感が生じる。

 反射回避の感覚がすごく短い。少なくとも先ほどの2人は一度攻撃が途切れて、落ち着いたら再稼働という感じだったのが、攻撃を回避している最中にちらほらと反射回避がとられているように見えた。

「松平。もしかして、適合率50%以上から反射回避の制限が外れるのか?」

「正解。よく見てるねー。50%未満だと過剰に動き回る機体に振り回されるんだけど、50%以上からは適宜発動するようになってるよ」

「最初に言ってくれ……」

「ネタバレしたら面白くないでしょ?」

 やっぱりそうか。さすが松平。兵器を人型にする理由がカッコいいで済ます男だ。

 それにしても、そうなると今までの2人以上に厄介だな。

 とりあえず、先ほどまでの連携が通用するか試してみるか。

 武田機の上に位置をとり、わざとライフルを外して、高度を下げるように誘導する。高度300m。ここくらいならやれるはずだ。

 一気に加速し、体当たりで地面にまで落とす。武田の射撃で多少の被弾はするがこの際関係ない。

 「地面に落ちれば避けられまい!」

 もちろん2次元的な動きで回避出来るのだが、はったりをきかせて動揺を与えようとする。

 ブレードの横切りで右から襲いかかると左に大きく動かれた。続けてブレードを投擲して追撃するがそれも上昇して避けられた。

 せっかく地面に降ろしたのに逃げられてたまるか!

 さらにもう一本のブレードも投擲するが大きく回避される。

「君も十分卑怯くさい動きをしているぞ。先程立てた戦術があっさり崩された」

 こうなると、死角からの攻撃や意表をついた攻撃で危険と認識させる前に当てないといけないのか。さて、どうする?

 対処方法を考えていると、武田機がロングレンジライフルにダガーを取り付け突っ込んできた。

「はぁ……はぁ……正直機体が敏感過ぎて疲れます。ってことで、これでお終いにしたいですね!」

 それに対して、自機を隠すように浮遊装甲6枚すべてを正面に展開し突進を受け止め、陰から真上に飛び出し武田の機体を掴んだ。

「捕まえたぞ。これで逃げられないはずだ」

「機体が勝手に! うわっ」

反射回避で左右に引きずられながらも、ブレードをコアに突き立てて撃墜判定をもぎとる。

「ふぅ……私の勝ちだ」

緊張がとけて思わず長い息を吐いた。

「良いデータがとれたよ。みんなガレージに戻ってきてねー」

「「了解」」

 第三世代のテストは辛うじて大佐としてのメンツを保つことに成功した。

 ただ、ほっとする訳ではなく、胸は不思議と高鳴っていた。多分この空を自由に動き回れる感覚が久しぶりで楽しかったからだろうか。


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