第四章「新しい風(中編)」
執務室に戻って書類整理をしていると、守衛から連絡が入ってきた。
どうやら松平がやってきたそうだ。
確か彼は遅めのゴールデンウイークだったはずでは?
待たせても仕方ないので中に入ってきて貰うことにした。
「やあ、もっさん昨日ぶり」
「あぁ、まさか土日まで巻き込まれるとは思ってなかったよ」
「まぁまぁ、かわりにこうやって来たんだから良いでしょ?」
かわりにというのは置いておいて、何故松平がやってきたのかは興味がわいた。
「そういえば、休みに何しに来たんだ?」
「遊びにきたよ」
思わず大きなため息をついてしまう。
「おい、私は仕事中なんだが……」
「へ? あぁ、大丈夫大丈夫。他人にとっては仕事してるようにしか見えないから」
あぁ、なるほど。マップス関連でやってきた訳か。またオヤジさんと何か作るのかもしれないな。
「で、今度は何するんだ?」
「第三世代型のプログラムテスト。ちょっとした改良を加えてみたんだよ」
「へぇー、んじゃオヤジさんの方に君が行くと連絡しておくよ」
内線で連絡をとるために通信機に手をかけると思いがけない一言を言われた。
「もっさんも来てね」
書類があるんだが……いや、仕方ない話だけでも聞いておこう。
「何故私が?」
「この基地でもっさんが一番安定してるからね。データ取りしやすいんだよ。後は初めて第三世代型を乗る人が3名ほど欲しい」
「あー、なるほど。メンバーについてリクエストはあるか?」
「んー、個人的にはイッシーと武ちん希望。後はハガネのテストパイロットだったタグぽんが良いね」
相変わらず分かるような分からないようなニックネームをつけられたので、一瞬誰のことか混乱する。
「一応確認するが、ガンドックの石山、ラインの武田、そして教官の田口軍曹で良いんだな?」
「そうそう。よろしくー。僕は早速調整に行ってくるよ。準備が出来たら呼ぶから待っててね」
くるっと踵を返し、軽い足取りで部屋から出て行ってしまった。
「今日の書類片づくかな……」
1日の大半を潰された艦船の各種テストを思い出し、頭が重くなった。
1時間後松平から連絡が入ったので、再度指名された3人に連絡を入れてガレージに集まった。
「皆様、ご協力ありがとうございます」
松平が深々と様になった礼をしている。そういえば一応企業勤めのサラリーマンなんだよな。
意外とこういう外の場ではしっかりやっているのか。
「っと堅苦しい挨拶はこんなもんで、本題に入るね」
訂正しよう。サラリーマンとして大丈夫なのかこいつ……。
頭の固いお偉いさんと会わせたら大変なことになるんじゃなかろうか。
そんな私の懸念をよそに松平は説明を続けていく。
「今日組み込んだプログラムはより機体の反応性を高めるための物なんだけど、人によって使い勝手が良かったり悪かったりなんだよ。ってことでそのテストに付き合ってくださいな」
松平が説明しながら、オヤジさんが集まったメンバーにヘルメットが手渡す。
「簡単に言えば、そのヘルメットで脳の状態を観察して、ダイレクトに機体を動かすってことだね」
初代マップスのゴーストと戦艦の操作を思い出す話だ。
やはりそれで私も呼ばれたのか。
「まっ、百聞は一見にしかずってことで、よろしく」
用意されたテスト機にそれぞれが搭乗していく。
球状の空間の真ん中に座席が設置してあり、モニターが壁にそって360度展開されている。
久しぶりのコックピット席に緊張しているのか、少し手に汗がにじむ。
「みんな乗ったみたいだね。んじゃ、機体を起動させてー」
起動させるとモニターにガレージの風景が映し出され、機体の情報が次々に表示されていった。
「次にコントロールパネルで操縦モードの設定を開いて」
言われた通りに座席正面にあるパネルの操作を行う。初期設定を行ってくださいと案内がAIから通知された。
「そのまま案内にしたがって設定を行って。特に難しいことはしないからさ」
〈brain reaction control system(BRCS)設定開始。搭乗者の氏名と階級を登録してください〉
「坂本龍。階級大佐」
〈坂本龍大佐の登録を確認しました。次に脳波と機体制御の親和性を検定します〉
右手をあげるイメージを始めとする色々な動きをイメージさせられた。
そういえば、8年前に行った適性検査もこんな感じだったな。
〈親和性95%、BRCS稼働率最大で設定。システム稼働率はコントロールパネルにて変更可能です〉
どうやら無事に設定が終わったらしい。
「おー、さすがはもっさん95%かやるねぇ。イッシーは35%。武ちんは50%。タグポンは40%か」
「アハハ! タグポンって、おなか痛い。あの鬼軍曹がタグポンだって! みんなに聞かせてやりたいわ」
何かを叩く音がするほど、武田が大笑いしている。
全機同時に通信を入れていたせいで、松平がつけたニックネームがただ漏れになっていたのが原因のようだ。
「やめておけ武田。……しかし、タグポンか……っく、ハハハ」
そう言う石山も笑いが殺せていない。彼でも笑うんだな。
小山が聞いたら怒られそうなことを考えてしまった。
「おい、武田、石山。それ以上笑って見ろ。特別に候補生達の訓練に参加させてやる」
さすが教官モードの田口軍曹。低くしゃがれた声による脅し文句の迫力がすごい。
ちなみに私のもっさんというニックネームは既に松平を紹介した時に知られている。
もちろん、基地内で使ったら特別減給だと注意済みだ。
「落ち着け軍曹。それと、石山と武田は謝罪しておけ」
「何かお取り込み中の所悪いけど、次の説明良いかな?」
誰のせいだまったく。
とりあえず、3人が松平の一言で早々に落ち着いたので、説明をしてもらうことになった。
「説明するより体験した方が早いかなー。んじゃ、外の訓練フィールドに出てね」
「「了解」」




