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奥さんの依頼 1

大まかな内容は、タイトルにもあるように

グル、クルル、サーフィーの3人が依頼を受けて

ストレスを晴らしまくる物語です。

勿論、コレには一つの代償があります。それは一番大切なもの。ストレスと一番大切なものを天秤にかけたような物語で、依頼者も訳あり。ほんの少しだけミステリー要素を含んだような小説で、皆様も共感できる点があるかもしれません。

“そのストレス、晴らします。”


 そう書かれた看板が目立つこの店では、依頼者のストレスを晴らすため、一番大切なものと引き換えに強盗から殺人まで何でもするのである。


「はぁ……」


 淹れたてのコーヒーを飲みながら、髪を一つに縛った男が溜息をついた。

 彼こそここの従業員のグルだ。ここでは真面目な方で、他の従業員からよく好かれている。


「どうですか? 淹れたてのコーヒーは」


 グルの隣に座り、肩をピッタリと密着させて笑顔を浮かべる若い男はクルルで、グルの後輩だ。髪を檸檬色に染めているのは明るい色が好きだからだろう。


「美味い。クルルも飲めばいいのに……」


 グルは勿体ないと言わんばかりの表情を浮かべて、コーヒーを全て飲み干した。空になったコーヒーカップからは、まだ香ばしい匂いがする。


「いや、俺は苦い飲み物が苦手なので!!」


 そう言ってクルルは苦しい微笑を浮かべる。一方、グルは耳を疑っていた。


「お前、昨夜にブラックコーヒーを三杯も飲んで、よくも

そんな嘘をつけるものだ」


「えっ……知ってたのですか?」


 呆気にとられたような顔でフリーズするクルルは、まるで逃げたところを捕らえられた猫のようだ。


「真横で飲んでたじゃないか。「うめぇ、仕事後はやっぱコレだ」なんて言いながら」


「疲れてたんですよ。俺も」


 大体の仕事が殺人。疲れるのも仕方がない。そんな会釈でグルが納得していると、勢いよくドアが開い た。


「ごめん! 兄ちゃんたちに渡した予定表明日のや つだった!」


 転びそうな勢いで部屋に入ってきたと思えば、髪を青色に染めた青年が大声で言う。

 この青年はグルの弟 でありここの従業員だ。クルルと同い年で仲が良い。


「ぶざけるな!! なら今日の予定は?!」


「えっと……十五分後だね! 頑張れば間に合うよ」


「間に合うか!!」


 グルとサーフィーが声を荒げて揉めている間に、クルルが急いで支度をしていた。


「二人共! 喧嘩しないで早くして下さい!!」


「そうだな……サーフィー、回転式拳銃といつものバッグをくれ。パソコンもだ」


「アイアイサー!!」


 いつでも準備できるよう本棚に全てを詰め込んでいるため、準備は素早く終わった。車に荷物を乗せると、誰も通らないような裏通路を通る。


「グルさん、そこ左折してください。あと5分くらいなので間に合いますよ」


 助手席のクルルが、地図を開きながら言う。グルは黙々と運転しながら、少し遅れて返事をした。


「分かった」


 一方、サーフィーは二人の間から頭を出して目を輝かせている。


「すげー、裏道とかあるんだ」


 初めて通る道でワクワクした様子を隠せていない。まるで、大海を知った井の中の蛙だ。


「そのくらい覚えろ。兄として恥ずかしい」


「……兄ちゃんって俺に対して冷たくない? クルルには甘いくせに」


 サーフィーが外方を向いて頬をぷっくり膨らませる。まるで拗ねた子供のようだが、身体だけはガッチリしていてギャップ萌え……いいや。一ミリも萌えない。


「着いた。着替えるぞ」


 車を端に停めて、グルはバッグを漁った。中からは武器や薬などが大量に出てくる。それらを避けて一番下に手を伸ばすと、女用の服が三着出てきた。


「……どうすんの。それ」


 絞り出したような声を上げたのはサーフィーであった。そうなるもの仕方がない。これが意味することはたった一つ。


「女装する。それだけのことだ。できるだろう?」


 女装である。しかも、メイド服などではなく本当に自然な服装で依頼者からきちんと借りたものだ。


「無理だよ、バレるって。声なら出せるけど体は変えれないもん」


「顔が良いからバレないだろう? 元々まつ毛も長いし、肩幅も狭いし胸に詰め物をしておけば充分だ」


 子供の頃からよく運動していたため、多少筋肉質だが女のような顔つきであることは本人も自覚していた。嬉しいかは別として、有利である。


「顔で誤魔化せるなら、頑張るよ」


 これにはサーフィーも弱気になり、用意された衣装を着る。クルルは化粧も終わらせていた。


***


全員の変装が終わると、本当に別人のように変わり果ててグルは依頼者本人。クルルとサーフィーはその友人というポジションで潜入することにした。豪邸のような家の前でインターホンを鳴らす。


「は〜い……って、なんだ。お前か」


 中肉中背の男が出てくると、その場に居たグルたちはそれが夫だと瞬時に理解した。


「ええ。私よ……ごめんなさいねアナタ。鍵を忘れてしまって」


 依頼者の声を演じるグルは、声に間違えがなく完全な女声を出し切っている。ポケットには拳銃を隠していた。


「ドジだなぁ……」


 クスクスと夫が笑う。そして、サーフィーの顔をニヤニヤとしながら見つめた。


「この人たちは?」


「私の友達よ。しばらく家に帰れないから泊めてあげてくれないかしら」


 眉をひそめてグルが心配そうに問うと、夫は歯を見せて笑った。


「大歓迎だよ。さ、入って入って」


 横目でサーフィーの胸元を見つつ部屋へ案内する。ひたすら、同性に妙な目で見られることに慣れていないサーフィーは不快以外の何でもなかった。


「クルル、手握ってて良い? 怖いから」


 廊下を歩く途中、誰にも聞こえない小さな声で言うと、クルルの方からサーフィーの手を握った。


「結構広い」


 クルルは周囲を見渡して呟いた。壁に立てかけてある絵画や骨董品。観葉植物なんかも並んでいて清潔感のある家だ。

 リビングに入ると椅子に座らせてもらい、紅茶を出される。勿論、その場の全員は顔を合わせてしばらく黙り込んだ。「毒が入っているのでは?」と疑っているからである。


「美味しいですね」


 初めに飲んだのはサーフィー。毒だったらという不安もあったが、美味しさでそれは掻き消された。


「そう言ってくれて嬉しいよ」


 夫は美人の隣に居るからか鼻の下が伸びている。気色悪い。まだマシだと耐えているグルを除いては二人共そう思った。


「あの、奥さん借りますね」


「え? うん。いいよ」


 夫とサーフィーがポカンとする中、クルルとグルがその場から離れてトイレまで向かった。


「どうした突然呼び出して……」


 グルが声を男性に戻して、小声で聞く。


「俺、いらないと思うんで情報交換だけしませんか? サーフィーに指示を送ったりしますから。多分ですけどアイツ一人で十分ですよ」


「そうか、なら帰ったことにしておく。二階あたりから指示を出してくれ」


「分かりました」


 ここでクルルは指示役として活躍することになった。しばらく作戦会議などを終えると、グルはリビングに戻って席につく。


「あの娘は?」


 夫がびっくりしてグルに問いかける。言い訳ならもう考えていたため、すぐに答えてみせた。


「家に帰れるようになったらしいわ。紅茶をありがとう、って喜んでたわよ」


「そうか……残念」


 聞こえるほどの大きさで言ったと思えば、こう続けた。


「お前、買い物は?」


「あー………してないわね。今から行ってこようかしら?」


「行って来い」


 グルからしてみれば計画が狂った。買い物に行っている間に何かがあっては遅い。バッグを肩にかけると少し速歩きで家を出ると、胸が嫌な予感でゾワゾワとする。

 ──この後、この予感が見事的中するなんて知る由もなかった。

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