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サーフィーは二人が居ない内に考えた。これは色気やらを使ったほうが良いのではないか?
そう思いながらメールを開くと、クルルに「どうすればいいの?」と送った。返信は一分もかからず、内容は反吐が出るものであった。
***
「ねぇ、旦那さん。お風呂ってどこかしら……よければ私と一緒に入らない?」
チラリと胸が見えるか見えないかくらいのところで服を脱がす。夫は耐えられなかったのか「いいね、一緒に行こう」と興奮混じりに風呂場まで足を急がせた。
(ふふふ……たとえ裸でも体は男だ。絶叫だね……)
サーフィーは、しめしめと笑っている。そう、そういう計画なのだ。さすがに筋肉質でがっしりしたサーフィーに手を出そうだなんて通常な人では無理だ。そう、通常な人は。
「さぁ、入ろうか」
「はいっ!」
胸から下までタオルを巻いてサーフィーは夫と風呂に入った。夫は下だけタオルを巻いている。
「体洗おうか?」
「えっ! いいんですか?」
サーフィーはニヤリと笑った。体を触ったら筋肉がすぐに分かる。この時点で飛び上がるだろうと思ったのだ。
「あぁ。いいよ」
夫もニタニタとして体に触れた。するとタオルが下がって体が明らかになる。
(どんな反応するかなーー?)
気になって仕方がない。頭だけをグルリと後ろに下げて夫の顔色を伺うと、それは想像を絶するものだった。
「はぁ、はぁ……」
興奮している。明らかに男ではないと分かったはずなのに。サーフィーは顔が青ざめて動くことも出来なくなった。引いていると言うのが一番分かりやすい。
「や、辞めて……体洗うだけにしてください。俺は男ですよ?」
説得を試みる。が、夫は下半身に巻いていたタオルを投げ捨て襲いかかった。
「君が誘ったんだよ」
「えっえ……イギャァァァァァァァァァ?! 離せケダモノ!! 襲うなんてサイテー! 人間としてあり得ない!」
夫の肩をバシバシ殴りながら言うが、そんな言葉は聞こえるはずもなく悲鳴が家中に響き渡った。
丁度、帰宅したグルはその悲鳴を聞いて風呂場に向かっている最中。クルルも階段を駆け下りている。
「クルル、お前やりやがったなぁぁぁぁ?! お前が責任取って襲われてよ?! 痛い痛い痛い」
「ごめんね!! まさかそんなことになるとか……ごめん!!」
女声で女らしさをキープすると、隣で明らかに怒っているグルの顔を見た。表では驚いたふりをしているが、下手したら殺されそうだ。眉間にシワが寄っている。
「は? 何してるの? 浮気よね。これって!! おかしいと思ってたのよ。やらしい目でいつも女の人を見ているから!!」
「ち、違う……これは……」
「風呂に入ってて、後ろから抱きついてる? これでよく言い訳しようと思えるわね」
心底おかしかった。なんせ、浮気したという証拠を掴んだのだから。
***
二日前の七時頃、依頼者が来た。若い女で、戸惑っているような表情を見せている。
「頼みがあるのですが……」
「どうしたんですか?」
グルはコーヒーを依頼者に差し出して正面に座った。
「それが…………
夫が浮気してるみたいなの……」
「え〜、サイテー。別れたら良いじゃないですか」
横からクルルが割り込んでくる。
「私はあの人が好きですもの……だから別れられないんです。最近これがストレスになっていて、スッキリさせたいのです」
依頼者は割り切った顔で言った瞬間、場の空気が変わった。
「いいでしょう。なら証拠を掴んで貴方の本心を代わりに言います」
グルはファイルから契約書を出すと、鉛筆と共に渡した。
「これは契約書です。貴方の一番大切なものを貰う代わりに、ストレスを晴らしましょう」
そう言われ、依頼者は困ったように眉をひそめる。やがて財布を漁り始めた。
「これ、八十万。これを貴方たちにお渡し致します。お金は一番大切ですもの……」
「毎度あり。サインしてください」
営業スマイルでグルは黒いカードを受け取ると依頼は成立した。
***
「私はこれほどもなく貴方を愛していた。なのに……何で……何で浮気をしたの?」
役者のように感情を込めて言う。夫は汗を流し、目を合わせないようにしていた。
「と、とんでもない……僕は君を愛してる」
「ふざけないで!!」
夫の顔を本気でビンタする。手形がつくなんて漫画でしか見たことがないが、赤い手形がついていた。
「ふざけてなんかない!! これは勘違いだ!! 俺とコイツは友達……」
そんな訳がない。抱きつかれているサーフィーは思わず失笑した。
「証拠ならあるよ。ウチのクルルすげぇ有能だからさぁ……タオルに盗聴器仕掛けてんだわ。しかも風呂場に監視カメラ。逃れることなんて出来やしないよ」
「……は?」
驚きのあまり、夫は口を開けて情けない顔をしている。やがてとどめを刺すようにグルが言い放った。
「他の女と浮気してたでしょう? この口紅に覚えは?」
握っていた手を開くと、小さな口紅が落ちた。クルルが部屋を探索してベッドの下から見つけたものである。
「……ククッ…………」
男は引き笑いをすると、目を大きく開けて立ち上がった。
「俺はなぁ! 穴があればそれで良いんだよ!! 顔しか見てねぇんだ。それ以外はどーーだっていい。男でも女でもいいんだ」
無論、その場の全員が引いてしまって妙な間ができた。はじめに口を開いたのはサーフィーである。
「え? うっっわ、最低というか……今まで喰った女の数とか覚えてる?」
どこかの漫画に似た台詞があった。だが、それを思い出す暇もなく夫は高笑いしてみせる。
「ハハハ。覚えてるわけねぇだろ? でも金持ちで色気もあるコイツ(依頼者)は最高だから手放したくねぇんだよ」
理由も腐敗していて、クルルは背に隠してあった拳銃をいじり始めた。
「失礼だけど、名前覚えてるよね」
「ん……は? 千代子」
「苗字は?」
「……」
まさかの、覚えていない。思わずグルが口を開いた。
「信じらんないわ。別れましょ」
ストレスを晴らすだけにしたはずが、別れる宣言をしてしまった。ちなみに、クルルがこの間メールで聞いてみると「こんなやつと付き合っている方がストレスになる」とのことで逆に感謝されたらしい。
「待ってくれよぉ……」
その場から去ろうとするグルの足を掴んで男が泣きつく。すると、耐えきれなくなったのかサーフィーが助走をつけて飛び上がった。
「お前はやぁーーっぱりクズだよ!! 何さ、女を穴としか考えてないなんて猿以外だね! 君みたいなやつは思考から正さないと駄目だと思うよ?」
そんなことを言いながら夫の頭を踏んづけ、馬乗りになった。
「全世界の女の子に謝って?」
「あ? んで俺が……いででででで……」
サーフィーが耳たぶを強く引っ張る。夫が頭を切られたうなぎのように暴れまわると、お構いなく関節技を食らわせた。絵面など気にもしていない。
そんな中で、グルはスッキリした表情で言い放った。
「精々、男同士で楽しみなさいよ」
***
それから約数時間経過すると、女装を仕舞って風呂場に腰を掛けていた。夫の顔は青ざめて、全身から血液が流れている。
「辞めとけって、痙攣起こしてるぞ」
クルルが証拠など拭き取ると、指紋がないか徹底的にあたりを見る。手袋などをしていたために証拠なんてほぼなかった。それより、夫の血を洗うほうが大変だ。
「クルル〜仕事してよね? 俺は制裁してあげてるんだから」
「証拠見つけたの誰だと思ってるんだ?! お前は暴力でしか解決しないけど、証拠とか隠すために俺とグルさんが骨折って……」
「あーー、はいはい。凄いですねー」
興味なさそうにするサーフィーを見て、クルルはついに拳銃を構えた。
「殺んの? いいねー!!」
血に興奮していたのか、サーフィーは服を着ると懐から拳銃を取り出す。グルが速攻で止めた。
「辞めろ。ここは日本だぞ」
二人は元々、アメリカなどで銃を扱っていたこともあり銃社会ではない日本でも癖として出ていた。彼らがいたのは表社会ではなく反社会だ。
グルが二人を落ち着かせると、すぐに黙り込み拳銃をしまう。きちんとサーフィーが着替えてからその場を去った。 ちなみに、夫の後始末などは業者が来てくれるらしい。
そして車の中でも、二人はしばらく喧嘩をしていた。
「兄ちゃんは依頼者に成りすましたよ!! でもクルルはサボって、あの男に俺を襲わせたんだ!!」
根に持っている。だが、そうなるのも無理はない。業界として当たり前でも若いサーフィーからしてみればただの拷問だ。
「はぁー?! 米国帰ったら覚えてろよお前」
「俺の家はロシアですー!! 本部には一生戻りませーーん」
本部というのは暗殺や反社の本部で、それはアメリカ合衆国のどこかにある。
「なんだと?! グルさん、コイツの躾がなってません!!」
「俺に言うな。お前よりか子供っぽいから、可愛がってやると成長するんじゃないか?」
運転しつつ、グルは馬鹿にするような笑いを見せた。さて、これで一つの依頼を終えたわけだが休む暇などない。三人は店へ戻ると予定していた依頼者と対面することになった。




