99.弱点ないなら作ればいいじゃない
最初の戦いをほぼ無傷で終えたところで――
『お兄ちゃん! 次、どこ向かう?』
「たしか時間経過で縄張りってのが外周部から狭まっていくんだっけか」
『そだよ~!』
「じゃあフィールドの中心目指せばいいんかね?」
『って、思うじゃん? なんか必ず中心になるってわけじゃないんだって』
「そうなの? 面倒くさ」
『だって毎回同じところがゴールだと、そこで待ち伏せとかする方が良かったりするし』
安全地帯はある程度ランダム性をもって決まるらしい。
どんな状況であれ外周部近辺はあまりよろしくない。
かといって、中央部目がけて直進すれば、狙われやすい。さてどうしたもんか。
「セオリーみたいな動きってあるんかねドラミちゃんや?」
『そだねー。石の建物の森がいくつかあるから、それを伝っていくのが普通かも』
「他のドラゴンもそうするってことよな」
『けどけど、平原お散歩してたら見つかっちゃうからぁ』
巨大な建築物の廃墟群はドラゴンの身体を十分に隠しながら移動できる。
他の参加者より小柄なドラミちゃんなら、基本はコソコソするのが鉄板か。
で、不意の遭遇戦と建物の上から奇襲仕掛けてくる奴に注意ってとこだな。
「よし。こっから北東に見える建物群に向かうぞ。私が上空と後方を警戒するんで、ドラミちゃんは前方周囲を見るんだ」
『りょ!』
了解を訳したんかな。私を頭に乗せたまま、ピンドラは敬礼した。
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灰色の石柱群に入る。遠くから轟音爆音が聞こえてくる中、比較的平和だった。
極論、バトロワは最後に一勝すればいい。
余分な戦闘は余計な消耗を生む。
とはいえ、最終盤に残る猛者たちを相手にドラミちゃんとの連携をぶっつけ本番で試すのもリスキーだ。
ま、出会っちまったらバトりつつ、慣熟訓練していくってのがいいかもな。
私もドラゴンライダー初心者だし。
上方向と後方警戒。今のところ問題なし。
と、ドラミちゃんの顔が突然横方向にベチンと曲がった。
まるでビンタされたみたいに。私も危うく振り落とされそうになる。
『んぎゃ! な、な、なになに!?』
「おちつけドラミちゃん」
『いきなり殴られたぁ』
「誰にだ?」
私が進行方向に向き直る。
そこには誰もいない。いや、何も存在しなかった。左右に林立する高層建物と、まっすぐな舗装路だけだ。
ドラミちゃんは何も無い目の前の虚空を前足で駄々っ子パンチ気味にひっかく。
『やだやだばかばかばかー!』
「誰もいないぞ?」
『あうぅ! けどけどぉ!』
本当に前方向から攻撃されたのか?
「ドラミちゃんって鼻は利く方か?」
『うぅん。あんまし。鼻炎かも。もしかしたら花粉症? 最近、炭焼きのお仕事でずうううっと森にいたからにぇ』
火の息吐いたり熱風の鼻息を出したりするけど、花粉症にはなるんだ。
「気配は感じるか?」
『わがない! いきなりだよ! いきなりベチンされたのぉ!』
攻撃を受けた本人が一番混乱している模様。まさか警戒しているにもかかわらず、正面から奇襲を受けるとは。
にしては追撃の気配が無い。
「とりあえず壁を背にして警戒しながら移動だ」
『う、うん』
ピンドラが歩きだそうと踏み出した瞬間、衝撃が走って妹ちゃんは前のめりにズベベンとヘッドスライディング気味になった。
「どうしたドラミちゃん? いきなり五体投地で悟りでも開いちゃったか?」
倒れたまま首をふるふる横に振る。足下揺れるんであんまり動かないで。と、言っても身体が反応しちゃう子だから諦めの境地の私です。
『違うの違うのぉ! なんかに足が引っかかったぁ!』
「本当ぅ? 別に転びそうになるものなんて何もなさそうだが?」
『う、嘘じゃないし! ウチ、嘘なんてついてないし! う、ううっ……うわあああああああああんん!』
「ああ、ごめんごめんねドラミちゃん。疑ってないよ。お兄ちゃん全然疑ってない」
『よ、良かったぁ。お兄ちゃんに裏切られたらウチ、もう生きてけないよぉ』
いつからそんなに依存体質になっちゃったんだか。
しかし――
ドラミちゃんを泣かせるような真似をして。
いったいどんな奴か、面を拝みたいんだが……右見て左見て上見て下見て後ろ見て。
敵の姿はどこにも見られない。
とりま後背をとられないよう、ドラミは立ち上がってぴったり背中を廃墟の壁につける。
「ふーむ、見えない相手か」
『え、えええ!? どうしよおおお! もうおしまいだぁ……見えなきゃ攻撃も防御もできないよぉ!』
「泣くんじゃない妹よ」
『でもでもぉ! お兄ちゃぁあああん! もう負けなんだぁ……ううっ』
「落ち着きなさいって。まず、相手の立場になって考えてみようか」
『相手のぉ? 今頃、勝ち確定でニヤニヤしてるんでしょぉ!? そうなんでしょ! わかるんだから!』
「相手の気持ちになったの偉いぞ」
『わーいわーい! お兄ちゃんに褒められた! 嬉しい!』
「それはそれとして、おかしくないかドラミちゃん?」
『なんでぇ? おかしくなんてないよ! 死ぬんだぁ』
「情緒の反復横跳びやめなさいってば。もし相手がこっちから視認できないとして、なんでビンタとか転ばせたりとかしたと思う?」
『趣味?』
「妹ちゃんよ。この卑怯者はさぁ……全力で相手をぶん殴ってワンパンKO狙えないんだよ」
『ハッ!? そ、そうなの!?』
「たぶん大きくも速くも動けない。動くと透明化が解けるんだろうな」
『じゃあなんでひっぱたいたの!? ウチの顔ペチンしたの!?』
「ワンチャン、攻撃して上手いこと水晶の板を割れたら儲け! くらいの気持ちだったんじゃね? 相手をコケさせるのも、ラッキーパンチ狙い……ってね」
『うんうん。ふぅ……危なかったにぇ』
ドラミちゃんの右前足が思わず背中側を庇うようにした。
瞬間――
「ドラミちゃん右にドラゴンパンチ」
『ドラパンオラアアアアアア!』
言われるままピンドラの拳が何も無い虚空をぶん殴った。
ドゴオオオオッ!
と、手応えあり。ヒョロガリっとしたカメレオンチックなドラゴンが首を真横に向けて地面にぶっ倒れた。
鱗の色が周辺の色を模してめまぐるしく変わる。光学的迷彩ってところだが、気配まで遮断するんだから魔法力も働いての、姿くらましなんだろう。
カメレオンの口からひょろりと長い舌が鞭のように伸びる。その先端にキラリと光る水晶の板。
『どっせえええええい!』
私が命じるまでもなく、ドラミちゃんは舌を後ろ足でドスっと踏みつけた。
パリンと快音響かせてカメ(レオン)ドラ(ゴン)は失格である。
ピンドラがハッと目を丸くした。
『って、なんでわかったのお兄ちゃん!?』
「相手の気持ちになって考えたまでだぞ。相手は姿を消している間、ゆっくりしか動けない。で、私たちには見えてないと思えば、しばらく近くにいて隙を晒すのを待つだろうと思ってな」
『でもでも、右って!? どして!? 右から来るってわがっだの!?』
本人に自覚が無いらしい。
「ドラミちゃんさぁ、隠し場所の話されて自分がどこに水晶の板をしまったか心配になっちゃったでしょ?」
『あっ……べ、別にぃ……そんなとこに隠してないけどぉ』
口笛でも吹くようにピンドラは細く尖った火炎ブレスをぴゅーぴゅーと宙に振りまいた。
わかりやすすぎる。
敵にわざと隙を晒して、そこを狙わせカウンター。思いのほか上手くいったな。
巨体とパワーでごり押ししてくるばかりかと思ったが、ドラゴンの中には姿と気配を消すような、トリッキーなのも混ざってんのね。
こういう搦め手タイプは弱点つきやすいけど、シンプルにフィジカル強い奴と正面からぶつかったら……。
ま、そん時はそん時で。強めに当たって後は流れで……である。




