67.どっちもどっちのラブサバイバー
ピンクのツインテールをフリフリさせて、ドラミは元聖女と淫魔を交互に見る。
で、長女ズはといえば私を凝視しっぱなしだ。
どっちが彼女か? なんて地雷原の上でタップダンスしやがって。
おもしろ家族、最初にして最大の危機到来。
三すくみならぬ、四すくみ。
が、淫魔の尻尾が不機嫌な猫よろしくバタついた。
糸巻きは辛抱強くできたのに、抑えが効かないこともある。
サッキーは「はい!」と挙手して胸を縦揺れ横揺れ斜め揺れ。
機先を制した格好だ。シャンシャンが「うっ……」と、うめく。
嫌な予感しかせん。
アイドル衣装のドラミは腕組みして淫魔の前に立った。
対する淫魔は普段のビキニルック。
ピンドラアイドル、ビキニを値踏み。足下から太もも、鼠蹊部、くびれた腰に、ドラミよりも背が低い(つーかドラミがでかい)のに、大きさではむしろ淫魔にアドバンテージがあるかもしれない胸を見る。
その刹那――
ドラミは正面からサキュバスの胸を左右それぞれ、もぎゅっと揉みしだいた。
「――ヒャンッ!?」
淫魔が変な声を出す。
ピンドラはうんうんと、二度ほど頷いた。
「お兄ちゃん! 良い大胸筋だよ! おっけぇぃ!」
「私に報告するんじゃないよ。セクハラドラゴン」
「なんでぇ? せくはらって? いい感じの大胸筋なのにぃ?」
「大胸筋大胸筋うるさいよおっぱいでしょうが!」
「おぱい? あー……し、知ってるし……知ってるけどぉ?」
不思議そうな顔するんじゃないよドラミちゃん。これだから哺乳類起源じゃないやつは困る。
と、心の中でツッコんだのもつかの間――
揉まれっぱなしのサッキーが頬をピンクに染めて俯いた。
「べ、別にメイヤの妹ちゃんなら、全然気にしないっていうかむしろ歓迎するし」
しおらしい淫魔の反応に、ドラゴンは鷲づかみにした胸をもみゅもみゅもみゅとする。
「ん……ふぅ……あん」
サキュルの口から熱い吐息がこぼれた。頭の中ピンクチームめ。なんちゅーもんを見せてくれるんだ。
シャンシャンは顔を両手で覆って、指の隙間から……やっぱ見てんじゃん。
淫魔が呼吸を整える。
「ハァ……ハァ……ね、ねえメイヤ。兄妹と淫魔の3Pなら百合で挟むのに該当しないんじゃないかな? これにシャロンも参加したら、もうハーレムってことで大丈夫だと思うんだよね!」
サキュバスはサムズアップ。
なにが大丈夫だ? そのまま煮えたぎる溶鉱炉に沈めてしまおうか。
巻き込まれ事故に遭った元聖女が「だ、ダメよサキュルさん! そ、そういうの良くないわ! 家族なんだから」と大焦り。
すると――
ピンドラがパッと淫魔の大胸筋から手を離す。
くりっとしたコーラルピンクの瞳が、じっと私に問いかけた。
「家族なの? 恋人じゃなくて? どうにゃのメイヤお兄ちゃん!?」
「そうだぞドラミよ。金髪の胸平らな方は元聖女のシャロンこと、シャンシャンだ」
「シャンシャンちゃん!」
「で、こっちの変態ショートボブ淫魔がサキュルこと、サッキーだ」
「サッキーちゃん!」
「二人とも私の娘だ」
「娘ちゃんだぁ~」
復唱乙。
紹介の仕方がご不満なようで、シャンシャンもサッキーもむくれた。
「もっと言い方ってものがあるでしょメイヤさん?」
「そーだそーだ! サキュルは変態でショートボブで淫魔で巨乳で可愛いんだよ! もっと解像度上げてって! どうぞ!」
と、ここで元聖女がフッと気づく。
「ねえメイヤさん。つまり、娘ポジションのあたしたちからみると……」
サッキーがピンドラの顔……というか、胸を指さした。
「メイヤママの妹だから、ドラミおばさん!」
ピンドラのスカートの下から太い爬虫類な尻尾がずるりと伸びた。
「きゃあああああああ! いやあああああ! ウチはおばさんじゃないしぃ!」
シャンシャンが困り顔だ。
「そ、そうよね。こんなに可愛いのにおばさんだなんて。ドラミさんはええと……おいくつなの?」
ピンクの鱗に覆われた手で、ドラミはWピースする。
これまた元聖女はリアクションしずらそうだ。
「あっ……二本二本ってことは……22歳? メイヤさんって、たしか魔導学院中退よね? そっか浪人! 受験失敗して一浪二浪三浪したんでしょ?」
「おい貴様! 増やすな増やすな。間違っているぞ」
「じゃあ双子の兄妹って……こと? 全然似てないわよ?」
それ以前に、尻尾が生えたり前腕ドラゴン化してるのを気にしなさいよ。
で、サキュルはといえば太いドラゴンの尻尾と、自身の悪魔っぽい矢印尻尾を見比べて「すごく……おおきいです」と、生唾を呑み込んだ。
もうやだこいつら。
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元聖女が清楚だって? シャンシャンはどうみてもアレだろ……常識的に見える狂人枠だろ。
このままでは収拾が付かない。
「いいか貴様ら。ドラミは22歳じゃない。2200歳の高齢ドラゴンだ」
「お兄ちゃん酷いよ! バカ! ぷぅ! もっとこういうときはあるでしょ? 人間の年齢に換算したらって」
「黙れ2200歳児。ともかくキャンプになんの用だ?」
「妹がお兄ちゃんと一緒にいるのは、普通でしょぉ? いいなぁいいなぁ。シャロンちゃんとサキュルちゃんが裏山ぁ! ウチもなー引っ越しとかしようってちょうど思ってたんだよにぇ」
「まさか、住むとか言わないだろうな?」
「え? ダメにゃの?」
シャンシャンが微笑む。
「ようこそ、おもしろ家族のキャンプへ。歓迎するわ」
急に何言い出すの? と、驚く私以上に淫魔が目を丸くする。
「えええええええええええッ!?」
「だってメイヤさんの妹さんなんでしょ? 追い返すのは可愛そうよ」
「け、けどさぁ、落ち着いてシャロン。サキュルのおっぱい大きいでしょ? ドラミのおっぱい大きいでしょ? あっ……やめて聖女の回転光ノコギリ出さないで!」
「サキュルさん肩こりしてない? ちょっと軽くしてあげるわ。大丈夫ちょっと斬るだけだから」
「ひいいいいいお助けぇえええ!」
逃げる淫魔を軽やかな足取りで元聖女が追い回す。手には聖なる八つ裂き光輪。今日もフル回転だ。
突然始まった鬼ごっこに、ピンドラは尻尾をびたんびたんさせた。
「わあああ! いいないいな! ウチも逃げていいお兄ちゃん?」
「捕まったら死ぬけどな」
「デスゲームだぁ!」
人間風情にゃ負けないってか。それとも良くわかってないのか。
と、サキュルがシャロンに捕まった。
「助けてメイヤ! ドラミ!」
背後で元聖女が「あなたもなるのよ! まな板に!」と囁いた。目がちょっぴりマジなんですがそれは……。
「お兄ちゃん! 助けてあげないと! 娘さんなんでしょ?」
「いいんだ。別に血のつながりもなんもない、赤の他人なんだから」
「ええっ!? そーにゃの!?」
「言うて貴様もだぞドラミちゃん」
「ふぃーん! ひっどーぉい! お兄ちゃんになってくれる契約したじゃんしたじゃんしたじゃん!」
してないんだが。レンガ焼く契約だったんだが。
シャンシャンとサッキーがじっと私とピンドラを見比べる。
「ねえメイヤさん? その子ももしかして……」
「サキュルたちと同じ感じ? ごっこ的な家族っていうか」
「道理でドラゴンみたいな尻尾とか腕に鱗生えたりしちゃって」
と、ここで爽やかな平原の風が吹き抜けた。
ぶわえりとプリーツが巻き上がり、毛の一本も生えていない綺麗な恥丘をドラミがさらす。
元聖女がサキュバスを解放すると、私にゆっくり近づいてきた。
「ぱ、ぱ、パンツくらい穿かせてあげて! メイヤさん鬼畜なの?」
「私の指示じゃないぞ。ほれドラミよ、言ってやれ」
ピンクドラゴンはニッコリ笑って「お兄ちゃんと契約したら、こうなったんだぁ」って、それは人間化するって意味だよな? 意味ですよね?
あっ……シャンシャンしまおう。回転白刃しまおう。な?
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元聖女を落ち着かせ、淫魔を説得し、ピンドラに一から順に説明させる。
苦労の甲斐もあって、長女ズはようやく納得した。
四人で焚き火台を囲んでベンチにつく。
シャンシャンがため息を一つ。
「ハァ……あたしやサキュルさんを受け入れてくれたメイヤさんだものね」
淫魔も下乳持ち上げ腕組みだ。
「そだねー。じゃあじゃあ、ここは一つ平等にドラミも三人目の長女ってことになるのかな?」
一方ピンドラはといえば。
「やだぁ! お兄ちゃんの妹なのぉ! ウチは可愛い妹ちゃんだからぁ」
実年齢2200歳。肉体年齢人間換算22歳。精神年齢幼女。住所不定無職の自称妹。
すると――
「じゃあ、あ、あたしもなっちゃおっかな。メイヤさんの妹に」
「なるなるー! サキュルも妹になりたーい!」
「だめぇ! だ、だいたい、妹になったらお兄ちゃんとはラブラブ関係になれないんだからね? いいの?」
「「辞退します」」
元聖女も淫魔もなに声を揃えてるんだ。だいたい家族の時点でそうはならんやろがい。
ラブラブ関係って。なんだよ。ったくよぉ。
で――
これまで通り長女ズは長女ズ。ピンドラは妹ということになった。
家族が増えたな。やったねメイヤ君。
ハァ……保護者は……やっぱつれぇわ。




