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65.手作りクッキー感覚でレンガを焼いてみよう!(要:火竜)

 赤い粘土を捏ねて木枠に入れて成型して並べる。


 人間モードに戻ったドラミが、出来たてほやほやの粘土ブロックを指でつんつんした。


「お兄ちゃんみてみて! 指のあとつくにぇ!」

「こら! おやめなさいってば……って、指つーか……桜の花びらみたいだな」


 ブロックの真ん中に、ぽつんと花弁のくぼみができた。


「かわいいね! ウチとレンガブロック、どっちがかわいい?」

「そりゃレンガだろ」

「お兄ちゃん! そこは『ドラミちゃんが世界一かわいいよ』でしょぉ?」

「言わせるな恥ずかしい奴め」


 と、ツッコミもむなしく、私が並べた二十四個のレンガブロックすべてに、ドラミは桜の刻印をしていった。


 どのみち試験的なものなんで、まあ、好きにさせとくか。別に売り物にするでもなし、積んでしまえば小さなヘコみを隠しもできる。


 さて――


「ドラミよ。まずは温風で乾燥させろ」

「やっ! お兄ちゃん嫌い! やっ! やっ!」


 ツインテールをぶんぶん横に振り回す。魔獣使いが操る双鞭みたいに左右から私の顔面をベチンベチンしてきた。


「金なら払うぞ」

「お金の関係嫌い! お兄ちゃんのばか! 乙女心わからず野蛮人!」

「まったく……ん、んー……えー……ドラミちゃんが世界一かわいいよ」

「え? お兄ちゃん、ウチってかわいいかな?」


 寸劇始めるな。とはいえ、付き合わねば働かないんだろうなぁ。


「ああ、本当だとも。どこに出しても恥ずかしくない、自慢の妹だ」


 ドラミは耳まで真っ赤になって、膝頭をもじもじとすりあわせた。うつむき気味で、上目遣い。


「そっかぁ。けど、ウチはお兄ちゃんとずっと一緒にいたいから、どこにも出してほしくないよ」


 私の隣にぴたりと寄り添って、肩に頭をこすりつける。


 なんだこいつ。大型犬っぽい雰囲気だけど、猫か?


「なでなでして! お兄ちゃん♪」

「まったく、この甘えん暴君が」


 撫でてレンガが出来るなら、いくらでも撫で倒してくれるわい。



 上機嫌なピンドラが鼻息温風でレンガを乾燥させた。200℃の温風だ。

 続けて焼成の工程に入る。


 炎のブレスがブロックを包み込んだ。


「とりま十二時間かけて950℃キープしてラスト三時間で1200℃まで上げてくれ。焼き上がったら半日かけて自然冷却だ。いいな?」

「ギャオギャオ!」


 ドラミが頷くと炎の渦も上下に揺れる。


「危ないから首振るんじゃないよ! お兄ちゃん燃やす気ですか貴様?」

「ギャオオン」


 今度は首を左右に振った。なぎ払うような火炎波が私を包む。


 寸前のところで転移魔法でピンドラの背後へ。


「ほら、いわんこっちゃない」

「ギャオン」


 くるっと竜の首が後ろに向く。


「振り返るんじゃないよ!」


 転移魔法でまた回避。

 殺気がないもんだから、虚を突かれることもしばしば。

 油断してると普通に焼かれそうだ。


「んじゃ、明日になったら様子見に戻るんで。頼むぞ我が愛しき妹よ」

「ギャオンギャ!」


 ドラミは炎を吐き続けつつ、前足で器用にサムズアップした。

 今度は短距離ではなく一気にキャンプ地へと跳ぶ。


 手の掛かる……というか、手に余るピンドラに比べたら、シャンシャンもサッキーもかわいいもんだと思うのでした。



 焚き火台に薪をくべ、着火の魔法で火をつける。


 空気を吹き込み炎に育てた。ドラゴンの一吹きと違って手間がかかるものだ。火起こしに魔力を使っても面倒くさい。


 ヤカンで湯を沸かしコーヒーブレイク。


 私が休憩している間もドラミはずっとブレスを吐き続けているはずだ。


 人間の尺度なら、十数時間も同じ作業をするのは苦痛を伴う。


 が、2200歳児のドラミの場合、竜形態なら時間の感覚が乏しくなるとかで、一日中でもブレスを吐き続けられる……らしい。


 レンガの木枠やバケツにスコップ類も向こうに置いてきた。私の作業……というか、人間の営みに興味津々のドラゴンは、レンガ造りをしたいとのたまったのである。


「お兄ちゃんのやりたいことが、ウチのやりたいことだから、教えてくれたとおりにがんばるね! うまくできたら、いっぱい、いーっぱい褒めてにぇ!」


 と、対価らしい対価も求めない。


 こういった無償の善意と全幅の信頼を寄せられると……弱いな。


 契約した以上、こちらばかりが得をするのは避けたいところだ。



 書庫の中心で安楽椅子がぴたりと止まる。


「君、ドラゴンよりも前に、わたしへの感謝の印はないのかい?」

「貴様は妹ではないだろうロリッ子よ」

「ムッ……では、お、お兄……ちゃん」

「震え声で何言ってんの?」

「今日はもう帰ってくれたまえ」

「待て待て。ドラゴンの好物とか喜ぶものを教えてくれんのか? あっ……さては知らないんだな貴様?」

「知っているとも。金銀財宝などキラキラと輝くモノを集めたがる。あと、基本的には肉食で家畜や人間を襲って食らう。だから忌み嫌われ討伐対象にもなるのだよ」


 ロリはフフンと鼻で笑うと、コーヒー染めの膝掛けを優しく撫でた。


「金には興味ないみたいなんでな」

「では君、肉ではないか?」

「あのデカさだし、牛一頭一口サイズなんだが……」

「ならば人間の姿の時に、ごちそうしてやるといい」

「あっ……貴様、冴えてるな」

「誰でも気づくことだよ、君」


 レンガを焼いてくれた例に、窯を作って焼いたパンだのピザだのグリルチキンだのをごちそうするのはどうだろうか。


 ドラミも自分が作ったブロックで、人を幸せにできると解れば気分もよくなるだろう。


 となると――


 燻製肉やらは一旦市販品でお茶を濁すとして、次の課題はピザ生地……ま、ぶっちゃけパンだな。


 ちょうど目の前にお喋りしたがりなレシピ本……もとい、知識の源泉(自称)もいることだし、レンガが出来るまで調べておくとするか。

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