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56.なんか大変なことになってんなぁ(すっとぼけ)


 聖王都のダンキに日用品を買いに行ったら、虹色(?)のマフラーやらショールやらが売られていた。


 つってもアレだ。見る角度で色が変わったりしない。七色に染めた綿をよった糸で編んだだけのものである。


 偽物なのにバカみたいな値付けだ。単色染めに比べりゃ手間は掛かってるだろうけど、十倍近い価格でふっかけてやがる。


 それが飛ぶように売れていた。在庫を並べたそばから、主婦たちが奪い合いのバトロワ会場と化す。


 子供なんか放置されちゃってさぁ、わんわん泣いてるし。


 激安の殿堂で争奪戦が起こるなんて、おーこわ。


 私はしゃがんでちびっ子男児の頭を撫でる。


「大丈夫か少年よ」


 目が合った途端、男児は私の顔を見るや「怖いいいいいいいいいいいいいいい! 不審者ああああああああああ! おがあざあああんん!」と悲鳴を上げた。


 失礼な。


 で、子供がますますぐずってんのに親は目の色変えて、偽物を掴むと「わたしが先よ! わたしが先なんだから!」


 って、必死か。


 なんか、私のちょっとした好奇心とお小遣い稼ぎのはずが世間を騒がせちまってるな。


 店員に「どうしてこうなった?」と訊いてみたところ――


 どうやら聖王が芸術侯爵カーマインから召し上げたってのが市井(しせい)の噂になったとか。


 影響力えっぐいなぁおい。


 妙な気分だ。私が刈って染め、淫魔が糸にして、元聖女が織ったマフラー。


 カーマインによって形を変えたとはいえ、聖王国じゃ人権の無い三人の生み出したものを、トップが手にしているなんてな。


 なんかちょっとイラっとした。


 そうだ。在庫適当に流しちまうか。


 一旦キャンプに戻った私は、虹の毛糸玉の在庫をあるだけ聖王都の仕立屋に売りに行った。


 本物を見たこともない連中だ。どうせ偽物でしょ? 的な反応をされたけど、まあ、適当な値段で買い取らせた。


 この仕立屋たちも、本物だとは思わずに商品にして、適当な値段でレプリカとして売るんだろうな。


 で、今回得たお金で、私は王都の下町にある織物屋で埃を被っていた、古い織機を購入した。


 新しい織機を導入してから、使わなくなって倉庫を圧迫してたんだとさ。

 まあまあデカい。小型のアップライトピアノくらいある。


 転移魔法で運び出す。いきなり私が目の前から消えたんで、きっと店主も驚いたかもしれんけど。ま、そこはそれ。


・

・

・


 織機はひとまず、ログハウスのリビングに設置した。室内に置くとけっこうデカくて空間を圧迫しやがりますね。


 新しい玩具に元聖女と淫魔が興味しんしんだ。


「これ、買って来ちゃったの? 虹の毛糸の代金で?」

「文句あるか貴様?」

「ねーねー! どうやって使うの? これ何する道具なの?」

「布が織れるらしいぞ。知らんけど」


 シャンシャンが目を丸くする。


「知らんけどって、使い方わからないのメイヤさん?」


 私は胸を張って頷いた。


「うむ。わからんことはロリコア書庫で調べろ」


 サキュルが尻尾をぶんぶん左右に振る。


「じゃ、よろしくねシャロン! サキュル難しいことわかんないし」

「え、ええぇ……あたしが担当するって……ことぉ?」

「そーだよシャロン! サキュルが糸巻き巻きするからね! これで織った布でランチョンマットとか、頑張ればラグとかできちゃうんじゃない?」


 面倒臭そうにしていたシャロンの瞳がパッと輝いた。


「いいわね! カーテンとかも作れちゃうかも! じゃあメイヤさんよろしくね!」

「何がだシャンシャンよ?」

「羊毛刈って洗って染色する係よ。あたしはこれから織機の使い方を勉強しなきゃだし、サキュルは糸巻きしなきゃでしょ? 家族は協力するものよ。はい分担分担♪」

「くっ……仕方あるまい。良かろう」


 と、元聖女は首を傾げた。


「けど、あの七色の糸だと部屋の中がキラキラしすぎて落ち着かないかも」


 淫魔は「いーじゃん派手で!」と乗り気だ。が、私もシャンシャンと同意見だった。


「染色しない方がいいか?」

「白は汚れが目立つだろうし、ログハウスに合う自然な風合いの染めができるといいかなって思うのよね」


 簡単な染料で風合いが自然とな。

 なるほど……。


「ちょっと相談してくるわ」


 私は迷わずロリコア書庫へと跳んだ。


・

・

・


「コーヒー染めだよ、君」


 相談と同時に即答である。幼女は安楽椅子を一揺らし。


「コーヒー染みの間違いじゃないんか?」

「一文字違いで別モノだな。が、とりあえずやってみるといいよ。洗った綿を水と牛乳1:1に浸ける。一時間ほど経ったら洗い流さず絞り、陰干しする。コーヒーの出涸(でが)らしを煮詰めて染液を作って染める。最後に塩を加えて熱して色を定着させる……とのことだよ、君」


 色の濃さはお好みで。と、幼女は最後に付け加えた。


 ふぅん。いいじゃない。普段飲んでいるコーヒー。たき火に入れて燃やすくらいしかなかった出涸らしに、こんな活用法があるなんてな。


「出来上がったら、貴様にも何かプレゼントしてやろう」

「では、膝掛けなどあると嬉しいな。いや、寒くはない。わたしはそういう身体だ。だが、雰囲気は良いと思わないかい?」

「シャンシャンに伝えておく。まかせろ」

「契約成立。期待しているよ、君たち」


 虹色の狂想曲で世間が騒がしい昨今、我々おもしろ家族は自然派で逆行していく所存である。

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