交渉成立
「どこに行ってたんだ!急にいなくなるなんて心配するではないか!」
やばい。
めちゃくちゃ怒ってる。
脇の下から手で持ち上げられて、クワンリの顔の正面にぶら下げられる様に抱き直されている。
目が怖い、思念での会話なので口が動いていないから余計に真剣な顔が際立つ。
顔を逸らしても、覗き込まれる....
身をクネらせて逃げようと試みたが、馬鹿力女から逃れられる訳がない...
「ごめんなさい。直ぐに帰って来るつもりだったんだよ〜山猫族から人化の呪文も教えて貰いたかったし。」
「ノル!戻れたのかっ!人型に!」
クワンリはもう怒った顔では無くなって、
ちょっと嬉しそうな顔をしている。
「駄目だった...すごく濃くて部屋いっぱいの霧が出たんだけど、呪文がうまく言えなくて...」
今度は心底ガッカリした顔で、
「ここへ来てからノルは人型になってないだろ?そろそろ子供ノルにならないと猫に引っ張られるぞ。」
はい、だいぶ引っ張られておりました。
雑草食ってました...
「それに成り行きでカメムシ城の偵察もしてきたんだ。
後でオババにも相談に乗って貰いたい。後、君にも大事な頼み事もある」
クワンリは状況を察したのか、真剣な表情になって頷いた。
「それでそろそろ降ろしてくれないかな?今、会談中なんだ。そして俺は無理矢理連れて行かれた訳でもないし、強制されてここにいる訳でもない。だから安心して。」
クワンリは周りを見回すと顔を真っ赤にして、俺を降ろすと、引きずって来たワイバーン族の方を恐る恐る見るのだった。
俺はワイバーンの族長に向き直した。
「俺の連れがあなたの部下に乱暴を働いてしまった。早とちりとはいえ大変申し訳無かった。アレも反省している様なので、寛大な処置をお願いしたい。」
「それに、カメムシ城の起動には彼女が必要かもしれないと俺は思っている」
ワイバーン族長はクワンリの力と強さに驚きを隠しきれない表情で威厳を保とうとしながらようやく言葉が出てきた。
「しゃ、謝罪は受け入れよう、しかし我が騎士が二人も向かっていたのだが....その娘は何者なのだ。」
クワンリが申し訳無さそうに思念の会話に入って来た。
「寛大なお心に感謝します。大変申し訳なく思って反省しております。
申し遅れました。
我は魔王の娘クワンリと申す若輩者。
赤龍にございます。」
ああああ〜言っちゃったよ〜嘘つけないから〜!
でもまだこのカードは出したく無かったんだよ〜!
部屋の中がどよめいた、そりゃそうだ。伝説の山猫と赤龍が目の前に居るんだから....
「なんと言う事だ!!赤龍様まで.....」
ワイバーン族と山猫族が手を取り合って喜びの涙を流している。
お互いが敵対していることに気がついて、慌てて手を離して取り繕っている姿に、俺は笑いを堪えるのが大変だった。
「そういえば、以前、私どもの部下が高純度の魔性石を積んだ船を臨検しようとしたときに赤龍が現れたと報告があった様な...」
ワイバーン族の取り巻きがコソコソと話をしている。
「貴様ら!なんでその様な重要なことをワシに報告せんのだ!」
族長が声を荒げる。
「赤龍などいるはずのない伝説だと思ってしまい...」
「山猫様!本当にご協力いただけるのでしょうか?我々の積年の望みを叶えて頂けるのでしょうか?」
やばいこいつら目がキラキラしてる、完全に俺たちを神様か何かと思い始めているらしい...
「先ほども話したように、まだ光が点いただけで船は動く気配が無いんだよ。成功するとは約束できない。
だけど、やるだけの事はやってみる。それでいいなら協力する。」
「かまいません、我々ワイバーン族はあなた様方に全面的に協力いたします。」
俺はここぞとばかりに交渉の札を切った。
「じゃあ取り敢えず、ワイバーン族と山猫族は少し休戦って事で良いかな?」
「そして、無理矢理協力させている山猫族も解放してやってくれ」
ワイバーン族長が山猫族長に手を差し伸べた。
両者が握手を交わした。
山猫族の族長が俺に頭を下げていた。
協力を約束したらいきなり待遇が変わった....
クワンリなんて伝説の赤龍様と呼ばれている。
龍化して欲しいと頼まれているけど、顔を真っ赤にして断っている。
変身するには、服を脱がないといけないからね!
作戦は10日後、実行するまで俺たちは豪華なスイートルームでメイド役の監視は付いているが、自由に出入りができる。
石油王にでもなったかの様な生活になっている。
豪華な食事にオババもサルマも驚きが隠せない。
ベッドにフリフリの天幕まで付いている。
サルマはと言うと、お姫様になった気分とか言って浮かれっぱなしだ。
俺がこれからやらなきゃいけない事に頭を悩ませているって言うのに、呑気なもんだ。
オババには、また神託をして貰いたいと頼んでおいた。
船に行って不思議な体験をしてから、自分でも説明がつかない様な、落ち着かない、ふわふわと地に足が着いていない様な感覚があるのだ。
会談で決まった事は、ワイバーン族のルナへの帰還希望者を集い、準備をしてから実行する。
上手くいかないかもしれないと、念を押しているのだけれども、本当に分かって貰っているのか不安だ。
船が動かなくて、嘘つき呼ばわりされて、断罪なんて真っ平だ!
環境制御装置も付いている様なんだけど、本当に機能するのか俺だけが心配している。
まあ船が動かなければ、杞憂なんだけど。
今は、正体を隠す事も無くなった。
猫に引っ張られてトカゲやネズミを咥えたくない。
雑草だって無意識に食ってた。
なので猫化を抑えないとならない。
魔力を自由に使えるので、今夜から子供ノルになってクワンリに抱かれて眠る。
久しぶりの恥ずかしくも嬉しい夜がやって来る。




