■出会い■1
TVで言う「日経平均株価」「為替」、和美は全然意味が分からなかった。
「なんで毎日言ってるんだろ? 誰のために言ってるの?」
とりあえず調べた。
「日経平均株価」は東証一部上場企業225社の平均、「為替」は日本円と外国通貨の強弱と分かった。
調べていくうちにそれで儲かってる人、損してる人がいることを知った。
「へ~、こんな仕事もあるんだ~」
言ってる意味が分かってくると自然と内容が耳に入り、興味が出てくる。
「株価」も「為替」も、毎日上がったり下がったり、TVのアナウンサーはその都度理由を言う。
実際売買するまではそれが「真実」だと疑いもなく信じた。
TVならちゃんと調べてるだろうし、嘘や適当なことを言うとは思わなかったから、
そういうことで上がったり下がったりするもんだと思った。
「じゃあ新聞やニュース見てれば簡単に儲かりそうだな。 なんで損する人がいるんだろう?」
と不思議に思った。
どうせ仕事をしてお金を稼ぐなら簡単な方がいいと思って、以前より興味を持った。
和美の家は自営業で、朝早くから時期によっては夜遅くまで働いてる姿を見ていたので余計にそう思った。
夏休み、冬休みには良い小遣い稼ぎができたが、自分もそれを仕事にするのはしんどいと思っていた。
「でも、株や為替ってどこで売買できるんだろう? そんなお店見たことないな~」
調べてみると、証券会社で口座を開設すると売買できるらしいと分かった。
すると、すぐ別の疑問が沸いた。
「いくらで売買できるんだろう? 子供でも口座開設できるのかな?」
調べてみると親の同意があれば子供でも口座開設できることが分かったが、
10代半ばにはとても手が出ない数十万~数百万円のお金が必要だと分かり愕然。
「これじゃ卒業してすぐは無理だな・・・」
それからは、家業を手伝いながらお金を貯めると決めるまで時間はかからなかった。
自由にアルバイトができるからだ。
数年間後、昼の家業と夜のアルバイトで軍資金300万円を貯め、ようやくN証券に口座を開設した。
口座を開設すると早速営業担当の加賀が付いて別室に通され、それとは別に部長の浅野が同席した。
和美が父親に証券口座開設の相談をすると、
「一夫@兄貴が数十年前から株の売買をやっているから連絡してみろ。」
と言うので連絡したら、自分と同じ証券会社に連絡しておくからそこで始めろと言われたため、
叔父の担当だった浅野も同席したのだった。
浅野「一夫さんには昔からお世話になっておりました。
和美さんは加賀が担当致しますが不在のときは私もご相談に乗りますのでいつでもどうぞ。」
と短い挨拶をし、電話に呼ばれて早々に出て行った。
加賀「初めまして、加賀です。最初は簡単に儲からないかもしれませんが気長にやっていきましょう!」
5歳年上らしい加賀は、体育会系らしい元気ハツラツといった挨拶から始めた。
もちろん始めから上手くいくとは思っていなかったものの、「最初は簡単に儲からないかもしれませんが・・・」という言葉に嫌な決め付けをされたようで和美は面白くなかった。
加賀が続けた。
「始めに確認しますが、和美さんは”売買方針”を決めていますか?」
和美は意味が分からず聞き返した。
和美「売買方針? よく分かんないけど、例えばどういうのがあるんですか?」
加賀「例えば一夫さんは、”損をしない”ことを最重要としていました。」
和美「え? でもそれは誰でも同じでしょ? そうじゃない人なんているんですか?」
加賀「それが沢山いるんです。多くの人は損失リスクはあっても儲けることが最重要と言います。」
和美「そりゃ株の売買だから損することもあるだろうけど、それより儲けたいから始めるんですよね?」
加賀「多くの人はそうですね。でも一夫さんは儲けることより”損をしない”ことが最重要なんです。」
和美「儲けるより”損をしない”ことが重要なら株の売買なんてしなければいいのに・・・」
和美は独り言のように呟いた。
構わず加賀は続けた。
加賀「目的は儲けることですが、最重要にする”売買方針”は重要なとこなんです。例えば損が出始めた
とき早く損切りができるか、儲けが出始めたとき利益を伸ばせるか、売買方針で決まります。」
和美「でも普通、儲けが出始めたら決済して、損が出始めたら損切りするんじゃないんですか?」
加賀「株は買ってすぐ儲かるなんて稀ですよ。一番安いところで買えるなんて奇跡ですから。
多くの人は買値からいくら下がったら損切りというラインを最初に決めますが、
その通りにできる人はあまり多くないです。逆に買値からいくら上がったら決済と決めますが、
そこまで我慢できる人も多くないです。」
和美は少し混乱してきた。
和美「それじゃ損は大きくなって、儲けは小さいんじゃないですか?なんでそんな人がいるんですか?」
加賀「それがいるんです。今は損してても人には儲けたい欲望があるし、損が儲けに変わるかもしれない
という期待もあるからです。そういう人の多くは我慢した分、利益が出始めると目標値になる前に
決済してしまうことが多いんです。」
加賀は丁寧に説明してくれたが、和美にはまだ信じられなかった。
自分で決めた損切りラインで切らなかったらもっと損する可能性があるし、そのうえ目標値前に決済
したら利益の方が少なくなるのが漠然と分かったからだ。
加賀の言う通りなら、株の売買をしてる多くの人は儲けより損が多くなるし、やる人がいなくなる!
それに、一夫が止めないのも不思議だった。
私に損させようとしてるんだろうか? いや、いくらなんでもそんな酷いことはしないだろう。
アレコレ考えを巡らせてるうちに「もしかして、一夫は儲けているんだろうか?」と思うようになった。
和美は率直に聞いてみた。
「叔父さんはどういう売買をしてるんですか? 何十年もやってるってことは儲けてるんですか?」
少し考え込んでから加賀が答えた。
「ご親戚ということなので話しますが、一夫さんは資金を数十倍にしてるはずですよ。」
和美は予想以上の答えに凄く驚いた。
加賀が続けた。
「”損をしない”ことが最重要なので、損切り値・決済値を最初に決めてその通りに必ず実行してます。」
「欲が強過ぎると期待が大きくなり、逆に損切りが遅れて損失が大きくなる可能性が大きいですし、
儲けが出始めるともっと上がるかもとか、決済値に届く前にまた損失になるんじゃないかと疑心暗鬼
になって決済時期を逃すことも多いですが、必ず実行してます。」
それを聞いた和美は、最初に加賀が”売買方針が重要だ”と言った意味を理解した。




