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廃城で現れた敵

本日2話目

廃城に踏み込んだ。

龍のままで行こうかと思ったら、城の中に入れなくて仕方なくグランドルは人化した。攻撃できる幅がぐんと落ちるが、アイスミントたちに同行できないとなれば止むをえない。


踏み込んだ途端、キキッと鳴き声があがり、大ネズミが攻撃してきた。

グランドルの気配にも隠れなかったのは褒めてやりたい。

「ハッ」

瞬きのうちに、アイスミントが剣を払って大ネズミ3匹を駆除した。


「なかなか良い剣さばきだな。瞬発力がある」

グランドルが頷く。

「さすがに大ネズミでは小物すぎますよ」

と何もしないままに終わったレンが苦笑した。


「きちんと戦ってきたようで安心した」

とグランドルが笑む。

「と言うと?」

とレンが尋ねた。

「・・・私の力だけが強くて、本人が危ういのは、こりごりだ」


グランドルの呟きに、レンも、アイスミントもハヴィも無言でグランドルを見た。


***


廃墟はかなり大きい。

一つ一つの部屋を見て潰していく。でないと、背後に強敵が潜まれる方が危険だから、という事だ。

廃城には昔の道具が放置してあって、今も使えそうなものは拝借していく。

武器や防具を強化できる素材が転がっている事も多いらしく、戦力強化に必要だそうだ。


確かに、魔物が狂っていると、グランドルも戦う中で知った。

正直グランドルにとっては雑魚ばかりだが、小物のはずの魔物たちが、龍を目の前にしても戦いを挑んでくるのは尋常では無い。さっさと逃げるのが普通なのに。


アイスミントは名のある剣、レンは魔法を纏う剣、ハヴィは魔物を混乱させる術や使役獣を使って戦う。

グランドルも炎で燃やすが、アイスミントたちの行動が早いので手を出さずに終わる事も多い。

雑魚相手だが、なかなか頼もしい。


***


大広間のような部屋に出た。

ゆらり、と陽炎が中央にある。

グランドルは違和感を持った。

「注意して!」

とアイスミントが仲間に警告する。常とは違う敵の気配を感じたようだ。


グランドルが進み出る。

「確認したいことがある。燃やすぞ」

と仲間に告げるや否や、敵の方が反応した。

敵が使う青い炎が空間に走って広がる。

チッとグランドルは舌打ちした。床全てに青い炎が広がる。

龍に戻るには狭い部屋だ。飛ぶことはできない。


「沈静化!」

レンが叫んで床に剣をつきたてる。

「守護」

ハヴィが結界を張った。

青い炎が自分たちを中心に消える。壁から手を伸ばす青い炎は結界が阻んだ。


「面倒だな。幻灯篭だ」

グランドルが教えた。

「あの炎は精神に作用する。記憶を混濁させて操るという」

「倒し方は」

剣を構えるアイスミントが言葉少なに尋ねてくる。

「倒し方など知らん。燃やすぞ」


グランドルが意識の焦点を合わせて、相手を捉えようとする。捕えられない。

グランドルは舌打ちした。

龍の姿なら焦点など気に留めず熱波を放つだけだ。どこに中核があろうが本体があろうが広範囲で焼き尽くす。だが、人の姿ならそうはいかない。なのに、相手は不安定で捕えられない。

無理やり合わせて熱を叩きこむ。

ポン、と数か所で小さな火が跳ね上がった。そしてシュンと消えた。


ものすごく、プライドに関わる光景だった。

ギリリ、とグランドルは歯ぎしりした。


「落ち着いて。精神攻撃が得意という事は、逆に物理に弱いのじゃないかしら。行くわ。援護して」

「オッケー」

「分かった」

ハヴィとレンが即答する。今までの三人の信頼関係が見えたようだ。


ダンッと床を蹴ってアイスミントが剣を構えて宙に跳び上がる。

グランドルも追って跳ね上がる。何かあれば龍化してやる。三人さえ確保できればこの場所など、素材が眠ろうがなんだろうがどうなっても良い。


瞬間、青い炎がアイスミントに伸びる。グランドルが炎で撥ね退けた。同時に、アイスミントの周辺に結界が追加される。ハヴィだ。器用な事をする。

だが、途端、青い炎に景色が映り込んだ。

たくさんの人、人、人。皆が笑っている。楽しそうに。

『何をしているの、アイスミント?』

『お祭り、楽しいわね』

ざわざわとした賑やかな音が溢れる。


カクンとアイスミントの跳ぶ軌道が落ちるのが見える。

「足場だ! 3枚!」

レンの言葉と同時に、足元に透明な板が現れた。

その1枚にアイスミントが着地し、また跳ね上がる。その足場が割れて砕けた。

グランドルも1枚に着地し、飛び上がる際に、腕を払うように振るった。天井に、床に、壁に。熱を叩きこむ。周辺の青い炎を消し去ってやる。

ヒュッと青い炎が伸びてくる。まるで裏切り者だと糾弾するように。錯覚だ。


パリン、と音がする。後方、レンとハヴィを守っていた結界が砕けたようだ。

グランドルは彼らの周囲に炎を巻く。青い炎に触れるよりましだ。

彼らは驚いたようだが、青い炎と赤い炎が侵食し合うのを見て頷きをグランドルに送る。


シュッと空を切り裂く音がする。

アイスミントが剣を振るう。青い炎が揺らぐ。

「イレビア! 足場になれ!」

ハヴィが叫ぶと、宙に鳥の魔物が現れた。落下するアイスミントが鳥に降り立つ。

レンが後方にいながら、冷気を青い炎に向けて放った。

グランドルも焦点を無理やり合わせて青い炎の中で爆発を試みた。


ボポポポッと青い炎が拡散する。

周囲に人影が立ち上がる。

知らない人たち。

名前が呼ばれる。笑顔が溢れている。

『もー冗談ばっかりー。アイスミントったら』

『レン。約束してくれる?』

『ハヴィー。メシでも行こうぜー』


『かわいそうなあたしの赤い龍』

映し出されたボロボロの笑顔に、分かっていても泣きたくなった。


***


敵は、青い炎を消して倒れた。

残ったのは、黒焦げの天井と、壁と、床と、ぐったりした鳥と、足場の破片と、肩で息をしているアイスミントと、終わったことに息を吐いたレンと、汗びっしょりのハヴィと。


「ジル・・・」

グランドルの呼びかけるような声がポツリと落ちる。

どこも誰もけがは負わなかったのに、酷く痛い。


***


戦い自体、不備はなかった。

けれどグランドルが口を閉ざして明らかに沈んでいた。

皆気づいていた。

先ほどの青い炎で、それぞれ、思い出ある人の姿が出てきた。楽しい幸せな思い出からの映像だったと思う。


『かわいそうなあたしの赤い龍』


「あれ、巫女さんだったのかな」

アイスミントは、沈んでいるグランドルには聞こえないようにと小さな声でレンとハヴィに言った。

「仕方ないよ。彼女は、戦いの途中で死んだらしいし、彼にとって後悔が残っているんだろ」

ハヴィが目を伏せる。

「・・・ボロボロの姿だった」

と言ったのはレンだ。


この三人から引っ張り出された記憶は皆楽しそうに笑っていた。そうやって戦意を喪失させるつもりだったのかもしれない。

だからこそ余計に際立った。

バサバサの髪で、赤黒く爛れ、一部は腫れあがり目が白く濁っていた少女の顔は。

とても巫女などには見えなかった。戦いであのようになってしまったのだろうけれど。


「アイスミント。慰めて来なよ。たぶん、放っといてもついて来ると思うけどさ。グランドルの戦力がないと先に進めない」

「うん・・・」

ここで立ち止っているわけには行かない。ハヴィの言葉にアイスミントは頷いた。


***


「グランドル。行こうよ」

簡潔にアイスミントは言った。

グランドルはアイスミントの姿を見て、穏やかな笑みを浮かべた。

「あぁ」

「あの、この部屋の中なら、手を握らせてあげる」

燃やし尽くしたこの部屋に残っているものはもうないだろうから、その間だけだ。

「そうか。是非頼みたい」


アイスミントが左手を見せると、グランドルは笑んだまま、動かない。

「どうしたの。早く出さないとしまっちゃうよ」

アイスミントが手をわきわき動かしてからかうように言うのを、グランドルが嬉しそうに笑む。

それから手を伸ばして、アイスミントの手を通り過ぎて、頭の上にその手を置いた。サワサワと撫でた。


「アイスミントは、強いな」

とグランドルが言った。

「まぁ、ほら、弱いと死んじゃうから」

「その通りだ」

じっとグランドルが見つめてくる。

アイスミントは促した。

「行こう。グランドル、頼りにしてるんだから、ね?」

「あぁ」


「ねぇ。私は死なないよ。死ぬつもりないし。簡単に死なないよ。グランドルも助けてくれるよね」

「そうだな」

「・・・今生きてる人を大切にしないと、いけないんだよ」

「あぁ。知っている」

ポンポン、と頭の上の手の平がアイスミントの頭を軽く叩く。

「私の願う事は、昔も今も、ずっと同じだ。大切にする」

「・・・どうしてそういう事をスラスラ言うのかなぁ」

どうしていいのか分からなくて困る気分だ。アイスミントは自分の発言がまるで拗ねているようで驚いた。そんな風に言おうと思っていなかったのに。


空いたままの左手に、手が乗る。

「では、お供しよう」

グランドルが笑む。

「どうして私の方が慰められている気分になるの」

アイスミントは、本気で拗ねて呟いた。


***


遺跡の探検は、なかなかハードだった。

まさか魔王直下の6体のうちの1体が途中にいるとは思わなかったが、他もかなり上位の魔物がうろついていた。

剣と魔法と魔物使役でそれでも一通り討伐できたのはそれだけの戦力がアイスミント側にあったからだ。

とはいえ、遺跡から確保した品物も使わなければならないほど、体力も道具も色々使った。


気は抜かないがかなり疲労困憊のメンバーを背に、グランドルは指示された町へ運んでやる。

三人は宿屋で休むことにしたらしい。

グランドルは別の場所で龍で休もうと思ったが、近場で大きな龍が眠っていたら周りが驚くから止めてと頼まれたので、人化して同じ宿で休むことになった。龍の姿の方が疲れが取れるのだが仕方ない。アイスミントたちからあまり離れるのも嫌だった。


宿屋の近くの食堂で、皆がご飯をもりもりと食べる様子にグランドルは目を丸くした。

三人とも、上品に食事する者たちだと思っていた。野営の食事も簡素だったのに。

「食べれる時に食べる! これ鉄則!」

少女らしくない頬張りを見せながら、アイスミントが教える。

「グランドル、食べたいもの頼んでよ。でもすごい量はお金が払えないから、都度僕たちに相談してほしいけどね」

とハヴィ。

その隣では、うんうん、と頷くだけで言葉を発しないまま次々と口に肉を突っ込むレンがいる。


「で、では、この羊肉と、それから酒を・・・」

「おねえさーん! ラム肉3皿とお酒大瓶でー!」


皆の勢いに押されながら、グランドルは運ばれてきた料理を口にした。久しぶりにこういう料理を食べるのも悪くない。


「お兄さんたち、どこから来たのー!?」

なぜか多くの女性が集まってきたので、久しぶりに人里に来た龍としてはどうしていいのか慌ててしまった。

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