モテ期
本日3話目
男が3人もいるからか、女1人が混じっているのを気にする事なく、女たちがテーブルを一緒にしようと集まってくる。
「硬い事言わずにパーッと飲みましょうよー」
「はぁ」
持っている酒を女に勝手に取り換えられる。
勧められるままに口をつけてみれば旨くてグランドルの顔がほころんだ。
「これは良い酒だ」
「でしょー。もっと良いのも持ってきたの。一緒に飲まない~?」
グランドルの横で、レンも左右から2人の女性に絡まれている。
「お兄さん、素敵、一緒にお話しましょ?」
「今日は疲れてもう休もうと思っている」
「やだー、じゃあのんびりしながらでいいから~ぁ」
ハヴィは頷きながら、女たちが差し出したスルメイカをモシャモシャ食べていた。
「なるほど珍味。ピリリとくるのが酒に合うなこりゃ」
「うふふー、もっと食べてぇ」
アイスミントは、と思ったらグイとグランドルの顎が横に向けられる。
「なんて整ったお顔なの。ねぇ、特別に仕入れた極上のお酒、教えてあげる」
「ほほぅ」
酒は好きだ。つられて興味を示すと、女は秘密を打ち明けるように耳元で囁く。
「輝晶酒よ」
耳に息がかかり、ふわ、と女の匂いも来る。
グランドルの気分が浮上する。何より輝晶酒とは! 滅多にお目に掛かれない酒だった。
ガタン、と立ち上がる音がした。
アイスミントだ、と気付いて見ようとするが両頬を手のひらで女に挟まれた。
おやこれは、と思った途端、女が、
「キャア!」
と叫んで椅子から落ちた。グランドルも引っ張られて落ちそうになる。
「ちょっとアンタ、引っ張って落とすなんて良い度胸ね!」
「あら、礼儀知らずはそちらでしょ?」
女が声を上げ、アイスミントが言い返す。
「皆! お腹いっぱいになったら、帰るよっ!」
アイスミントが怒った。グランドルはおや、と思った。
「嫉妬しているのか? アイスミント」
この私に。
「勘違いしないっ! してないわよっ、不真面目なの嫌いなのっ!」
「なるほど。不真面目」
「えー。僕たちも一緒に怒られるのかぁ・・・」
「そろそろ宿に戻るので、俺たち」
ガタンガタン、とハヴィとレンも立ち上がる。
グランドルも立ち上がろうとしたが、「痛ぁ」と傍で痛がっている女がいるので手を差し伸べる。
女は差し出した手をひっぱり立ち上がって、
「ありがとう、また遊びましょうね」
と首に抱き付いてグランドルの頬にキスをした。
「次会う事はないと思うが」
と苦笑する。女が首にぶら下がるようにひっついて来る。
グイッと腕が横からひっぱられた。
見るとアイスミントが怒っている。
「すぐに行く」
と答えたが、
「今すぐよ」
と鬼のように睨んでくる。
「やだぁ怖い」
とぶら下がっている女の発言にアイスミントの機嫌がさらに降下した。
「こんなお子様より、私とおいしい酒飲みましょう?」
グランドルは驚きながら、自分にぶら下がる女を外した。
「私の優先順位は彼女だ。酒をありがとう。久しぶりに旨かった」
グランドルの態度と言葉に、女は拗ねたようになって身を引いた。
「もぅ。良い男なのに、残念」
***
アイスミントは怒って先を歩く。
ちなみに男二人はさらに先に宿に向かって歩いている。向こうは笑い声も上げて楽しそうだ。ムカつく。
「アイスミント」
とグランドルがすぐ後ろから声をかけてきた。
「撫でていいか」
「絶対嫌!」
すぐ撫でようとするのだこの龍は!
「そうか」
グランドルが頭に手のひらを乗せてきた。
バシッと虫を叩き落とすかのように振り落とした。
「嫌って言ったでしょう!」
「そう怒るな」
グランドルの声は穏やかだ。それに、なぜか嬉しそう。
「私に、嫉妬してくれたのか?」
「嫉妬なんてしてない!」
怒りながら、アイスミントは、これは嫉妬だと分かっていた。
大人の魅力満載の女性たちがグランドルに擦り寄るのが酷く嫌だった。レンやハヴィならどうでも良いのに!
「嫉妬だったら、嬉しいのだが」
「・・・はぁ!?」
嫉妬だなんて、言えるわけないじゃないか、そんな間柄じゃないのだから。
アイスミントは苛立ったまま振り返った。見えたグランドルの顔が穏やかに笑んでいて驚いた。
「馬鹿じゃないの。不真面目だから怒ってるだけよ!」
「・・・そうか」
ふっと、グランドルが落胆を滲みませた。
驚いて再び振り仰ぐと、グランドルは目を伏せている。
「そうだな」
グランドルがどこか自分に言い聞かせるように呟くので、アイスミントは戸惑った。
「え、っと?」
「いや。すまない。気を付けよう」
「え、うん・・・」
明らかにグランドルの態度が少し変わった。寂しそうに笑っている。
どうしよう。ひょっとして、嫉妬だって言った方が良かった?
「グランドルは・・・」
言いかけて、アイスミントは自分が何を聞きたいのか掴めなくて困った。
聞いて良いのか分からない。
私はあなたの何ですか、なんて。
***
湯で身体を洗い流して、会議の時間を持ってから、就寝となる。
四人の大部屋で眠るのだ。
説明を受けて、グランドルは驚いた。寝床は男女で分けるものではなかったのだろうか。それとも時代は変わってしまったのか。
「だってその方が安いもの。相談もできるし」
「もう僕たちは男女を意識する間柄では全くない」
「アイスミントが嫌がれば考えるけど、彼女もこういう性格だし。それに慣れない土地で、一人部屋の方が心配だ」
三人の言葉に、はぁ、となんだか間抜けな相槌をうつのはグランドルの方だ。
「昔は違ったの? 教えて教えて」
ハヴィが目を輝かせて身を乗り出す。歳不相応に幼く見えて、グランドルは苦笑した。
「私の知る事など、人間の暮らしのほんの一部でしかない」
そう言って辞退すると、ハヴィはあからさまに不満そうになった。
「そんな事より、魔王討伐の相談をしなきゃ」
と真面目な発言をしたのはアイスミントだ。
「今日、グランドル、遺跡の魔物と戦ったけど、何か分かったことがあったら教えてほしい」
真剣な表情にグランドルも頷く。
「・・・今蘇っている魔王は、恐らく本来の・・・そうだな、六分の一程度の力しかないだろう」
グランドルの発言に、皆が目を見開いた。驚いているようだ。
「根拠は?」
と話の主導権を握るのはアイスミントだ。
「今日の魔物は弱すぎた。姿や種族は明らかに上位種だが、その割に弱すぎる。加えて、今日倒した中にいた『幻灯篭』だが、あれは明らかに本体の強さとは程遠い」
明らかに弱いのに手間取った自分が呪わしい。龍の姿なら瞬殺できたものを。
「どういう事。本体に分体があるって事」
ハヴィが鋭い声で尋ねてくる。
グランドルは首を横に振った。
「いいや。幻灯篭は1体。分体など持たない。だが・・・」
遠くを思ってグランドルは憂いた。
「勿体ぶらないで、さっさと話して!」
アイスミントが迫る。
グランドルは瞬きをした。
「撫でていいか」
「もう! 話してから! 話すまでは駄目!」
「手ごわいな」
アイスミントとグランドルの会話を聞いていたレンが、ポツリと尋ねた。
「魔王との戦いで、グランドルと巫女は死んだのか?」
その発言に皆がレンを注目し、それからグランドルに視線が集まった。
レンが続けた。
「グランドル、あなたは魔王との話になると、アイスミントに癒しを求めるようだ」
「・・・そうかもしれない」
とグランドルは言った。
撫でるなと叱られたので右手を少しあげたまま、グランドルは真実を教える。
「だが、彼女が死んだのは・・・殺されたのは、魔王との事の随分前だ」
レンが指摘を続けた。
「あなたにとって、巫女はとても大切だった。だからアイスミントに面影を?」
「面影など」
グランドルは首を横に振って否定する。
レンを、ハヴィを、アイスミントを見る。
アイスミントを見つめながら「面影など」ともう一度口にした。
「私は、大切なのだ。誰よりも何よりも。お前のためなら私は何でもしよう」
思わず伸ばした手を、アイスミントがバシっと払った。
「私は、アイスミントよ。『戦乙女の剣』に選ばれて勇者の称号を得た。だから他の勇者と同じ、魔王の討伐を命じられた。巫女なんて知らないし関係ない。他の誰かと重ね合わせられるなんて迷惑よ」
「強くなったな」
「そんな風に、子どもみたいに見られるのも嫌なの!」
アイスミントにハヴィが口を挟む。
「アイスミント。グランドルは龍だ。人間など子どもと同じ。グランドルは太古から一度も死んでいない」
この言葉にグランドルは失笑する。だが詳しくを教えるつもりは無かった。
「じゃあ何なのよ!」
アイスミントが怒った。
「私は特別な事してないのに、どうしてそんな振る舞いを私にするの! 説明してよ、そうでないと!」
グシャと顔が歪んで泣きそうな顔になる。
手を伸ばすと怒られるのでグランドルは困った。
「説明する事は、人の理解に外れることだ。説明するつもりはない」
アイスミントが震え、ハヴィが、
「それ、どういう事?」
と食いついた。
グランドルは首を横に振る。
「人が知らなくともいいことだ」
「そんなものは無い。世界の秘密だろうが、何だろうが。是非聞きたい」
ハヴィが尋ね、アイスミントがぐっと睨むようにグランドルを見つめている。レンは静かに聞いている。
グランドルはため息をついた。
「・・・私が言えるのは、今は、アイスミント。きみがこの世の何より大切だという事だ」
これだけで納得しないのは分かっている。
迷った結果、グランドルは付け足した。
「ずっと、気にかけていた。ずっと、お前が笑って過ごせばいいと。誰に焦がれようが、私など置いていかれようが」
何度でも、という言葉は飲み込む。
グランドルは息を吐いた。首を横に振って、椅子から立ち上がる。
「すまない。私の方が不安定だ。今日は外で休ませてもらう。数刻空を駆けてくる」
「駄目だ、申し訳ないが、赤い龍が空を舞っていたら皆何事かと大騒ぎになる」
レンが止める。
「あの綺麗なオネーさんとこに泊めてもらったら」
と言ったのはハヴィだ。
グランドルは嘆息する。だが良い案だと思う。
「そうする」
とグランドルが答えると、アイスミントがすがるように見上げた。
「嫌だ」
いかないで、と態度で告げるその姿に、縫い止められたように動けなくなる。
「嫌って言ってもアイスミント。グランドルは龍だ。きみが行動を制限なんてできないよ。ついて来てくれてる事が奇跡なんだからさ。レン、僕たちはもう寝よう。今日ので体力を使ってるし休みたいのも本当のところだろ」
「そうだな。アイスミント、グランドル。きみたちもほどほどに休んだ方が良い」
「え、ちょっと」
「アイスミントも休むと良い」
グランドルが声をかけて部屋を出ようとするとアイスミントが慌てて立ち上がって服を引っ張ってきた。
「なんだ」
「団体で単独行動禁止、禁止」
「ん?」
「だから単独行動は禁止なの!」
繰り返される禁止命令にグランドルは首を傾げた。
「じゃあ2人でふらふら町一周でもしてきたら。あ、カギちゃんとかけて外出てってよ」
フワァア、と大きな欠伸をしてベッドに潜り込みながらハヴィが言った。




