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どうか幸せに生きていて

本日2話目

私は、グランドルに一目惚れだった。


加えて、常にあんなに好意を表され、熱を込めて見つめられてグラッと来ない人はいない。


どうやら自分がグランドルを好きすぎるせいか、傍にいて彼と過ごしているだけで、自分が正しい場所で正しい時間を過ごしているような確かさを感じる。

正しく生きていると確信する。


彼の過去を映像で見てしまった時には、過去にたくさんの人に恋して来たのだと知った。

それが全部自分であればどれ程素敵かと思うけど、生憎自分は自分でしかないから、過去の人たちに嫉妬さえ覚えてしまうぐらい。


勘違いでもそれがきっかけなら物凄い幸運だ、と言ったレンに心から同意してる。


他の誰でもなく私に執着してくれてありがとう。

一目惚れです。大好きです。恋しています。傍にいて一体何度あなたに惚れ直したか。


お願い、あなたもこの私に、心底惚れて。

過去の全てを、私への気持ちに塗り替えて。


私なら、ずっとあなただけ思い続ける。他の人のところになんか絶対に行かないわ。

一番に、あなたの幸せを願ってる。


大好きと何度言っても言い足りない。

ずっとずっと傍にいて。

いてくれないなら、世界中でも剣を携え私から探して回ってしまうわ。


***


アイスミントが、とうとう息を引き取った。地底の洞で龍のグランドルにもたれながら。

気付いてグランドルが人化して確認し、そのまま人の姿でオゥオゥと泣いた。


しばらく二人で過ごす。呼びかけても返事はない。死んでいるから当たり前だ。

世界のすべてが終わってしまったような悲しみに襲われる。


けれど、知っている。

彼女が、たくさんのものを残そうと生きてくれていた事も。

本当は子を望んだけれど叶わなかったから、その分もと彼女はグランドルを連れて世界の様々に関わらせたことも。


だから、あなたの願い通りに。


***


「私が生きている間は私だけを見ていてね。私がいなくなったら、誰かに恋をすることを許してあげる。どうか幸せに生きていて。それが私の一番の望み」


まだ元気な時の彼女は、ある日シワのある顔で美しい瞳でグランドルを見つめてニコリと笑った。


「私がいなくなっても、ハヴィかレンか、その子どもたちが生きているわ。たくさんの人にも会ったものね。ねぇ、あの建設中の大きなお城はいつ完成するのか知りたいわ。それから、あの、獅子さんのいた島にどんな花が咲くかも見てみたいわね。私の代わりにあなたが見ていて。一緒に見た景色が、どんな風に変わるのか、あなたが私の代わりに見てきてね」


***


グランドルは、アイスミントの亡骸と『戦乙女の剣』を抱えて地上に向かった。

地上についたら、昔にハヴィに持たされた連絡用の道具を使い、王都に住むレンとハヴィにアイスミントの死を伝える。


アイスミントの死は、早いのではないかと、彼女に秘密で皆で案じていた。

グランドルの『彼女』の記憶によると、大体が早く亡くなっている。後半にいくにつれて寿命は延びているが、そういう生まれになってしまっているのかもしれない、などと思うほどだ。

そして、実際、彼女は人間から見てもまだ早いと言われる年代で死んでしまった。


レンやハビィから、昔から密やかに忠告をされていた。悩みに気づかれて相談をしたからだ。

彼女の死について。死んだ時の事について。その後について。


〝彼女の遺体は、きちんと埋葬してやってはどうだろうか。勿論グランドル次第だ。だけど、過去の彼女たちはそれなりに埋葬されてきたんだろ。だからきちんと埋葬することで、次にまた出会うのかも、と、思うんだが”


自分の眠る洞窟の近く、地上でグランドルはアイスミントを埋葬するための穴を作った。

過去グランドルが人間だった時、何度も彼女を埋葬したから方法ぐらい知っている。


自分の眠る洞に作りたい気持ちもあったが、埋葬場所を地上にしたのは、レンとハヴィも、墓参りがしたい、地上の方が嬉しいと言ったからだ。残された人々は墓参りしたいと願う。確かに過去の自分もそうだった。いないと分かっているのに、墓が拠り所になった。


それに彼女は人間だ。地底に埋葬されるよりは、空に近い方が好きだろう。


造った穴に、アイスミントを横たえた。

ここにきて、飾る花を一輪も用意していないと気づいて途方に暮れていたら、バサリとハヴィ夫妻とレン家族が現れた。

ちなみにハヴィもレンももう随分歳をとっている。王家の秘伝魔法を使って駆けつけたとハヴィが言った。


状況を知り、彼らはアイスミントの前のグランドルをそのままに、赤い顔で時折鼻をすすりながら、皆で急いで花を摘んで回ってきてくれた。


彼女に摘んできてもらった花をふりかける。

彼女は死んでもなお微笑んでいる。

「幸せそうだ。良かったな、アイスミント」

と言ったのはレンだろう。震えた声で、誰の声か正しく分からなかったけれど。


順番に、皆で彼女の身体に土をかける。

グランドルは龍の姿に戻って、最後に土をドサリといれた。手ごろな岩をその上に乗せる。


それから墓の目印に、人の姿に戻って『戦乙女の剣』を墓標代わりに使う。

ただし、自分はこの剣を剣として扱えないので、岩の方を溶かして剣を埋めておいた。


聖剣だから、長く変わらず存在し続けてくれるはずだ。

どんなに時代が変わっても。


***


彼女がいなくなったので、世界からは酷く大事なものが抜け落ちてしまった。


それでも暴れることはしない。

彼女と過ごした人や、町や、景色が、どう移り変わっていくのかを眺めたりする。

龍の姿で遠くから。時に、人の姿で人に混じって。


たまに長期に旅をしては、洞に戻って墓の前にどうだったか報告をする。

あの獅子の黒い花がついに咲いた時には、摘んだ1輪を墓に飾ってやった。


ハヴィもレンももういない。レンの子孫は続いているけれど。

代々顔をあわせ続けて知っているので、今もたまにふらりと訪問できるのは嬉しい事だ。困りごとがあったら頼まれてやるのも良いかもしれないなどと思っている。

ハヴィの方は、娘が1人生まれたが、いつの代か子をなさずに途絶えてしまった。


自分はまだ生きている。世界も壊さず生きている。

幸せなのかは分からない。それでも不幸せでは無いと思っている。

彼女と過ごした世界が残っているのだから。


***


「あぁ、これは旨い酒だな」

「そうでしょう。値段は跳ね上がりますが、もっと良いのもありますよ。輝晶酒です、どうですお兄さん」


「あぁ・・・輝晶酒は止めておこう」

グランドルは、酒場の店員に苦笑を返した。

「妻の怒る顔が浮かぶ酒だ」

「え、あ、ご結婚されてるんですか。なんだー。奥様、怖いの? かわいそー」


「いや、とても可愛く大切だ」

「なんですかそれ! じゃあもー、幸せ者ですね」


店員が去る。

グランドルは苦笑した。

輝晶酒は魅力的だが、どうも飲もうとすると手が止まる。

アイスミントと輝晶酒を飲もうとした時、不用意に自分が、魔王討伐の旅の途中に女に誘われてアイスミントが嫉妬した、などという思い出を語ったところ、アイスミントも思い出して機嫌を悪くしたからだ。

以来、輝晶酒という単語だけでアイスミントが機嫌を損ねるので、どうも手を出しづらくなった。

これも彼女の置き土産・・・。


「!!」

思い出に浸っていたグランドルは、遠い地から飛び込んできた異変にガタッと席から立ち上がった。

店員や他の客が目を丸くしている。


グランドルは慌てて店を飛び出した。


「えっ、おにいさーん、お酒、ツマミも、残ってますー!」

「すまない、それどころでは!」


慌てて駆ける。今すぐ龍に戻りたい、だがここで戻ると町が壊れる!

「くそっ!」

見回して最寄りで最も高い塔に駆け上る。

門番に止められないのは、ハヴィが遺した王家発行の『行動無制限許可証』がある上に前例もあるからだ。


可能な限りの速さで最上階にたどり着き、そこから飛び降りる途中で龍化した。

町の皆が気づいてワァっと驚いた。すまない許せ!


町を壊さず龍化して、グランドルは急ぎ飛ぶ。


***


アイスミントの墓の前。


墓標代わりの『戦乙女の剣』。

人化して確認したグランドルはへたり込んだ。

剣が、綺麗に抜き去られていた。刺していた岩には問題ない。つまり剣の方を抜いたのに間違いない。


過去、ハヴィが首を傾げて考えながらこう告げた。

〝あの剣だけど、普通の人には使えない。アイスミントを選んだのも、こうなってみると正しかった"


レンも頷いて同意した。

〝もしその剣がアイスミントの墓から抜かれることがあれば、誰なのか確認した方が良い"






グランドルは振り仰ぐように立ち上がった。

まだ近くにいるはずだ。






〝ひょっとしたら、グランドルの次の輝きになるかもしれないよ"


〝それが結果、誰であっても"






おわり

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