じじい
「キャーーーー!!!」
と、薫子が恐怖の悲鳴をあげた。
義也からの愛の言葉に紅潮していた頬は一気に血の気を失い、真っ青になっている。
回転した扉の向こうには洞窟が続いており、そこには白骨死体が何体も倒れていたのだ。命に関わる宝物であるという言い伝えは、どうやら本当の話だったらしい。
「うわゎゎぁぁぁぁぁ!!!
あ、あ、あ、あ、あれは?」
と、執事の林もあまりの衝撃に顔面蒼白になり、顎をがくがくさせながら言った。
なんと白骨死体の中央に ‘あれ’ よりも更に大きくて、光輝く物体が安置されているではないか。
「まさか……
契約の箱がこんな所に隠されているとは……
だが、東の果ての国・日本なら、隠し場所としては最適かもしれない……」
と、義也は戸惑いながらも、ひとり冷静につぶやいている。
「む、むむむっ!
ヨ、ヨ、ヨ、ヨッシー……
な、な、な、何か知っているのかね?」
と、薫子の祖父・堅造が腰を抜かして座り込んだまま、義也に尋ねた。
堅造も林同様、ひどく動揺しており上手くしゃべれていない。
「はい。あれは ‘契約の箱’、またの名を ‘『あかしの箱』’、‘主の箱’、‘神の箱’ とも呼ばれる物だと思います」
と、義也が落ち着いた様子で言った。
「じ、じ、じ、じ、じじい……」
と、林が顔面をますます蒼白にさせて、急に不適切な発言をした。
「むむむっ! ‘じじい’ とはなんじゃ、林! わしの事か?」
と、堅造が ‘じじい’ という言葉にとっさに反応した。
自分が ‘じじい’ である自覚があるためだろう。
「ち、ち、ち、ち、違います……
か、か、か、か、壁に……
じ、じ、じ、じ、文字、字が……」
と、言って林が洞窟の壁を指差した。なんとその壁に大きな筆が文字を書きつけているではないか。筆は空中に浮いて、優雅な動きを見せている。
堅造はあまりの驚きに、先程回転扉が開いた時と同じセリフをもう一度言う羽目になった。
「むむむむむっ!! まさか!! なんじゃこれは!!!!!」
※本文中の『あかしの箱』は、以下の新改訳聖書・出エジプト記25章10~22節を参考、引用しました。
注:(※―――)は、追加の説明です。
25:10 アカシヤ材の箱を作らなければならない。
25:10b長さは二キュビト半、幅は一キュビト半、高さは一キュビト半。(※1キュビトは約44センチ)
25:11 これに純金をかぶせる。それは、その内側と外側とにかぶせなければならない。その回りには金の飾り縁を作る。
25:12 箱のために、四つの金の環を鋳造し、それをその四隅の基部に取りつける。一方の側に二つの環を、他の側にほかの二つの環を取りつける。
25:13 アカシヤ材で棒を作り、それを金でかぶせる。25:14 その棒は、箱をかつぐために、箱の両側にある環に通す。25:15 棒は箱の環に差し込んだままにしなければならない。抜いてはならない。
25:16 わたしが与えるさとし(※十戒の書かれた石の板)をその箱に納める。
25:17 また、純金の『贖いのふた』を作る。長さは二キュビト半、幅は一キュビト半。
25:18 槌で打って作った二つの金のケルビム(※神の御使い、天使)を『贖いのふた』の両端に作る。25:19 一つのケルブ(※ケルビムの単数形)は一方の端に、他のケルブは他方の端に作る。ケルビムを『贖いのふた』の一部としてそれの両端に作らなければならない。
25:20 ケルビムは翼を上のほうに伸べ広げ、その翼で『贖いのふた』をおおうようにする。互いに向かい合って、ケルビムの顔が『贖いのふた』に向かうようにしなければならない。25:21 その『贖いのふた』を箱の上に載せる。箱の中には、わたしが与えるさとしを納めなければならない。25:22 わたしはそこであなたと会見し、その『贖いのふた』の上から、すなわちあかしの箱の上の二つのケルビムの間から、イスラエル人について、あなたに命じることをことごとくあなたに語ろう。




