真実の愛
「ヨッシー、死んじゃイヤ~!!!!!」
と、薫子がパニック状態になって、泣き叫んでいる。
義也は薫子を助けようとして、命の危険もあると言い伝えられている重要な注意事項を一気に三つとも破ってしまい、その途端に地面に倒れこんでしまったのだ。
「ヨッシー、お願い目を開けてぇぇぇ~!!! うっ、うっ、うっ……」
と、薫子が倒れている義也の身体に覆いかぶさって、号泣し始めた。
その時、義也の手が動いて薫子の背中に触れた。それを見ていた執事の林が、
「お嬢様!!! 郡山様が!!!」
と、驚きと喜びの声をあげた。
その林の声に薫子が顔を上げると、義也が優しい笑顔で見つめている。
「ヨッシー!!! 良かったぁぁぁ!!!」
と、薫子があまりの嬉しさに義也に強く抱きついて言った。
薫子は、今度は歓喜の涙を流している。
「カオルン、僕の為にそんなに泣いてくれて嬉しいよ」
と、義也が薫子の強い愛情を感じて、照れながら言った。
「ヨッシーったら、そんな事言って!!!
すっごく心配したんだから!!! もうっ、大嫌い!!!」
と、薫子が頬を膨らませながら言った。
心の中では義也が放つ、お決まりのセリフを期待しながら。
しかし、義也はまだ気が動転しているためか、すぐにはいつものセリフが出てこなかった。
「むむっ、ヨッシー!
‘どうして? 僕はカオルンが大好きなのに!’ じゃろう?
ハッハッハッ! 若い、若い!」
と、薫子の祖父・堅造が喜びで感極まったためか、初々しい二人を見かねたのか、野次を飛ばしてきた。
記憶力の低下があるはずの堅造が、なぜか一回聞いただけの義也のお決まりのセリフ(しかも堅造の前でそのセリフを言っていたのは林だったのだが)をおぼえている。不思議と、どうでもいい情報が記憶に残ったりするようだ。
「お爺様ったら!! 私はヨッシーに言って欲しかったのにっ!!
もうっ、お爺様は本当に嫌い!!」
と、薫子が茶々を入れてきた堅造に、結構本気で怒りながら言った。
「むむっ、悪かった、悪かった!
わしもヨッシーが無事だったのが嬉しくて、つい……」
と、堅造が反省した様子で言った。
そんな3人のやりとりを見て、執事の林は、
“頑固一徹で有名な大旦那様がこんなにふざけたり、謝ったりなさるとは……
長年、鈴木家に仕えてきたが初めて見る光景だ……
それに、お嬢様をかばうために命の危険も顧みずに、突然の出来事にも迷わずに勇気ある行動をとることができる……
郡山様はやはりただものではない……不思議なお方だ……”
と、義也に対する好感度がさらに急上昇するのを感じていた。
「カオルン、おじいさんを赦してあげて……
僕はカオルンのためなら命を捨てる覚悟があるくらい、愛してるから!」
と、義也が薫子をきつく抱きしめ返しながら、大胆に言い放った。
薫子はいつものお決まりのセリフよりも格段に嬉しい義也の言葉に、全身の力が抜けてふにゃふにゃになりながら至福の時を味わっている。
実際に命をかけて薫子を守った義也のその言葉には、真実の愛がこめられていた。
その時薫子は、義也に魔法の言葉と言って教えてもらった聖書の言葉が、心の中に光り輝くように降り注いだ。
『人がその友のためにいのちを捨てるという、これよりも大きな愛はだれも持っていません』
※本文中の『』内の言葉は、新改訳聖書のヨハネによる福音書15章13節から引用しました。




