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フランケンシュタイン荘

「薫子ちゃん、ようこそフランケンシュタイン荘へ。

 狭いところだけど、どうぞ上がってちょうだい!」


 と、義也の母が太陽のような明るい笑顔で薫子に言った。



「あ、ありがとうございます。

 えっと……ここは “フランケンシュタイン荘” なんですか?」


 と、薫子は郡山家の中の明るさに感動して流れた涙を拭いて、生まれて初めての恋人宅訪問にドキドキしながら、珍しい名前のアパート名に思わず聞き返した。



「母さん……またそうやって!

 カオルン、ここは “フランシュ竹井荘” っていう、こじゃれたアパート名がついてるんだけど、母さんが勝手に “フランケンシュタイン荘” って呼んでるだけだから」


 と、義也が冗談好きの母親にあきれながら、薫子に弁明した。



「あっ、そ、そうなのね。失礼しました」


 と、薫子は動揺しまくりで、借りてきた猫のようにおとなしくなっている。



「猫かぶってる姿も可愛いね」


 と、そこへジャ○ーズ顔負けのイケメンボーイが奥の部屋から出てきて、壁に手をつきながら言った。



信也しんや……おまえもまたそうやって!

 カオルン、こいつは僕の弟で信也っていうんだ。カオルンと同じ高校3年生だよ。この甘いマスクと言葉にどれだけたくさんの女の子が泣かされてきた事か……

 言っとくけどカオルンにその手は通用しないよ。カオルンは普通の女の子じゃないから!」


 と、義也が軟派体質の弟にあきれながら女性受けの良い弟を牽制して言った。



「ちょ、ちょっと待ってよ! ヨッシー! 

 私が普通の女の子じゃないって、それ一体どういう意味?」


 と、義也の発言につい、薫子はいつもの調子になって怒って反論した。

 かっこつけて登場したつもりの信也は、薫子に完全に無視されてしまい、拍子が抜けたように壁についた手の力が抜けてガクンとなった。



「いや、悪い意味じゃないよ。いい意味で言ったんだよ!」


 と、義也が必死に薫子に弁解している所へ、今度は奥の部屋から真っ黒に日焼けした坊主頭の大柄な男の子が現れて言った。


「ハハッ! 兄貴が尻に敷かれてるとかマジうける」



智也ともや……おまえまでそうやって! 

 でも確かに少しそうかも……って、うそうそ。

 え~っと、カオルン。こいつは下の弟の智也ともや。高校1年生で、今は野球部で頑張ってるんだ。見た目で分かるとおり一番年下なのに身体の大きさ、強さ、生意気さは我が家でナンバーワンだよ」


 と、義也がまたまた失言しそうになり慌てて訂正しながら、智也を紹介した。



「ヨッシー! 今 “少しそうかも” って、言ったでしょ! ちゃんと聞いてたんだから!

 それに、私は尻に敷いてるんじゃなくて、レディファーストをしてもらってるの! 

 あと、私は猫なんかかぶってません! ただ緊張してるだけ! 

 おわかり? そこの……え~っと、そこの君達!」


 と、薫子はまたまたいつもの調子になり、さらに義也達3兄弟の失礼さにむかっ腹がたってきたのも合わさり勢いで “そこのくそ坊主!” と野蛮な言葉を発しそうになったが、思いとどまって言った。



「薫子ちゃん、本当にごめんなさいね。うちの子達ったら……

 3人とも薫子ちゃんに謝りなさい。どうもうちの “だんご3兄弟” は小さい頃から気に入った女の子には意地悪したくなっちゃうみたいなの。でも、あんまり悪気はないから許してやってちょうだいね」


 と、義也の母が冗談まじりに明るく薫子に謝った。



「い、いいえ。そんな……私のほうこそごめんなさい。けんか腰になったりして……でも本当は私、こういうなんでも言い合える兄弟とかに憧れていたので……一人っ子だから兄弟げんかとかした事なくて……新鮮というか……」


 と、薫子は義也の母の前ではどうしてもおとなしくなってしまうようで、珍しくもじもじしながら答えた。



「そう、それなら良かったわ。うちの子達はけっこう思った事をなんでも言ってしまう所があるから、けんか相手にはぴったりよ!」


 と、義也の母はまた明るい太陽のような微笑で言った。



「はい。ありがとうございます」


 と、薫子は暖かく寛容な義也の母に心から感謝して言った。



「“これにて一件落着!” それじゃあ、すぐに準備するからそれまでみんなでテレビゲームでもして待っててちょうだい」


 と、義也の母が台所と居間がつながった部屋へ案内した。

 居間には明るい色のログハウス風の木製家具がバランス良く配置されていて、台所の家具も同じ種類のようだった。その暖かく安らぎを感じる空間に薫子は思わず声を上げた。


「なんて素敵なんでしょう! こ、こんなに……」


 と、薫子は “こんなに狭いのに!” と言いそうになり、思いとどまった。



「そんな……素敵なんて初めて言われたわ! 嬉しいわね。この部屋の家具は義也達の父親、つまり私の夫の手作りなのよ。あの人は日曜大工が趣味だったから……と言っても牧師だったから、作るのは日曜日じゃなかったのだけど……」


 と、義也の母が照れながら、天国へいった最愛の夫の思い出に浸りながら言った。



「エェー!! 手作り家具なんですか!? すご~い!!!」


 と、薫子はますます感激して一つ一つの家具のそばにいって目をキラキラさせながら見入った。



「おい、お嬢! 早くしないと俺達とゲームできないぜ!」


 と、郡山家三男の智也が家具の観察を始めた薫子に声をかけた。



「えっ、私もやるの? 私はそういうのやったことないからやめておくわ」


 と、薫子は断ったが、実は少し興味があった。



「ヘイ、レディ! まさか僕達に負けるのが悔しいとか? 

 大丈夫、ハンデつけてあげるから」


 と、郡山家次男の信也が薫子の負けず嫌いな気性を見抜いてゲームに誘った。



「しょ、しょうがないわね……

 そんなに言うなら私も一緒にやってあげてもいいわよ」


 と、薫子は少し興味があった事もあり、人生初めてのテレビゲームへの参加を決意した。



「カオルン……言っとくけど、こいつらめちゃめちゃ強いから」


 と、義也が心配して言った。



「大丈夫よ、ヨッシー。私は売られたけんかは買うたちなの。もし私が負けたら今度は私の得意分野で勝負しましょ! 私の得意分野は華道と乗馬よ。それでどう?」


 と、薫子が強気発言した。



「やったね! 俺、乗馬やりて~!」


 と、三男智也が薫子の申し出に喜んだ。



「おっ、ホントそれいいね! 僕は華道をやってみたいな!」


 と、次男信也も喜んで言った。



「おまえら……よし、じゃあハンデは僕が決めるからな!」


 と、義也が長男らしく断言した。



「OK!」 「ラジャー!」


 と、信也と智也が明るく返事をした。

 そして、ゲームの種類とハンデを義也が決めて、4人でテレビゲームをはじめた。ゲームは女の子でも楽しめる “太鼓の○人” とか “マリ○カート” とかで、ハンデもたっぷりつけてもらったが、どのゲームも薫子はすぐにあっさりと負けてしまった。それでも生まれて初めてのテレビゲームは薫子にとって未知の世界のようで、キャッキャと楽しそうに遊んでいた。

 そこへ義也の母が声をかけた。


「ご飯の支度ができたわよ!」



「は~い!」


 と、返事をしながら、ゲームもちょうどきりが良かったので、4人はその声にすぐに反応して食卓についた。



「わぁー!!! これがタコライスですか? なんてきれいなんでしょう!」


 と、薫子はタコライスを生まれて初めて見て感動の声を上げた。

 レタスの緑とトマトの赤がみずみずしく、まるで宝石のように輝いている。



「ここに備えられた神様の恵みに感謝して、いただきま~す!」


 と、義也が短く感謝の祈りを捧げてから、5人揃って食事を始めた。

 薫子は毎日豪華な食卓に一人で席に着き、クラシックミュージックの流れる中で静かに食事をする生活をしていたため、ぬくもりのある手作りの食卓で、にぎやかな家族という食事風景になんともいえない楽しさを感じた。

 そして、タコライスの最初の一口を頬張る薫子。ご飯、タコス味のミンチ、チーズ、レタス、トマト……その全部が混ざり合って絶妙な味わいが口の中いっぱいに広がった。


「うまっ!」


 と、薫子はあまりの美味しさについ、らしくない言葉を発した。



「ハハッ。カオルンが “うまい” って言った!」


 と、義也が薫子の反応に笑った。



「もう、ヨッシー! だって、あんまり美味しいんですもの。

 ヨッシーの言い方がうつっちゃったの……」


 と、薫子が照れながら言って、隣に座っている義也の横っ腹を肘で突いた。



「兄貴! 彼女のいない俺達の前では、いちゃいちゃ禁止だぜ!」


 と、三男智也がすかさず突っ込みを入れた。



「おい、智也! 僕をお前と一緒にすんな! 僕には彼女がいるぞ」


 と、次男信也が反論した。



「エェー!!? 兄貴、彼女つくったのかよ。“僕はみんなのものだ” とかふざけた事言って、いつも複数の女子に囲まれてたじゃないか!」


 と、智也が驚いた。義也の母と義也も一緒になって驚いている。

 信也は “しまった” という顔をして言った。


「あ~、まだ言ってなかったな。実は数日前から一人の女の子と正式にお付き合いしてるよ……

 だけど、なかなか僕のこの軟派な性格が抜けなくて、このままじゃまずいなって思ってる所さ」



「そうなの……で、どんな子なの?」


 と、義也の母が心配と興味が混じった気持ちになりながら聞いた。



「う~ん、どんな子と言われても……

 僕のとりまきじゃない子なんだけど、いつも見えない所で人の嫌がる仕事とかすすんでしてるような子で、初めて話をした時から彼女の何もかもが新鮮でさ! 僕から告白したんだ……

 向こうはすごく驚いてたけど、なんとかOKもらったってかんじかな」


 と、信也が照れて頭をかきながら答えた。



「うわ~!! じゃあ、彼女いないの俺だけかよ!」


 と、智也が非常にショックを受けて言った。



「おい智也! お前、まだ16歳だろ。男は18歳からしか結婚できないし、あせったって良い事ないぞ。今のお前は “野球” が恋人だろ?」


 と、義也が智也に “冷静になれよ” という気持ちを込めて言った。



「おう、そうだった。俺には “野球” という恋人があったじゃないか。

 ありがとう兄貴! それに、俺はまだ16だからな。

 確かにあせって良いことはないし……」


 と、智也は今まであせって失敗した経験が数え切れないほどあったため、義也の言葉に心から納得して言った。



「“野球” が恋人なんて、なんかかっこいいじゃない!」


 と、薫子もいっしょになってフォローした。



「そんな事言って、お嬢は “野球” の事なんてなんにも知らないくせに……」


 と、同情されて少し悲しくなって智也が言った。



「何言ってるの! 私は野球をやった事はないけど、新聞のスポーツ面も読んでるから今年活躍した選手の名前も数人言えるし、打率とか打点とか本塁打っていう専門用語だって知ってるわ! 

 まぁ、その意味はあんまりわからないのだけど……」


 と、薫子が相変わらずの負けず嫌いを発揮して言ったが、最後の方は小声になっていた。



「なんだぁ、そうかぁ。まぁ女子でそれだけ知ってたら十分だぜ!」


 と、智也は薫子が野球について思ったよりよく知っていた事が嬉しくて笑顔で言った。



「そういえば薫子ちゃん。

 この前、義也と一緒に病院見学や職場体験したんですってね?」


 と、義也の母が突然話題を変えて、何故かセリフの棒読みのような感じで薫子に話しかけた。



「ええ、そうなんです! あの時はものすごく感動しました……

 もう一度、いえ何度でも見学や体験したいくらいです!」


 と、薫子は義也の母の不自然さなど気にも留めずに嬉しそうに言った。



「どんな体験をしたの?」


 と、またまた何か棒読みのように質問する義也の母。



「“足浴” です!」


 と、元気に答える薫子。



「それで、体験してみてどうだった?」


 と、相変わらず不自然に聞く義也の母。



「フフッ! あ~、ごめんなさい。思い出しただけでも……

 多分ああいうのを “血湧き肉踊る” って言うんでしょうか! 

 とにかく、私の中の生命エネルギーが溢れ出す感じでした!」


 と、薫子は “足浴” した時の感動を思い出して、ニコニコ顔で言った。



「そうなのね。それなら今日、義也と薫子ちゃんで “足浴” をお互いにしてみたらどうかしら? 

 聖書にも『互いに足を洗いあうべきです』って、書いてあるしね」


 と、義也の母が最後のセリフを言い切ったようにスッキリした様子で言った。



「ブッ、ゴホッ、ゴホッ! そ、そんな……いいんですか? 

 でもそれ……ゴホッ、ゴホッ! すごく嬉しいです……ゴホッ、ゴホッ!」


 と、薫子はあまりの嬉しさに驚いてむせながら答えた。



「それじゃあ、カオルン。食後に僕と互いに足を洗い合おう!」

 

 と、義也も計画通りに事が進んでホッとした様子で言った。

 実はこれが薫子の執事の “入れ知恵 Part.2” なのだ。

 

「ありがとう、ヨッシー。大好き!」


 と、薫子は返事をしたあとに、義也が魔法の言葉と言って教えてくれた聖書の言葉の一節が暖かく浮かんでくるのを感じた。


『見よ。兄弟たちが一つになって共に住むことは、なんというしあわせ、なんという楽しさであろう』

※上記『』内の言葉は、新改訳聖書の詩篇133篇1節より引用しました。

 m(_ _)m

10月3日午後3時40分頃に、サブタイトルを ”血湧き肉踊る” から、”フランケンシュタイン荘” に変更しました。申し訳ありません。

 この作品のサブタイトルは有名なホラー映画をもじったタイトルを時々入れています。

 今のところは、第1部分 ”新聞配達は一度インターホンを鳴らす” と、第11部分 ”12日の木曜日” と、今回の ”フランケンシュタイン荘” です。

しかし、内容は全然ホラーでなくて申し訳ありません。

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