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マッチ一本

 聖マタイ病院の理事長室。病院の職場体験を終えた学生さん達が解散したあと、部屋には理事長の花園耕一と義也と薫子が残っていた。


「薫子! よく無事に帰ってきたな! おかえり……」


 と、奥の部屋から薫子の父、昇造が飛び出してきて薫子を抱きしめた。



「お父様、なんか大げさよ……

はじめてのおつかいから帰ってきた子供じゃないんだから!

私、もう17歳なのよ……」


 と、薫子が少しあきれた様子で答えた。



「そうだろ? 本当に大げさだよ、昇ちゃん! 

郡山君まであきれてるよ……な?」


 と、聖マタイ病院理事長、花園耕一が義也にも同意を求めた。



「え? あっ、はい。あっ、いいえ……」


 と、義也が珍しく優柔不断な答え方をした。



「おい、どうした……

本当に今日はいつものクールな郡山君らしくないな。

そういえば、どうして今日郡山君が呼ばれたのか聞いてなかったな。

どうしてなんだい?」


 と、耕一が不思議に思って、昇造に聞いた。



「えぇ~っと、どうしてかというと……話してもいいかい?」


 と、昇造が義也と薫子の二人に向かって聞いた。



「はい……」


 と、答えながら義也は心の中でこう思った。


“今朝、交際を認めてもらったばかりで、病院の理事長先生にまで交際宣言するはめになるとは……

しかも、彼女のお父さんと理事長先生が昔からの友人だなんて……

いろいろ驚く事ばかりだ。

 なんかこの交際は、神様によって完全に外枠からきっちり固められてるって感じだな……

しゅよ、感謝します。だけど、プレッシャーが……”



「実は今朝、二人の男女交際を正式に認めたばかりなんだが、わしが交際を認めたという事は将来的な事も含めて許可しているという事だ。

 だから、今日は薫子の将来を決める大切なイベントだったから、わしが頼んで義也君にも参加してもらった、という訳なんだ」


 と、昇造が耕一に説明した。



「エェーーー!!! それは驚いたな。

 それで郡山君がいつもと様子が違ったのか……それで納得がいったよ。

 今までの郡山君には、そういう色恋沙汰には無縁のようなクールな透明感があったから、まさかそんな事とは全く思いもよらなかったな。

 でもそうやっていわれてみれば、二人はすごくお似合いじゃないか! 

 それに郡山君が相手なら心配無用ってかんじだな! 

 良かったね、薫子ちゃん!」


 と、耕一が笑顔で言った。



「ありがとうございます」


 と、薫子は照れて、少し頬を赤らめながらお辞儀をした。



「それで、薫子ちゃんは今日の職場体験に参加してどうだった?」


 と、耕一が薫子に聞いた。



「はい、今日は本当にありがとうございました。

 私は今日改めて、本気で看護師になりたいと思いました!」


 と、薫子が晴れ晴れとした笑顔で快活に答えた。



「薫子ちゃんならそう言うと思ったよ。どうする? 昇ちゃん?」


 と、耕一が昇造に聞いた。



「さすがに、そんな風に今まで見た事もないような笑顔で生き生きと答えられたら、許可を出さんわけにはいかんな。

 だけど、医療に携わるという事は人の命を預かるという事でもある。

 プロ意識が必要だし、甘い考えではやっていけないぞ!」


 と、昇造が薫子に看護師を目指す事を許可し、活を入れた。



「はい! お父様、ありがとう!」


 薫子の目から嬉しさのあまり、涙が一滴ひとしずく流れ落ちた。

 昇造も娘の成長ぶりに嬉しいやら、少し寂しいやら複雑な気分だった。



「……喜んでいるところ本当に申し訳ないんだが、薫子ちゃんは理数系が苦手だったよね?」


 と、耕一が二人が感動しているところに、恐る恐る口を挟んだ。



「えぇ、そうですけど……でも、なぜそれをご存知なのですか?」


 と、薫子が戸惑いながら答えた。



「ごめん、ごめん。そういえば昔、その事で耕ちゃんに相談した事があったっけな。わしが話したんだ。赦してくれ、薫子。

 薫子が小学校高学年くらいの時に理数系が苦手だと気付いて、心配になって理数系の得意な耕ちゃんに理数系の克服方法を聞いた事があったんだ。

 あの時は本当にありがとう!」


 と、昇造が薫子に謝り、耕一にお礼を言った。



「あの頃、お父様が教えてくれた勉強方法にはそんないきさつがあったんですね。ありがとうございます。あの方法で、今なんとか授業についていけてるといった感じです……」


 と、薫子が少し恥ずかしそうに言った。



「実はうちの病院の看護学部は最近人気が急上昇していて、合格するにはいくら聖マタイ学院の生徒でも、理数系がかなり得意じゃないと厳しいんだ。

 だから、せっかくお父さんから許可をもらっても、薫子ちゃん大丈夫かな? と心配になって……」


 と、耕一が言いにくそうに言った。



「……そうなんですね。でも、それを早く教えてくださって助かりました。

 今から理数系を猛勉強して、がんばりたいと思います!」


 と、薫子が意気込んで答えた。



「あっ、そうだ!

 医学部で成績万年首位の郡山君に、家庭教師のアルバイトで教えてもらったらどうだろう? 薫子ちゃんは理数系の成績が上がって、郡山君は割のいいアルバイトができて、経済的にも時間的にもゆとりができる。一石二鳥のいいアイデアだとは思わないか? なぁ、昇ちゃん!」


 と、耕一が提案した。



「う~ん……密室に若い、しかも相思相愛の男女が二人きりか……」


 と、昇造はその案で、二人が罪を犯すリスクが増えるのではないかと危惧して考え込んだ。



「確かにそうです……僕もそのシチュエーションで自制できるか、はっきりいって自信がありません。今まで僕達は屋外で、しかも早朝の短時間しか会っていなかったので、密室で夕方に長時間となると……」


 と、義也も不安な様子で答えた。



「そうですね。私も勉強どころではないかもしれません。

 すごく嬉しいし、やる気は出そうですけど……」


 と、薫子が不安な気持ちと、残念な気持ちが混じりあった様子で言った。



「そうだ! それなら我が家の執事も同席するというのはどうだろう?

 あと部屋も密室ではない、オープンなガラス張りの部屋にすればいいじゃないか!」


 と、昇造が提案した。



「そうね! お父様、それグッドアイデアよ!

 あのいつもほとんど使われていない “光の間” がちょうどいいわ!

 それにお目付け役の執事がいてくれれば、気が引き締まって勉強に集中できそう!」


 と、薫子が嬉しそうに言った。



「さすが、昇ちゃん! やはり鈴木財閥会長だけあって、提案する事が凡人離れしてるな。見張りの執事やガラス張りの部屋を用意できるなんて……

 でも、それならみんなが安心だ! どうだね? 郡山君」


 と、耕一が義也に聞いた。



「“光の間” ですかぁ。なんかかっこいいですね! 

 それでは薫子さんの家庭教師のアルバイト、喜んで引き受けさせていただきます!」


 と、義也も嬉しそうに答えた。



「それじゃあ、話がまとまった所で義也君、あの魔法の言葉をお願いしたい!」


 と、昇造が機嫌良く義也に頼んだ。



「はい! 『光はやみの中に輝いている。やみはこれに打ち勝たなかった』」


 と、義也が堂々と聖句を告げた。



「その魔法の言葉、本当にそうね! 

 どんなに暗くても、マッチ一本で暗闇は一瞬にして光の存在を赦してしまう。

 どんな闇も光にはかなわないわ! 今の私の気持ちも、まさにそんな感じよ。

 せっかく職場体験までさせてもらって看護師になりたいと思ったのに、私の理数系の成績を考えるとどうにも厳しいという暗闇に覆われた。

 だけどその結果、ヨッシーに家庭教師で教えてもらえる事になって、私の心に一筋の光が差し込んで暗闇を切り裂いた! ね? すごいわ!」


 と、薫子が少し興奮気味に言った。



「薫子……義也君に家庭教師をしてもらえる事で満足していないで、きちんと勉強するんだよ」


 と、昇造が舞い上がっている様子の薫子をたしなめた。



「はい、お父様! そうですね。でも、正直とっても楽しみ!」


 と、薫子は嬉しそうに言った。



「僕も薫子さんのお役に立てて嬉しいです。よろしくお願いします!」


 と、義也が素直な薫子を可愛く思いながら、礼儀正しく挨拶した。

 その時、薫子は心の中で神に祈りを捧げた。


“ヨッシーは、まさに暗闇だった私の心に差し込んだ光だわ!

 神様、本当にありがとうございます。

 勉強をがんばりますから、看護師になれるように助けてください!“

※本文中の『』内の言葉は、新改訳聖書のヨハネの福音書1章5節より引用しました。

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