エピローグ
また、山をいくつも越えて東京に戻った。
来たときと違ったのは、峠はすっかり秋になっていた。
夕暮のススキの原っぱを、ソービッツのダイナモをごろごろ言わせて、ランプの淡い黄色の光を頼りに、宿を探してハヤブサと走ったのも、今では懐かしい思い出だった。
東京に帰ると、約束どおり、千佳子とプールへ行った。
僕が、「ただいま!」というと、千佳子は、一瞬、僕を見つめて、
「なんか、すっごく大きく、大人になったように見える・・・」と言うと、伏し目がちに眼をそらした。
シャワーを出て、プールサイドで待っていると、鮮やかなレモンイエローのセパレートの水着姿の千佳子が、恥ずかしそうにやってきた。
沙紀ちゃんのと同じように、腰回りに短いスカートがついていた。
どちらかというと、里美ちゃんタイプかな、と思った。
「べっ、別に、見せたくて着たわけじゃないんだからね!」と、あさっての方を見ながらぶっきらぼうに言った。
「似合うよ。とっても」僕は、すかさず、彼女の手を取って、プールサイドに連れて行った。
沙紀ちゃんとの習慣で自然にそうしてしまった。
千佳子は、おとなしく手を引かれていったがプールサイドまで来ると、突然、
「そんなこと言っても、だまされないよう~だ!」と思いきりっ舌を出した。
でも、決して手を放そうとはしなかったし、憎まれ口のわりには、顔が真っ赤だった。
その日、僕らは、行く夏を惜しむように、プールで泳ぎ、ソフトクリームを舐めながら肩を並べて帰った。
千佳子のひらひらした白いミニスカートが、初秋の風に揺れていた。
これも、今年の夏の終わりの思い出だった。
あれから、いくつも手紙が届いた。今回の旅で知り合った友達だった。
浩一君や、里美ちゃんはもとより、ワッパ熊さん、栄子さんからも来ていた。
でも、最後に、沙紀ちゃんからの手紙を紹介するのが、筋だろう。
なぜなら、沙紀ちゃんの手紙からはじまった、この夏の旅の締めくくりとして。
貴にいちゃん。
無事に東京に着いたと聞いて、ほっとしました。
おにいちゃんが帰ってから、こちらはすっかり涼しくなりました。
みんなで良く話をしています。
いつ東京に行こうかって。
この夏、おにいちゃんがいることが、
沙紀だけじゃなくて、みんなの当たり前になってしまったから。
山を越えて、海が見えた時、もっといろんなことができると思った。
その、おにいちゃんのことばに、沙紀は、すごく勇気をもらいました。
沙紀も、これから、がんばるよ。
おにいちゃんと、一緒にいろんなことができるように。
だって沙紀、妹じゃないもん。
藍川沙紀
おしまい。
ここまで50回、少年の旅に付き合ってくださって、本当にありがとうございました。
約十年前に書いたこの物語を、もう一度こうして皆さんに読んでいただけたことを、とても嬉しく思っています。
昭和47年の夏。
スマホも、インターネットもなかった時代。
少年にあったのは、一台の自転車と地図、そして遠くへ行ってみたいという気持ちだけでした。
毎日20時、少年と一緒に東京を出発して、日本海を目指してくださった皆さん。
この長い旅の最後まで来てくださったことに、心から感謝します。
この物語を書いた私自身も、かつて自転車で遠くへ行くことを夢見た少年でした。
だから、この作品は、あの頃の自分への小さな贈り物でもあります。
そして、同じように自転車で遠くへ行くことに憧れた、すべての少年たちへ。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。




