第15話 理由
『一度死んだとき、私もリヴィアも女神さまに願ったの……素敵な殿方と、素敵な恋をして……イチャイチャしたいって! だからリヴィアは転魂し、私は生き返った……と思うけど……多分……おそらく? まぁ、わかんないけど……』
いや、後半の尻すぼみよ……結局、わからんけどって!
「いやまぁ……で、では、えーと、お二人の今後の目的は素敵な男性を探す旅ということですか……?」
『え?』 「は?」
リヴィアが“何言ってんだこいつ”って顔で俺を見ている。
「いや、その目的はあっさり達成されただろう、我が君」
『そうよ。私たちの目の前にいるじゃない、ルミス』
うっすらと翠緑色の光をまとい、フェリエ様のお姿になったかと思うと、ガッチリ俺の両肩をホールドしてきた。そして、例の、すべての感情が抜け落ちたような表情で……
「『……あなたの力になりたい! あなたの役に立ちたい! 大した力はないけど、それでも! だから、どうかこれからも、あなたのお傍に控えることをお許しください!』……そして私たちは、ともに末永く生きていくことを誓ったよね? ごめんね、さっきのあの言葉はもう私たちの魂に刻みつけられたの……だから、決して取り消すことのできない言葉……決して、取り消すことなど……できないのよぉぉぉ!!」
「うひぃぃ〜〜! ごめんなさい、ごめんなさい! 聖女さまぁ〜」
「ひっひっひ! その怯えた表情がぁ! 妾の欲情を駆り立てるのじゃぁ〜!」
逃げようとした瞬間、ベッドに押し倒されて組み敷かれた。両手首を掴まれ、頭上で押さえつけられる。俺は降参のポーズのまま、欲情に歪んだ――それでもなお気品を保つ清らかなご尊顔を、間近で見せつけられた。
「あの、これだけは聞かせてください……どうして俺なんですか? 俺より強くて格好のいい男性はいくらでもいますよ」
「ふふ、そうかしらねぇ〜? 私はただルミスのキレイでかわいいお顔が大好きなの。笑った顔も、特に怯えた顔が大好き!」
「えぇ、こわい!」
ふふ、と笑いながらさりげなくフェリエ様が唇を重ねてくる……えっ、ちょっと!
「今までも容姿に自信のある高貴な方々に、たくさんのお誘いを頂いたわ。でもね……私、見えちゃうの。その方々の『魂の輝き』が……」
そういえば、俺を見たときも何か言っていたな、〈脈打つ……〉なんとか……?
「ルミスは『五光神色』ってわかる?」
「えーと、女神エルウェ様が神威の位を上げられるときに、放った光の色でしたっけ? 赤、青、緑? あれ、足りないな……」
「おしいねー」と笑いながら、再度唇を重ねられ、そのままフェリエ様は俺の首筋に顔を埋める。ちょっとくすぐったいが、それ以上にフェリエ様の温もりが気持ちよくて……
「正確には『淡紅』・『真紅』・『青藍』・『紫紺』・『翠緑』。淡紅が一番“魂の位”が低く、翠緑が一番“魂の位”が高い。そして、その輝きが『脈打つ』ように光るほど、その魂が気高い証。ただ、ほとんどの人は魂が輝きを放つことはなく、黒か灰色っぽい感じなの。私に言い寄ってくる方々はほとんど“黒”。真っ黒よ! 腹の色と同じねっ!」
憤りながらも、昔を思い出したのか、少しおかしそうに笑うフェリエ様。
「一番びっくりしたのが、10歳くらいかな、【魂鑑定】ができるようになって、こっそり大神殿長の魂を見てみたの……そしたらもう、ほんと、いっそあっぱれと言いたくなるくらい……黒かったわ! 漆黒よ! 私の中では“漆黒の大神殿長”って呼んでたわ! あはは」
あどけなく笑うフェリエ様が可愛かったので、思わず頭を撫でてしまった。あっ、と思ってやめたら、「ダメ、もっと」と言われた。
しばらくして少し身を起こすと、フェリエ様は俺と目を合わせて、微かに興奮したように続けた。
「そんな中でね、初めて美しい魂を見たの。【魂還の詩】がうまくいって、自分の身体に私の魂が戻っていったら、そこに〈脈打つ紫紺〉の輝きを放つ魂があるじゃない! そう、リヴィアの魂石が放つその美しい輝きに、私は彼女とともに生きていくことを決めたの!」
『私は、フェリエ様に温情をいただき、今この神々しいまでに美しい御身体で生を謳歌しているというわけさ。フェリエ様は“我が魂の主”。我が魂に代えても絶対にお護りする』
そういえば、フェリエ様からリヴィアの姿に変わるときは、紫の光をまとうな。関係ある……のだろうなぁ。そして、フェリエ様のお姿に変わるときは、緑の、翠緑の光を放つ。ということはフェリエ様の魂は……
あれ? そう言えば、俺も最初に会ったときに……
フェリエ様は俺の額にそっと額を重ね、静かに目を閉じた。唇は重ならず、甘い吐息だけが頬をくすぐる。
「……本当にキレイ。こうやってずっと感じていたい。ルミス、あなたの〈脈打つ紫紺〉の輝きを……」
「……俺の〈魂石〉って……?」
『ああ、本当に驚いたさ。まさか、このタイミングで〈脈打つ紫紺の魂石〉を持つ者に出会えるなんてね。まさしく女神様のお導きだ』
「ふふ、ルミスは私達のこと『出会ったばかりの男に心も身体も許す、世間知らずな女の子』って思ってたでしょ?」
「え? あ、いや……」
「ざ〜んねんでした! 私たちはそんなに安い女でなくってよ!」
『なくってよ!』
あはは、と二人で楽しそうに笑っている。目の前には一人だけど。
「もちろん、魂の輝きだけじゃないよ。まずはルミスのお顔が超好みだしぃ〜。なにより……出会ったばかりの私たちを命がけで助けてくれたじゃない? 神話に出てくる女神の騎士様かと思ったわ!」
『ああ、本当にそうだ。気高き魂を持つものはやはり違うと思ったさ。グルシオは腐っても近衛騎士団長。その強さは大公国でも五本の指に入る。その力量を見定めてもなお、私たちを助けようとするその心意気! そしてその顔!』
ま、まぁ、この顔で良かったな……結構、今までこの顔のせいで嫌な思いもしたけど、フェリエ様たちに気に入ってもらえるなら、それを補って余りあるか……
「ふふ、納得してくれた? 私たちはルミスがいいの。ルミスと一緒にこれから生きていきたい。それが私たちの願い……」
「……ありがとうございます。正直、こんな幸運あっていいんだろうかって思って……あらためて、俺は二人のために生きていきます。すべてを捧げます」
「す、すべて……」
『すべて……』
「そ、それは……魂も、心も、か、か、身体もって意味よね……?」
「え!? え、は、はい」
「ぐへ、ぐへへ……そ、そうよねぇ。ルミスも男の子だもんねぇ〜……さっきからルミスの聖剣が私を突き刺してるしぃ〜」
「ふえっ! だ、だって、この状況で、仕方ないじゃないですか! こ、こんな顔してますけど、俺だって男なんですよ! はうっ……」
俺の聖剣の切っ先が、恐れ多くも聖女様の下腹部を突き刺している……ああ、そんなに動かれると……
フェリエ様の滑らかで美しい御手が俺の腹部を優しく撫でる。そのまま手は下がり、ズボンを、い、いや、聖剣の鞘を外されようと…………
――ドンッ、ドン、ドン、ドンッ!
「うわっ!」「きゃぁ!」『ぬわっ!』
「おい、ルミス! もう昼だぞ! いつまでいるんだ!? 部屋の掃除できねぇだろ!!」
宿屋の主人ゴルガンさんが、全力で扉を叩き、濁声を響き渡らせる。そうだ、部屋の清掃の時間が……
「あ、フェリエ様、この宿、安いのに毎日部屋を清掃してくれて――ひぃっ!」
俺の上に乗っかり、俺の聖剣の鞘を外そうと、そっと手をかけていたフェリエ様が……
先ほどまでの期待に満ちた超絶に嬉しそうなお顔から一転――憤怒の形相を浮かべて扉を睨みつけている!
「一度ならず二度までも――切り刻めっ!! リヴィア!」
『――承知!』
「いや、待ってー!」
なんとか二人をなだめることはできたが……フェリエ様は、外でもいいのでと、二人っきりになれるところをご所望された。
――え! 外って!?
そんなこんなで、俺達は『霜牙の丘陵』へと来ていたのだった……?
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