第13話 戦闘スタイル
はぁ、はぁ……白い吐息が眼前に広がる。俺達は周囲を5~6匹の霜狼に取り囲まれていた。
「どうする? 我が君。私が片付けてもよいが?」
「いや、死にそうになったら助けて」
『うふ、死んでも助けますよ。生き返らせます。もう手放さないから』
こ、怖いこと言わないで……だが、今はおかげで安心して戦える。重傷を負ったとしても、いつでもフェリエ様に治してもらえるという、王族並みの贅沢を手に入れてしまった。
「……ふぅ、いくぞ!」
気合と共に俺は群れの中に突っ込む。普通に考えれば、狼の群れに単独で突っ込んでいくなんて悪手だ。だがこれは俺の訓練の一環。神経を研ぎ澄ませろっ!
一匹の霜狼を一刀で斬り伏せる。そもそも霜狼自体はそれほど強い魔獣ではない。討伐推奨ランクはDランク。一対一ならE級の俺でも魔法無しで勝てる相手。だがこいつらの厄介なところは——背後と左か!
見事に連携して、同時に攻撃してくる! 左からくる霜狼に片手で剣を突き出す。喉に突き刺さる感触を感じる間もなく、俺は左手に大盾を持ち、背後の霜狼を防ぐ。急に現れた大盾に思いっきり頭をぶつけた霜狼はふらつき、一瞬動きを止める。その隙を見逃さず、俺は剣を突き立てた。
さて次は、と思う間もなく、正面から二匹が飛び上がって襲ってくる。俺はすかさず両手にショートスピアをそれぞれ持ち、二匹の霜狼へと突き出す。それぞれ下顎と腹を貫き、スピアから手を放して今度は弓を構える。
残りの一匹が逃走を図ったので、背後から矢を射る。
——シュッ
くそ、外れた! 二射目——当たった! だが、まだ仕留めきれていない。再度狙いを定め……
——ドスッ!
「よっしゃ~、コンプリート!」
「す、すごいな……だいぶ粗削りではあるが、いや、すごい。初めて見たよ、このような戦い方」
『そうですね……そもそもこんな「空間魔法」の使い方は見たことがありません』
「それじゃあ、俺は素材をはぎ取ってくるからー」
いや、ソロの時はさすがにここまで思いっきりはできなかった。だが、今はいざとなったらリヴィアが助けてくれる。そして、怪我を負ってもフェリエ様が癒してくれる。ゆえにかなりのリスクを取れ、鍛錬のために狼の群れに単独で突っ込むという無茶もできてしまう。
何という贅沢! そう、贅沢なんだ。勘違いして増長しないようにしよう。俺はただ運が良かっただけ。
『それにしても「空間魔法」は物を魔法空間に収納しているだけで、内在魔素を消費するので、戦闘には向いていないと聞いていましたが……ルミスは違うのですね?』
「ええ。なぜかはわかりません。先天的な【固有スキル】だ、ということが関係しているんでしょうけど。でも魔闘気をまとったりすると、普通に内在魔素を消費する感覚はあるので、“俺が”ではなく、俺の【空間魔法】が特殊なんだと思います」
「それは我が君が特別だということと同義だぞ?」
リヴィアが少しおかしそうに笑いながら言ってくれる。
そう、俺は物心ついた頃にはすでに、身体の一部を動かすみたいにこの【空間魔法】を使えていた。だから「魔法を使う」という感覚はほとんどなく、ただ手足を動かすのと同じ感覚で発動できる。我がヴァイス家には、代々ごく稀にこうした空間魔法の使い手が現れるのだと、親父殿は言っていた。
そのことと関係があるのかはわからないが、俺の【空間魔法】は、どれだけ物を魔法空間に収納していても、内在魔素を消費している感覚がほとんどない。そのおかげで、戦闘中でも魔法空間から次々と武器を引き出し、それこそもう、とっかえひっかえ、手あたり次第の武器を使って敵を薙ぎ倒していく――そんな独特の戦い方が俺はできる。
と言っても、この戦闘スタイルも当然一朝一夕で身についたものではない。人様にあまり言うもんじゃぁないが、それこそ血のにじむような努力をね、俺だって……
『知ってるよ、ルミスの努力は。お前は才能だけじゃない、誰よりも努力家なんだ。自慢の弟だよ』
それこそ“自慢だった”兄の言葉がよみがえる。
……………………さて、素材の剥ぎ取り終わりっと。
俺たちは今、バルサド郊外の『霜牙の丘陵』と呼ばれる狩場に来ている。今の時期はまだ雪は積もっていないが、冬は一面銀世界になる丘陵だ。獣系の魔獣が数種類生息し、冬の雪原となった時期でも、魔獣狩りができる貴重な狩場だ。
そして、グロムザール大公の追手が来るかもしれないというこの状況で、いまだバルサドの街に留まっている理由はというと……
単純にお金がない! そう、ただのE級冒険者である俺は、2人分の生活費と旅費を持ち合わせていなかった! ごめん! リヴィアの装備やフェリエ様の日用品などを買い揃えたら、結構な出費が……まぁそれに、どうも急ぐ必要はなさそうだし……
『——聖浄化』
清らかで心地よい光に包まれる。振り返るとすぐ後ろにリヴィアが立っていた。そしてそのまま抱きしめられる。
「お疲れ様。我が君」
『格好良かったよー、ルミス』
「あ、ありがとうございます。でも、戦闘のたびに【聖浄化】を使わなくても。魔素がもったいないですよ」
『だって、これしないとルミスが抱き着かせてくれないじゃない』
「そうだぞ。別に我々はかまわないのに、我が君が嫌がるではないか? 私はルミスの男くさい匂いも……嫌いじゃないし……いや、むしろ……はぁ、はあ……」
「ちょっと、リヴィア。外だからダメ」
俺をまさぐろうとしてくるリヴィアの手を優しく剥がしとる。
「はぅ~」
リヴィアのいっそ“格好いい”と言いたくなるほどの美しい顔が、“待て”を言われた子犬みたいに潤んだ瞳で俺を見つめてくる。おのれ、かわいい。が、今は、
「俺が【戦士】になりたいって言った意味がわかった?」
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