第22話 統一政府の門
街道を進むにつれ、その威容はますます大きくなった。
大地に根を張る巨壁、統一政府の都を守る外壁だ。
高さは山岳に迫り、古代の遺跡を思わせる重厚な石材で築かれている。
壁面には無数の文様と刻印が施され、それぞれが「ルーン石」を象徴していた。
門前には長い行列ができていた。
リーフラ族の商人、空族の伝令、海族の輸送隊。
そしてその隙間には、首輪をつけたトヒの姿も混じっている。
荷物を背負い、呻き声を漏らしながら歩くその姿は――人であった痕跡を残しながら、もはや言葉を持たぬ存在だった。
ノラは思わず足を止め、拳を震わせた。
「……これが、“中央の現実”か」
クロが隣で静かに答える。
「秩序だ。誰も逆らわない。だから戦は起きない。
……俺も長くここにいた。そうして保たれる“平和”を、嫌というほど見てきた」
ノラは視線を外し、空を仰ぐ。
巨大な壁の上には、翼を広げた空族の兵が見張り、鋭い眼差しで往来を監視していた。
門の両脇には、リーフラ族の巨兵が槍を構え、威圧的に立っている。
やがて、二人の前に門番が現れた。
鎧を纏ったリーフラ族の兵。
その目は鋭く、威厳をもって問いかける。
「名と目的を」
クロが一歩前に出る。
「司法警察本部所属、クロ。任務のため統一政府への入都を申請する」
門番は目を細め、クロの胸の徽章を確認した。
「……確かに。同行者は?」
クロはノラに視線を向けた。
「猫族の戦士、ノラ。退役軍人であり、現・遺物研究者だ」
門番の目がわずかに鋭さを増す。
「……遺物研究者、か。中央では無用な探りを入れるなよ」
ノラは無言で頷いた。
だが胸の奥では――(必ず探る。ここに答えがあるはずだ)と誓っていた。
やがて門がゆっくりと開く。
石と鉄が軋む重低音が響き、光の筋が街の中から溢れ出す。
その先に広がるのは、ナナシ世界の中枢。
統一政府の都、すべての種族と歴史が交わる場所だった。




