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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
1章ヤマト(1)

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12/201

第12話 明哲王チャピ

ヤマトの中心にそびえる議事堂。

古代の鉄骨と再利用された木材で築かれたその建物は、外観こそ粗野だが、中に入れば荘厳な気配が満ちていた。

壁には旧時代の装飾片が組み込まれ、床一面には幾何学模様のタイル。まるで過去と未来を繋ぐ橋のような空間だった。


広間の奥に鎮座するのは犬族の王、チャピ。

その姿は意外だった。小柄な体格はチワワを思わせ、かつて勇猛で名を轟かせたヤマトの名とは対照的。

だがその眼差しは、雷光のごとく鋭く、深い叡智を宿していた。


「……お前たちが、ノラとクロか」

静かな声に、不思議な重みが宿る。瞬時に広間の空気が張り詰めた。


クロは膝をつき、恭しく頭を垂れる。

「統一政府司法警察本部所属、クロ。ご謁見の栄誉、心より感謝申し上げます」


ノラは形式ばった礼をせず、ただ軽く会釈した。

その態度に、チャピの眼が細まり、値踏みするような視線が注がれる。


「……型通りの礼か。犬族の王に対し、その態度、恐れを知らぬのか?」


「俺は猫族の戦士だ。王かも知れぬがヤマトを身体を賭けて守った自負がある。恐れる理由も、媚びる理由もない」


静かに放たれた言葉。その中に凛とした意志があった。

クロが慌てて口を開こうとしたが、チャピは片手を挙げて制す。


「いい。……その言葉こそ、真に“哲学”だ。流石、破邪衆。」


王は古びた巻物を手に取り、微笑を浮かべる。

「個は己を律し、考え、選ぶ。

 力の大きさではなく、言葉の重さこそが種を導く。

 それが我ら犬族の哲学だ」


小さな体に似つかわしくない威厳。

それは筋肉や牙ではなく、“思索”によって築かれた強さだった。


ノラは息を呑み、クロは誇らしげに背筋を伸ばす。

チャピは二人を交互に見て、静かに告げた。


「お前たちの旅は、ただの依頼では終わらぬだろう。

 “兄の死”を追っていると聞いている。その足は、やがて世界そのものを揺るがす。

 忘れるな。考えることをやめた時、ナチュラビストは再びトヒと同じ道を辿る」


広間に再び静寂が訪れる。

だがノラとクロの胸には、それぞれ異なる重みが残されていた。


――秩序を守るための哲学。

――自由を求めるための哲学。

――力だけではなく言葉があるからこその頭脳。


二人の旅路は、ここで再び交差し、そしてすれ違い始めていた。

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