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第九十七話 小話「エウィンと野良猫」

「ただいまー……」

「あ、ちょっとエウィン! うちに猫は入れないでって言ってるでしょ!」

「だ、だって、この子めちゃくちゃ人懐っこいし、大人しいから……」

「だってじゃないの! ほら、さっさとさよならしなさい!」

「ハクアさんがギャーギャー吠えるから、怯えちゃってるじゃないですか。よしよし」

「う……、だとしても家に入れないで。抜け毛の掃除って大変なのよ」

「ほらほら、見てください。こんなに大人しく抱っこされて、すごくないですか?」

「た、確かに……、かわいいわね。どこから連れてきたの?」

「モーフィスさんちの近くです。この子の方から近づいてきて、撫でてたら太ももに乗っかって……」

「鼻が綺麗な三毛ね。私が触っても抱っこされたままなんて、どれだけ人慣れしてるのやら」

「抱っこ出来る野良なんて、早々にいませんよ。すんすん、あー、猫臭い。でもそれが良い」

「あんたって、暇な時間はずっと猫を愛でてるわね。他にすることないの?」

「他にすることがあろうと僕は猫と戯れます。よしよし」

「かわいかろうと、それはそれ、これはこれ。さっさと出なさい」

「ちょ、ちょっとくらい、いいじゃないですか。この子だって、たまには暖かな家で夜を明かしたいでしょうし」

「あんたねー、言うことを聞かないと夕食抜きよ」

「え、それで許されるのなら構いません」

「く、こういう時のあんたって、たくましいと言うか、むかつくと言うか……」

「そうやって愚痴りながらも、猫を撫でるハクアさん。ほらほら、今回くらいは許してください」

「ダメなものはダメ。掃除する身にもなりなさい」

「明日は僕が掃除しますから」

「だ、だとしてもダメ。こうなったら……、ちょっと待ってなさい」

「あ、はい。行っちゃった、どうしたんだろう? おー、よしよし、ゴロゴロ言っちゃってまぁ」

「エウィン、さん?」

「アゲハさん、この子、ほら、触れますよ」

「とっても美人さん、三毛猫ちゃんだね」

「はい。大人しいし甘えん坊だし、運命感じて連れてきちゃいました。ところで、ハクアさんは?」

「わたしに、バトンタッチ。エウィンさんを、追い出せって……」

「なるほど。だがしかし、僕はこの子を離しませんよ。むしろもう飼う勢いです」

「すっかり、メロメロだね。うん、それくらい、かわいいと思う」

「さすがアゲハさん、ご理解頂けましたか。ハクアさんもデレデレだった癖に、追い出せ追い出せってうるさくて……」

「うん、わたしも、心を鬼にして、追い出すつもり」

「え⁉ そ、そこをなんとか……。ほらほら、ぱっちりお目目、綺麗なお鼻、ピンとした耳、全部かわいいですよ」

「うん、だけど、そろそろ帰ってもらって。さもないと……」

「さもないと……?」

「もう、焼きおにぎり、作ってあげない」

「そ、そんなー。今晩だけじゃなくて?」

「うん、ずっと」

「うぅ、それはずるいです。一食だけなら我慢出来るのに……」


 そう言いながら、玄関の段差に座り込む。

 抱いていた猫を太ももに乗せ換えた理由は、籠城戦の構えだ。

 エウィンは最後の抵抗として、従う振りをしながらもこの猫を離さない。

 三毛猫は嬉しそうに丸まっており、もはや相思相愛だ。

 この光景に思うところがあるのか、アゲハが無言でその場を去る。

 向かった先は台所。当然ながら、ハクアの手伝いに戻ったわけではない。

 数分後、アゲハは再び現れる。

 その手には、トカゲ肉の切れ端。ほんのりと白い理由は茹でた結果だ。

 彼女は何も言わない。エウィンの隣を素通りすると、玄関の戸を開く。

 三毛猫が耳をピンと立てて目を見開いた理由は、トカゲ肉を認識したためだ。


「ぽい」

「みゃみゃう」


 追い出し作戦の勝利だ。

 アゲハは当然のように玄関を締めると、無言のまま夕食作りに戻る。

 この結果、エウィンはうなだれるしかない。


「うぅ、餌に負けた……」


 心優しき猫好きよりも、肉片が野良猫の心を掴んでしまった。

 一人取り残されたのだから、改めて三毛猫を捕まえることも出来る。

 しかし、そうしない理由は敗北を認めたからか。

 そもそも好物を人質に取られた時点で、この結果は必然だった。

 エウィンは大人しく靴を脱ぐと、猫の毛を払ってから歩き出す。

 入浴は夕食の前に。

 これもまた、この家でのしきたりだ。

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