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第百二十七話 小話「もともとちょっとふくよか」

「邪魔するぞーい」

「あ、モーフィスさん、いらっしゃい。こんな時間に珍しいですね」

「おう、夜分遅くすまんな。里長に報告したいことがあってのう。いないようじゃが、エウィンだけで留守番か?」

「いえ、ハクアさんなら台所にいますよ。新メニューをアゲハさんから教わってるっぽいです」

「ほう、勤勉じゃな。いや、アゲハの腕前が優れてるということか?」

「材料さえあれば、新作が次から次にお披露目されますからね。呼んできましょうか?」

「ふーむ、そうして欲しいが、せっかくじゃ、おまえさんとも話をしようか」

「え? 僕は別に……」

「つれない奴じゃのう」

「そう言われても、毎日のように会ってますし」

「それもそうじゃな。おまえさんが俺から卒業して、今じゃ里長から指導を受けて……。かれこれどのくらいが経ったかのう」

「半年くらい? いや、もっとかな。ハクアさんは手加減が下手くそ過ぎて、毎日死にかけてます」

「ガハハ! 遠目から見とるが、そんな感じじゃのう。俺の実力じゃ、介入なんてとてもじゃないが無理じゃ。今以上に強くなって、里長を見返すしかあるまい」

「その前に死んじゃいそう……」

「安心せい。エウィン、おまえさんは確実に成長しておる。格下の俺が言っても説得力はないかもしれんが、実力が近しいことも事実じゃ。だからこそ、わかることもある。そう遠くない内に、髪の毛を掴めるくらいにはなるじゃろう」

「ホントですか? アゲハさんの方が僕より先にって感じですけど……」

「ガハハ! 嬢ちゃんも急に強くなったのう。身のこなしは相変わらずじゃが、単純なポテンシャルだけならおまえさんに並んだかもしれんな」

「そうなんですよ。見て学ぶってのも大事なんですかね?」

「どうだろうな。嬢ちゃんに関しては何やら秘密がありそうじゃが……。本人も自覚がないようだし、おまえさんは里長にしごかれるしかあるまいて」

「地獄の日々は続く、と。ハクアさんが強すぎて、いつになっても勝てる気がしないんですよね。そういう意味では、モーフィスさんは丁度良いおじいちゃんでした」

「ガハハ! 言いおるわい。ん?」

「やっぱりモーフィスじゃない。やかましい笑い声がしたから来てみたら。どうかした?」

「すまんな、里長、こんな時間にお邪魔して」

「別に構わないけど」

「警戒班から連絡があってのう。不信な連中が、森に近づいたらしい」

「こんな夜遅くに? 王国の傭兵とかじゃなくて?」

「装備は近しいが、雰囲気が……な」

「あぁ、敵ね」

「その可能性が高そうじゃ。警戒レベルを上げるか?」

「そうね。言うまでもないけど、防衛に徹するように」

「おう。あちらさんが魔女なら相手の手の内を……、魔眼の詳細を把握せんことには危険極まるからのう」

「まぁ、私やあんたなら問題ないでしょうけど」

「僕も加勢しますよ?」

「そうね、手を借りるかも。そういう意味でも、ここの戦力は過去最高と言っても過言じゃないわ。あぁ、あちらさんもそういうのを調査したくて、念入りに探りを入れてるのかしら?」

「かもしれんのう。エウィンについても知られていると思った方がよさそうじゃ。むむ? この甘い匂いは……」

「あぁ、アゲハと一緒にドーナツを揚げたの。食べてく?」

「ほう、そんなもんまで作れるとは。エウィン、良い嫁さんをもらったのう」

「結婚してませんけど。と言うか、アゲハさんとは手を繋いだことすら……、いや、それくらいは普通にあるな。魔物から逃げる時とか……」

「なぬ⁉ 里長、エウィンがこんなことを言っとるが?」

「相思相愛の癖に一向に進展しないの、不思議よね。こんなことってある?」

「最近の若者は不思議じゃのう。時代が変わったということか?」

「そんなんじゃなくて、どっちもへっぴり腰なだけでしょう」

「本人を前にそこまで言わなくても……」

「ガハハ! 時には勇気も必要じゃ!」

「痛い痛い、背中叩かないでください」

「よう言うわい。こんだけ叩いても、軸は一切ぶれとらん。里長、こいつは本当に底なしじゃぞい」

「だから私が直々に鍛えてるの。あ、ドーナツの到着よ」

「おう、アゲハ。お邪魔しておるぞ」

「あ、こんばんは」

「ほうほう、美味そうなドーナツが山盛りじゃのう。山盛り……、作り過ぎな気もするが……」

「問題ないわ。エウィンとアゲハが食べきるから」

「え? 僕はそんなに……」

「ガハハ! 今日は俺がいるから安心せい! ほれ、早速食おうぞ」

「ぼ、僕は筋トレがあるので一個だけ……」

「なんじゃ、ドーナツ嫌いなんか?」

「いえ、さっき晩御飯食べたばかりなので……」

「体作りは大事じゃと口が酸っぱくなるくらい言うておるじゃろ。ほれ、もっと食え」

「ぶえっ。食べますから、口に突っ込まないで……」

「おまえさんらは毎日のようにこんなんを作っとるんか?」

「そんなわけないでしょう。そうね、まぁ、あぁ、毎日に近いかも……」

「太るぞ。あ……」

「ドーナツ、成功して良かった。エウィンさん、もう一個、どう?」

「あ、その、じゃあ、頂きます……」

「ホクホクで、甘くて、おいしい」

「……」

「もうちょっと、作った方が、良かったかな?」

「……」

「モーフィスさんも、もっとどうぞ」

「お、おう。頂くとするかのう……」

「おいしい、おいしい」

「……」

「明日は何を、作ろうかな」

「……」

「もち米、また買いに行きたいな」

「……」

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