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バブー、バブー、ば…ボォエ!


「あうあうあうあ…!」

ッハ!危ない、あまりにも積み上がった課題を前に唯一の武器である思考も投げ出して赤児ムーブでバブってオギャッてしまう所だったぜ…ま、そうして発狂してられるのもそう長くなかったっていうだけなのだがな?


季節はもう冬、どうやら四ヶ月だか何ヶ月だかわからないが精神的な疲れからか記憶がほぼないが、肉体がほぼ自動で赤児ムーブしていたので成長はしている。はいはいやら捕まり歩きやらいろいろ出来るようになって来て肉体強化によってかなり上手な歩行ができるようになった。読み聞かせや会話から言葉もかなり収集できた。ま、逆に言えばそれ以外の進捗は一ミリもないという事だがな!


…あ、いや、最近言葉の練習をし始めた。コミュニケーション能力というよりもおねだりの具体化の為だ。そのうち日記でもつけたいのだが…けどなぁ、そもそも殺しにくるような親である。こちらの要求を飲んでくれるかどうか、そもそもちょっと早めに喋り始めたくらいでなにがしかの希少価値を見出してくれるだろうか?

「あう…あんあええもおうあないか…」

まだまだしゃべる練習を始めて間もないために非常に聞き取りずらい母音まみれの独り言だが、まぁ上々だ。

ついでに最近ようやく魔力という物の存在をしっかりと認識できるようになった。別に数値的に見れるとか、感覚的に全体量がわかるというわけでもない、本当にただただしっかりとそこにある魔力という存在を認められるようになったというだけだ…というか実際には精神がダウンして赤ちゃんムーブガン回しの間にいつのまにか見えるようになっていただけだ。まぁ、それ以上にこのエネルギーというかなにがしかの流れのような物である曖昧な、ただ見えるだけの存在を定義した事によって操作が出来るようになったのがいちばんの収穫だろう。動かせる。つまり操作できるようになるという事は鍛えられるという事、別に修行バカであるとか、常に何かを鍛えてないと呼吸困難で死ぬとかそういう訳ではない、ただただ不安なのだ。不安は払拭しなければいけない、不安は照らさなければならない、暗闇という恐怖と立ち向かうために人類は火を使った。その火という存在が俺にとっての魔力でありたった一つ信じられるファンタジーなのだ。


それに魔力操作とか育ててればなんか良い感じにチートにならないかなぁーなんていう甘い見通もある。ぶっちゃけ、叶う見通しが限りなくゼロに近くとも今の俺は何かに縋らなければ、何かを目標にしなければやっていけないかったというのもある。俺にあの某有名英霊シリーズ主人公のように人外めいた願いや精神やそのための心得など何一つない、それなのに初っ端から死というものが刻限付きで、しかも遠くない未来に訪れるというのが確約されている俺は恐らく知らぬうちに一度や二度壊れている。少なくともそう認識できなくとも人の心とはそれほどまでに脆く。少なくとも今の俺の心はダディバナザン!並みにボドボドなのであった。

…ま!ぶっ壊れてようがなんだろうが生き残るためには工夫と努力しかないんだけどねっ!



「それで?グラジオ、いつから魔力を使えるようになったの?」

「このあえだぉ?」

目の前にいるのは少し魔法使いとしての冷徹さの見える顔をした母親、近くには俺の異常を報告した使用人さん事ジェシカさんもいる。そして議題はもちろん俺の魔力操作であった。

うん、バレた。いっそ清々しいほどにバレた。大人しく夜中だけやってれば良かったものを欲を出して昼間も魔力を動かしていたらうっかりそれを目撃されてしまったのだ。そして話があれよあれよと転がっていき今の俺はベビーベッドの上ではなく用事椅子に座らされて対面にいるアナスタシアさんに尋問…ではなく軽い質問をされていた。仕切りにメモを取る様子は掛けているメガネも合わさって学者的である。

魔力の感知や操作、それにいつ目覚めたのかや自我、記憶、なんだかよくわからなかったが魂やなんやらのいくつかの質問に答えていくと彼女はまとめていた髪を下ろし、メガネを外した。

「ふぅ…まさか自分の子供がこうなるなんてね、お母さんびっくり!」

「ううぇ!?」

突然の抱擁と抱き上げとキスの連発に三半規管とその他諸々がデンジャーな感じにシェイクされたがそれも束の間、彼女は俺をベビーベッドのあった部屋に戻し、鼻歌交じりに紙束とインク瓶を抱えてジェシカに告げる。

「グラジオの願いはできるだけ叶えてあげて頂戴、きっともう分かっているのでしょうから」

「かしこまりました」

え、何、なんだったの?え、マジでなんだったんだ!?

混乱した頭のまま俺は疲れと気持ち悪さから意識を深く沈めたのだった。



「うふふふ、うふふふふふ!」

女、アナスタシアは機嫌が良かった。自ら腹を痛めて産んだ子が色無しだと、無能だと知った時は羞恥と屈辱にいっそのこと今すぐにでも我が子を消し去ってしまおうかとも思った。だが!

「転生者…いえ、起源覚醒者、循環する魂という通貨の根元に目覚めた超越者になるべき卵、その魂に刻まれた自我によって目覚めた異端…うふふふふ!愉しみね、きっとあの子は私たちがあの子を殺そうとしているのを知っている。そしてそれを乗り越えようと足掻いている!」

紙束とインク瓶を持ったままダンスでも踊りそうな勢いでクルクルと回る彼女はれっきとして成人であり、魔法という奇跡から世を解き明かそうという狂人だ。

「うふふ…あの子の名前をこの家に残せないのが残念でならないけど、でもいいわ、あの子がより深く。より強く魂を発露させるならば世界は答える筈、世界が魔法ではない何かをあの子に授けるのかもしれないし、あの子自身がありえない物を掴み取るのかもしれない、でもなんだっていいの、だって、だって今の私は!」

彼女は自室の扉を開けた。其処には精神が捻じ曲がるような神秘と知識が渦巻き常人が其れに触れれば呆気なくその命を絶ってしまうような冒涜的狂気がある。

「なんて運がいいんでしょう!なんて素晴らしいのでしょう!今まで積み重ねてきた全てが実ったの、いいえ、それ以上よ!」

部屋はことごとくが魔道書と紙束に侵食され足の踏み場もないほどに散らかっている。唯一手入れが行き届いているのが机と部屋の中心のみ、しかしその中心にこそ狂気はあった。

「錬金術、房中術、血筋、属性、呪術、あらゆる可能性を使ってここまでこぎつけた。遥か古代存在したとされる神族とのハーフ、あらゆる属性を発現し自在に操ったというプルウィス・アルクス、その末端から生まれた私たちから人工的にあくまで作為的に先祖返りを創る。そのためには血筋や属性も必要だけど何よりも原初から変わっていない何かを呼び覚ます事が必須だった!」

円筒状のガラスの様な表面には幾重にも何かしらの理解不能なまでにアレンジされた魔法文字や神聖文字が書き込まれ見るたびに蠢くように形を変える。その内は薄緑色の様な溶液が満たされており其処に浮かぶ何かを保護している。

「もしもの時のためにと用意しておいたコレも…いえ、次で完成させるの使ってしまいましょうか?」

其処にあったのは蠢く肉塊、かつては恐らく悍ましくも素晴らしい知性をたたえていたであろう瞳は血走り、濁り、あろうことか生きたまま切り刻まれたかの如き苦痛に狂っている。

「ええ、ええ!そうしましょう。このままあっても邪魔ですしね?」

そう言って童女の様に微笑んだ彼女は、鼻歌交じりに『実験』を開始した。

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