一歩進んで二歩下がる…あれ?なんかおかしくない?
朝です。俺の朝は先ずおしめの取り替えから始まる。心を無にして全てを受け入れたのち母親や時には乳母、また時には温めた牛乳などを口にする。
うん、どうやらこの世界の人間は赤児であっても頑丈らしい、昨日の落下もそうだが牛乳も普通の赤児が飲むのは危険なものだったような気がする。まぁ、どうやら俺の体は特別頑丈というわけでもないが特別貧弱ということもないらしい、それは朗報だ。そのうちわかるとは言え俺の魔法使いとしての適性は現状の情報から鑑みるにおそらく低い、それ故に俺が鍛えるべきは肉体、そして技術だ。
…ま、そんなこと言っても今やれることは無い、あるとすればこの魔力っぽい物の存在をよりきちんと明確な物として認識できるようになることくらいだ。え?ハイハイとかして鍛えろって?
「あうあうあ」
「うふふ…可愛いわね、これで属性さえあればよかったのだけれど…」
無理、なんかすげえ全身が痛い、痛いというか痺れるというか何というか…所謂筋肉痛的な物の所為でまともに動けやしないのだ。
原因はわかる。昨日の夜の行動だろう。やはり飛んだり跳ねたりや歩行は赤児の体に過酷なのだろう。ちなみに『じゃあ、今から鍛えて肉体チートだ!』とはならない、骨がほぼ軟骨めいている赤児や身体の構築が甘い幼少期から過度の肉体負荷をかけるのは成長の阻害やアンバランスな体の形成につながる危険な行為だ。…なのだが、そうであると思うのだが!それは飽くまで前世における常識、少なくとも魔力なんていうトンデモ物質が存在し剰えそれを生産、貯蓄、使用できる異世界人ボディである。あらゆる可能性を考慮し試していくのならば当然この状態から体を鍛えるというのもありなのだ。実際、魔力による強化込みなら現状の俺でも小学校低学年程度の動作ができるし…ただ、やはりリスクがつきまとう。今はまだそんなものを抱え込んでまでやる必要はない、とりあえずは本に興味があるような仕草を見せ絵本の読み聞かせをせがむことから始めよう。
重要なのは羞恥心を捨て去る事…南無三!
「むかしむかし、あるところに…」
「キャッキャッ!」
つ…疲れた。母上にせがむのは些か難しかったが昨日見た使用人さんをどうにかこうにか引き止めて本を読ませることに成功した。腕の中にいるので(居座った)文字っぽい物も見える。これに合わせて音を聞く。不思議なもので過去見たことのあるどんな言語よりもあっさりと覚えられそうだ。これも赤児故だろうか?彼らは親や周りの人の発する音から言葉を学び早いものでは2、3歳で文字を描く。書き記すのはまだ先だが少なくとも文章的に並べたり外形をとったりするのだ。
英語的な文法なのもあり特につまるところもなく単語や接続詞を理解していく。恐らく一般的な語句を一通り詰めた物なのだろう。話自体はつまらないし説教的であったり、童話的であったりと定まらないが教材としては十分すぎるほどの十分だ。裏表紙に単語を構成する50〜70ほどのアルファベット的なものの表があったので死ぬ気で凝視して覚えた。
うん、やはり若さとはいいものだ。20歳を超えた辺りというか、高校生くらいから記憶力やら理解力やら…頭の硬さを感じるようになってきた。それからこの状態を体感すると…いやはや、凄まじい、やはり赤子とは神秘の存在だ。ものの数十分で終わる童話だったがそのほとんど全てを覚えた。
内容は、形式はともかく神とそれが与えた魔法という存在の偉大さについてだ。まぁ、超劣化版聖書的なアレである。
それで…だ。………まぢやばいかも知れぬ。
神の与えたもう五つの属性、これが所謂五つの大属性火、水、風、土、空これに派生や複合はあるがその多くは少なくとも色のついた属性である。だが、そこに無という物はなかった。属性さえあればというかそもそも属性があるのが当たり前なのだ。そして絵本でさえこれなのだもっと詳しく書いてある魔法書を読めば…とか、研究者に聞けば…とか、そんな甘っちょろい世界でないのは十分に承知しているし、そもそも魔法使いとして貴族になったこの家に最先端の魔法やその技術、情報が入っていないわけがない、それを踏まえて属性さえあればと言われた。
それを踏まえてもっと嫌な予感がする予測を立てるならば、この世界において無属性などという魔法は無い、もしくは異端である。という事だ。異端ならまだ良いのだ。隠しようはあるだろうし、使うとしても内密かつ足のつかない殺され方を回避するための手段、人眼につく事はないだろう。だが!だがしかし!もし無いのであれば、もしくはあったとしてもこの微妙な肉体強化と簡単な魔力の操作のみが無属性に許された技なのだとすれば…
「…あう〜」
詰んだー!詰みまくってるわーコレェ?何、なんなの?このまま5、6歳から剣術やら体術やらをやらせてもらえたとして9歳、最悪10歳でどっかの森に放り込まれるんだかなんだか知らないが成人の儀式的な試練的なアレだろ?死ぬわ!死んでしまうわボケが!魔法の魔の字くらいないと即死ゲーも良いとこだよ!?なんのための魔力チートなんだYO!このまま殺されてデスループとかも嫌だけどせっかくの第2回目人生即死とかどんな需要があんだよ!ぬわぁぁぁあああ!もうだめだもぉぉぉぉん!
既に絵本を読み聞かせ終え俺をベビーベッドに戻して仕事に戻った使用人さんに感謝とか色々あったし、文字やら言語的な技能獲得もあったが、それを加味しても二進も三進も行かない現状に発狂しそうになる俺は、しばらくガチ赤ちゃんの駄々ムーブをひっそりと行い、とりあえず気を落ち着けるしかなかった。




