我輩は赤子である。名前はグラジオラス…強そう
「ふむ、そろそろ名付けをする時期だな」
「ええ、そうでしょうね首も座ってきましたし、教会に行きましょうか」
「あう?」
突然ヤクザ顔のお父様『ガルフ・A・フレイアール』がそんなことを言い出し金髪きょぬーでふんわり系美人の『アナスタシア・A・フレイアール』が少し嬉しそうに頷いた。俺はそんな2人の様子に最近ようやく座ってきた首を傾げつつ横顔というか右半身に当たるオパーイの道半ばにして童貞だった俺には些かにして刺激が強い、もといバブみ深すぎてまじ赤ちゃんになりそうな柔らかさを楽しんでいた。
うん、変態だと思うだろう?ならお前も同じ目にあってみろ相当な絶壁好きでもなければ、いや、もしそうだとしても原初の記憶に刻まれたぽよんと柔らかい胸部への感謝と敬意と劣情はどうしようもなく人を堕落させるのではないでしょうかね!(力説)
「だうあー?」
まぁ、力んでも出るのはお粗相のみなのでどうもできないし力説などしようにもできないのだ。無邪気っぽい声を上げる俺を抱えてお二人様は一路教会っぽいところへと向かう。
そういえばすでに三ヶ月の時が過ぎており、彼らの言葉と気候から俺の生まれは前世における春、4月の後半だ。今はすっかり湿ったような空気感は拭われカラッとした空気に日差しの眩しい初夏といったところだろうか?その間二、三度家の庭に出ることはあったが今回のように玄関から使用人らしき数名を連れて出るのは初めての事だ。
ちなみに家はそれなりに裕福でかつ高名な魔法使いの家らしく爵位もある。最高な事に長兄ではなく次男、しかも三男もいるらしい、兄は一度こちらに来た事があったが親父殿より母君に似たようだ。まぁ、あれである。顔立ちがもし親父殿に似ていてもきっと大丈夫だ。うん、貴公子然とした顔にはならないだろうがきっと整ってくれるだろう。多分。おそらく。メイビー!
今までは庭からしか外を見れなかったが、母君の腕から使用人らしいロングスカートを履いたメイドさんに受け渡され粛々と運搬されている俺はじっくりと我が生まれ故郷を眺める事にした。
石畳、中世風の街並み、どうやらそれなりに大きな都市の中に産まれたらしい、そして何よりも目につくのは多種多様な人、身なりもそうだが少しばかり耳の長い人種や獣のような顔、その特徴を持った人物がごく自然に歩いている。…そして、それらの人々を見かけるたびに少し眉や動きに嫌悪感が出る我が両親…うーむ。
どうやら俺の産まれた家は人類種に対してある種の特別な感情を持っているようだ。まぁ、所謂差別主義者、もしくは人間至上主義者なのだろう。そしてこれが貴族のスタンダードだとすれば元日本人の俺とは相容れんだろう。いや、ある意味では村社会の体現者なのだが、〜だからとか、〜じゃないからとか、そういう事には興味がないし、そもそも使えるものすべてはすべて使う派の俺としては意味のない区別だ。
「…痛ましい事だ。亜人が王都に居ついているなど」
「ええ、それも奴隷ではなく市民としてです。恐ろしいですわ」
…なんとも典型的な感じだ。先日あった長兄も似たような感じなのだろう。妾の腹の中にいる弟はわからないが、この家にいればいつかそのような思想に染まるのは言うまでも無い、そんな感じで腕の中から周りを見ていると奥に見える巨大な城の手前、荘厳で威圧感すら感じるような白磁の建物が見えてきた。
あれが、教会、前世で行ったことはないし街中にあったそういう建物はあのような美術品めいた美しさはなかっただろう。
そしてここに来て同じような集団が複数ある事に気がつき、そして両親やその使用人含め全ての人が緊迫した表情をしているのに気がついた。
「名付けの儀式を終えれば一度目の開花が始まるのね」
「ええ、平民でも貴族でも魔力がないのだけは絶対にダメ、ああぁ今からお布施して間に合うかしら」
「せめて火、ダメ元で水の属性に目覚めてくれれば…」
さまざまな場所から聞こえる声、その多くは魔力やら属性やらファンタジーな語句を含んでいる。いや、まじか、これは来ちゃうのか?よく見るタイプだと小学生くらいまで魔力やら魔法やらとは無縁だがこの世界では赤子の頃からなのか!?いやはやデゥふふ、これはこれは、なかなか心踊るフラグですなぁ、ここで魔力が多かったり、希少な属性に目覚めたりやべえのを引いて捨てられたりしちゃうわけですね…
「だう!?」
「あら?どうしたのかしらいつもは静かなのに」
「うふふ、きっと外に出てはしゃいでいるのよこの子庭でもいつも周りを見ては笑っているもの」
いやいや、マズイマズイマズイ!ここで下手な属性を引いて廃棄コースとか、低すぎるもしくは高すぎる魔力を引いてなんかのフラグを踏むのは不味すぎる。良過ぎても悪過ぎてもそして何より平凡でも角が立つ!クソ!これだから異世界は嫌なんだ。結局はどの道も化け物みたいな精神性とか努力を超えた何かしらの才能やら呪いめいた世界の愛とかそういう類のものがなければ即即死コースに入るんだ!
ああ、辞めて!探索ロールに失敗した挙句武具と命をスライムさんに溶かされるのはもう嫌なんだよ!
そんな事を思いながら教会に入ればそこに広がるのはまるで絵画のような神聖な祭祀場、だが俺にはその壇上へと続く階段が上に行っているのにもかかわらず地獄への道にすら見えた。
祭祀場は水路に囲まれた円柱状の舞台のようになっており、空からはステンドグラスのような色付きの透過物によって着色された光が降り注ぐ。壇上に上がると使用人さんからママ上に手渡されママ上は俺を天高く掲げた。周りの人も同様にそのような格好を取ると光とほんの少しなにか大きなものに触れられたような感触がすると同時に声が響く。
『名を与えよ』
その声に応えるようにママ上も周りの女性もそれぞれ我が子の名を叫ぶ。それはママ上も同じようで笑みとともに俺に囁きかけるように、しかし天上にある何か巨大な物へと響くように言う。
「グラジオラス!」
それは前世で俺の名であった菖蒲、アヤメの一種、ラテン語における剣の語源である。
そして一拍開けて俺は自らのうちから溢れる何かに気がつき、それを手繰り寄せようとすると何かが堰を切ったように噴き出した。…勿論、排泄的なサムシングではなかったのをここに誓う。