年齢は? 1歳です。 1歳?職業は? 樵です。
あーヨサクはきーをこるー
へいへいHOY!へいへいホイ!
「まさかこっちに来て木を切る羽目になるとは…」
しかもマサカリで、というか斧で…このアヤメの目を持ってしてもここまでは見抜けなんだ…
メキメキメキメキ…ズズーン
さて、とりあえずこれを乾燥させて暫くしたらまた切断してそれを薪に加工しないといけない、だがしかし勢いで薪作りと伐採までしたが、まぁなんて言うんですかね、5歳になるまで肉体負荷はかけないつもりだったがもう既にかけまくっている挙句ジェシカさんが頼れないとなると真面目に今から肉体改造するしか無いのだろう。
と言うかもう既に筋肉痛きてるんで飯食って寝たいでござる!
「おつかれ様です」
「ああ、ありがとうございます」
スッといつのまにか後ろにいるジェシカさんから水をもらって飲み干し、塩を舐める。ちょっとしたミントの匂いが清涼感を感じさせ流れ出た水やビタミン、塩分を幾分か補填してくれる。
なぜ俺が薪割りやら木こりの真似事やらが出来るかと言えば、理由は一つ、サークル活動である。まぁ、ちょっと特殊なサークルで大学生活はおろかそもそも現代社会においてこれから先触れるか怪しい技術や知識を身につけるサークルで、野草や山菜、食える果実や野生動物の捕獲法に捌き方、文化祭の出し物は活動の一部である農作業の成果である野菜の売り出しだった。
それで、である。斧というのは使い慣れないと非常に難しい物だ。確かに遠心力や重力を借りての質量の乗った打撃は刃という接地面積の小さな場所で圧に変わり、物を切るが、遠心力に振り回されない体幹や筋力以前に体の動かし方が肝となる。
腰を落として重心を下げ、安定して脚で地面を掴み、場合によっては持ち方を変えて腰で振る。この時に持ち手の刃に近い方を掴む手を滑らせるように手前に引く事で振り落としたり振る先を定めながらも遠心力の乗った芯に入る振りができる。
ジェシカさんに「慣れてらっしゃいますね」と言われたが、まぁ実際素人も良いとこだ。
ちなみにジェシカさんに薪割りを教えてはいない、というか流石に女性にやらせるのはね…ま!幼児がやるのもどうかと思うけどね!HAHAHAHAHAHA!…あーキツイッシュ!
さてさて、そんな時でも魔石は送られてくるし、魔力は注入しないといつ物資の補給が打ち切られるかわからないし、タカキも頑張ってるし、なんか静かだし、そうなってくると日が落ちる前に俺の体力がそこをつくのは自明である。
ベッドに倒れるなり意識不明、というか意識を吹き飛ばされるかのような勢いで眠りにつくのであった。
「ぐへ」
「おやすみなさいませ」
そして陽が上がればすっと目がさめる。眠った時間から逆算すれば幼児の睡眠時間と考えるなら短めだが、昼寝も長いので問題ない、だが他に問題が無い訳では無い!いや、こちらの方が問題といえば問題だ。
「ふみゅ…」
「…」
背中に当たる膨らみ、うなじにかかる吐息、体温、花のような香り、あらゆる全てが俺を殺しかけるに足る威力を持ち、それが一斉に俺に襲いかかってくる。
そう、実はこの家にはベッドが一つしかない、うん、一つしかない、一つしかないのだ!
大事なこと故に三回言ったがもう一度言おう。ベッドが一つしかないんだっ!
別に幼児の体はなんの反応もしないが中身は成人男性、色も酒も知っている身だ。そして知っているが故に理性がやばい、非常に嬉しいことにジェシカさんは若くて、ちょっとキリッとしているが抜けているところがあるとかいうギャップ萌えで、しかも慎ましいながらもはっきりとあるのはわかる胸があって、寝言はふみゅである。
可愛すぎかよ、オイ。オイオイ、そんな無防備にグニグニしないでくれよよよよよ…
こんな状態で言うのもなんだが、おそらく俺は彼女にとって疫病神と言わざる得ないだろう。なにせ彼女もまたあの家族会議の場にいた使用人の1人なのだ。そして、彼女のうっかりが過ぎた結果が今の俺だが、いかんせん彼女は善良過ぎであり、純粋過ぎであり、実直だ。
裏を返せばお人好しが過ぎており、騙しやすく、愚直だ。ある程度人間らしい悩みや、時々感じる少々の悪意や苛つき、そこから考えれば彼女もまた人間なのだろうが、それにしたって善良が過ぎる。今のところ俺の知る魔法使いが両親かジェシカさんとコックさんしかいないわけだが、その評価はほぼ両極で固まっている。立場やそれぞれが持つ理想や理念が違うとはいえ片や人間として怪しいレベルまで倫理を捨て去り利己ではなく己が血筋や己が血族の野望なんて物に心血を注ぎ、片や人の為に何かをする事に特段疑問を持たず。そしてなによりも自分を優先できる人間らしい存在である。非人間と人間の合間について考えさせられるが、あくまで俺の主観、俺の価値観の上での判断だ。
結局、これらの思考が現実逃避であることには変わりないが、今の俺は明確に敵と味方、不利益と利益、損と得を考えなければいけない、なにせ俺の運命は屋敷を形の上では追い出された今であっても彼女ら超越者めいた両親の移ろいやすい人の心という物に頼っている薄氷の上の城だ。
…とりあえず今日も雨季と冬に向けて薪の準備と山菜図鑑やきのこ図鑑の暗記、引き続き魔法や魔石の研究もしなければならない、やる事は相変わらず多い、だが体を動かせる今は赤子だった昔よりも幾分かマシである。




