一国一城の主()
扉の前から気配が消えないのでどうやら確実にうちに用事があるらしい、観念して扉を開ける。すると目の前には台車に山盛りに積まれた魔石があった。
「はい?」
「…魔石です。当主様より預かってまいりました。あとこれが今日の分です。では、私はこれで」
「え、あ、はい。ありがとうございます?」
え?
何これ、見覚えは…あるな、確か屋敷の魔法具に使われているものの筈だ。魔力を通してみればすぐにわかる。魔石は何度も魔力を通すことでだんだんとその石それぞれの持つ癖のようなものがわかってくる。三角形の形をした面が20〜30ほどあるがこれは魔石の質とは直接関係なく。中に入る魔力も一定だ。だがちょっとしたコツを押さえることで中に入る魔力を多くし長く保たせられるようになった。
俺はほぼ半年間毎日やってきた魔力操作で何の苦もなく魔石に魔力を詰め…我に帰った。
結局これは何なんだ?俺がクビをかしげると上から紙が落ちてきた。
筆跡は…全然わからないが父上の字とは違う。ちょっと乱暴に書かれた文章が二行あった。
『充填し屋敷の裏口に持って来い』
「え〜」
つまり魔力タンク扱いは相変わらずという事だ。まぁ、なんだかんだ言って俺がいるのといないのとではおそらく魔法具の設置できる量が違う。十分に屋敷に影響力を持っているといえば過言だが、便利に使う程度ならいいとは思われているようだ。
二行目は…
『さもなくば物資の供給を断つ』
「やらせて頂きます!」
俺は有り余る魔力に任せて魔石に魔力を通し、充填する。目測にして100個近いが、恐らく予備ではなく何かしらの形で備蓄される魔石だろう。
この日、フレイアール邸は激しい魔力同士の衝突によって半壊していた。その中心には正に激怒という表現がそのまま当てはまるような表情を浮かべたガラフと膨らみ始めた腹を撫でながら薄く笑みを浮かべるアナスタシアが対面していた。
「どういう事だ!アナスタシア!」
「…さて?なんのことでしょう」
「ふざけるなっ!」
彼がテーブルに手を叩きつけると蒸発するように消え失せ、彼女は面倒臭そうに燃え上がった床を消火した。
「グラジオラスだ、グラジオラス!忌々しい色無しを何故庇う!」
そう、彼は自分の息子であろうがそれが理外の勢いで成長していようがそれが『無属性』である限り血筋の汚点である限りその悉くを消し去ると、消し去らねばならないと考え実行していた。
だがその悉くをアナスタシア、正確には彼女の少し正直すぎるメイドの所為だが、に邪魔され結局彼は一歳の誕生日を迎えてしまった。
「奴ももう生まれて一年だ。今、すぐに始末しなければ教会の管理する出生録に名が乗るのだぞ!?」
そう、この世界において教会で魔力を受け取った者は漏れなく全て一年後に教会の石碑に名が刻まれその存在が消える瞬間まで記録される。そしてそれは魔法使いとしての証であり、その名がある限りその魔法使いは生きているという証明になる。幸いにして家名は入らないが名付けの通例としてその石碑にない物にするというのがあり簡単に特定できるのだ。
「うふふ…言ったではありませんか、10を数える頃に儀式に出すと、それに別にかばっているわけではありませんわ、彼が私に面白い物を提供してくれる限り、面倒を見てあげているだけです」
「詭弁だ!なんなんだ、何が目的なんだ貴様はぁっ!」
彼女の曖昧な態度に彼の怒りはもはや怒りというレベルを超えてしまっていた。本来ならば怒気と共に放出される魔力で物体が発火するなどありようも無いのだが、今の彼は積み上げてきたあらゆる技術を保つことすらできぬ程に怒り狂っていた。
「我が家、我が血族、我が伝統、その全てを無に帰すつもりか!?それとも復讐か!目的があるんだろうアナスタシア!」
彼にとって家と其れの築き上げてきたあらゆる名誉は彼の命、彼の全存在をかけてでも、例えそのてを子供の血で汚したとしても、俺だけのことをして守る価値ある物だ。そしてそれは魔法使いの大家でありその後継である彼女にとってもそうなのだと、彼はそう思っていた。
「…五月蝿いわね、少し頭を冷やしたらー」
「またはぐらかすつもりかっ!このっー」
しかし彼女は面倒臭そうに彼の相手をするだけ、彼は自らのプライドと魔法使いの大家としての権威を軽視するかのような彼女の態度に制止も聞かず彼が荒ぶる魔力を身に纏い彼女に向かって拳を振り上げようとした…
「黙りなさい!」
「ガッ!?」
だが、それが振り下ろされることはなかった。
いや、そもそも彼のような才能と魔力に恵まれ熟達した魔法使いという存在はこれだけ感情に振り回されればそれこそ局地的天災めいた被害を出すはずなのだ。
それがたった屋敷が半壊する程度で済んでいるというのが、彼女と彼との間の力関係を明確なものとしていた。
気づけば地面には霜が降り、魔力も炎もあらゆる物体、現象はその種類を問わず『静止』していた。
魔力とは現実を改変する能力の大きさ、術式や魔法に求められる魔力が多ければ多いほどその改変力は大きいのは当たり前の話だが、いや、だからこそ膨大な魔力を持った術者というのがどういう存在なのかが重要なのだ。
「ガラフ・A・フレイアール、貴方は私の邪魔をしないと婚約する時に約束したでしょう?そしてその契約の不履行が何を引き起こすかもわかっているでしょう?」
膨大な魔力を持つということは現実への干渉力がそれだけ強いという事、椅子に座り膨らんだ腹を愛おしそうに撫でながらも彼女は自分の周囲数メートルを除いてあらゆる物を静止させていた。
「ねぇ、貴方…死にたいの?」
「っく…化け物め」
言い争いは言葉ではなく力で、納得ではなく諦観を持って終了した。
彼女はつまらなそうに凍結させられた身体を溶かして逃げるように王城へ去っていく男を見送った。
「わぁお…」
なんだあの大怪獣戦争、アレが完成された魔法使いという存在なのか…
っていうか改めて直接命狙われなくてよかった〜




