第九話 初邂逅、オーク
誤字・感想等ありましたら報告していただけるとありがたき幸せ(誰だよ)
今回のエルさんは若干鬼畜です
自分の根幹にも関わる決意をした、あの日から既に四ヶ月以上が経過したある日
今日までひたすらに鍛えた。
四ヶ月とちょっと。人生全体から見ればそう長い時間ではない。
けれどその時間は、エルに自分は強くなったと、そう思えるほどの変化を与えた。
今、エルはある魔物と対峙している。
そのモンスター、脂肪の多そうな腹や身体、薄いピンク色の肌、豚の頭。
3メートルを超えるようなその巨体のモンスターの名は、オーク。
エルはあの日以降、ゴブリンに出会うことはあっても、オークには出会っていない。
つまり、エルとオークとの初邂逅だ。
オークは、あの日のゴブリンと同じように下卑た笑みを浮かべている。
自分たちの前にいるのは自分たちのは敵には成りえないような子供なのだから、それも当然だろう。
「これは・・・ちょうどいいな」
少々驚いた。何かが来ることは察知していたが、目の前にいるのは10体を超える数のオークなのだから。
だが、その驚きの表情も直後にエルの中で浮かんだ考えにより、笑みへと変わる。
エルはこれまで、大した実戦はしていない。せいぜいゴブリンやただの獣程度であった。
だが、目の前にいるのはオークなのだ。
その力は、並の冒険者よりも上だ。
少なくとも、10体を超える数のオーク等、そこらの冒険者であれば出会い次第逃げてもおかしくないレベル。まともにやりあえる冒険者は一人前だと言える。
肉は切りづらい上に、この森の木々程度ならば易々とへし折る膂力。
それがオークだ。
そして、オークの内の一匹が手に持った人間から見れば大剣、オークからすれば片手剣、をエル目掛けて振りかぶる。
「練習相手になってもらおうか・・・?」
獰猛な獣が獲物を見るときのような笑みを浮かべるエルに、オークの下卑た笑みが崩れる。
エルは剣を振りかぶるオークに対し、避けるのではなく、走り出す。
その動作と同時に、魔法を唱える。
あの日、ゴブリンと戦った時は、技術不足故に棒の形だったその魔法。
瞬時に魔力を手のひらに集める。
「《氷柱の刃》・・・!!」
手のひらに現れたのは、滑らかな曲線を描く、エルの身長よりも大きい氷の刃。
さらに特徴的なその剣の鍔の見た目は、氷の針。いや、その剣の名称通り、氷柱と言うべきか。
その部分だけでも武器になりそうなほど尖ったその鍔も含め、剣全体が輝きを放っているように錯覚するほど、美しいものであった。
明らかにゴブリンと初めて対峙した時のような、ただの氷の棒とは違う。
美しい造形のその剣は、当然ただ氷を剣の形にした、というわけではない。
そもそも、ゴブリンと対峙した時に使った氷の棒にも言えることだが、ただ氷で作っただけの武器など、叩きつけるような真似をすれば、余程相手が柔らかくない限り、砕け散る。
当然だろう、そんな硬度は氷にあるはずがないのだから。
だが、エルの魔法で作ったものは違う。
圧縮したのだ。あの日に使った氷の棒の硬度は、鉄にすら劣るようなものだった。せいぜい木よりも若干折れにくい、という程度のもの。
しかし、エルが今魔法で作った氷剣は、鉄の剣にすら届く。いや、それを凌駕する。
さらに、ただ硬いだけではない。当然氷を圧縮するなど、重量はその分だけ増える。ましてや鉄を凌駕するほどに硬くしたのであれば、その重量は子供が振り回せるようなものではない。さらに、その剣の大きさは、大剣と呼べる代物。にも関わらず、エルはそれを持ったまま走り、切りかかってきたオークの持つ剣の腹へ振り下ろす。
「・・・ハッ、なんだよそのなまくらは・・・もうちょっと真面目な武器を用意してこい」
オークに対して子供の力で切りかかるなど、無謀としか言えないことだろう。
だが、エルが振り下ろした氷の大剣は、ガギィッという鈍い音と共にオークの剣を砕いた。
弾くことすら異常。だというのに、エルの一撃はオークの持つ剣を砕いたのだ。
勿論、エルが言ったようにオークの持つ剣が大したものではなかったのもある。なまくらと呼ばれても仕方がないほどだ。だが、それでも、オークが持っても違和感のないような剣、いや、大剣を、子供が砕くなど、もしこの光景を誰かが見ていれば、その異常性から自分の目を疑っただろう。
オークの数は合計13匹。
エルは相手の持つ剣を砕き、そのせいで勢いの弱まった大剣に再び力を入れる。剣の方向を変え、オークの頭へ向ける。自分の剣を子供に砕かれたという事実に惚けていたオークの頭を切り裂く。
絶命した自分たちの仲間を見て、オーク達は困惑する。
自分たちはただ獲物を狩っているだけだったはずだ。なのに、どうしてこんなことになっているのかと。
困惑しているオーク達を見て、迷いなく駆け出す。自分に近い二匹が視界を視界におさめ、剣を振る。
空気を切り裂く音と共にふられたその剣は、一体目の腹、二体目の首元を切り裂く。僅かに息のあった一体目を一瞥し、残った10体のオークへ向けて手をかざす。
「《風爆波》」
放った魔法は一見すれば風の塊をただぶつけただけに見えるだろう。それだけであれば、オーク達は行動を阻害される程度ですんだかもしれない。
だが、放たれた風は、オーク達の体に切り傷をつけた。
強烈な鎌風の塊。その魔法を表すならそんな言葉が相応しいだろう。
その魔法には、オーク達を一撃で絶命させるほどの威力はない。だが、表面を薄く切る、という程弱くもない。
風により切り裂かれたオーク達は、皆膝をつく。筋肉や関節など、身体を動かすために必要な部分が動かせないほどに傷つけられたからだ。
「うーん・・・5体ってとこか?」
そのまま、残った10体の内、5体に止めを刺した。
エルがこの魔法を使った理由は、相手の動きを止めるため、だけではない。
生き残っているオークに、回復魔法をかける。
だが、ただ治すわけではない。いわばこれは実験だ。
オークの傷を治せることを確認し、今度はオークの手足を切る。
「必要だとは言っても気分のいいものじゃないな・・・」
なぜエルがこんなことをしたのか?答えは簡単だ。
回復魔法の性能を確かめるためだ。傷をふさげることは確認した。
エルは、回復魔法は人体の再生能力を高めるものだと思っている。
であれば、失った部位を治せるのかどうか。これはエルにとってかなり大事なことだ。
「やっぱ、さすがにそれは無理か・・・?いや、技術が足りてない可能性もあるか。次は、繋ぎなおせるかどうかだな」
失った部位を治すことは、少なくともエルが使える回復魔法ではできなかった。
だとすると、切り落とした腕を持ってきて、繋ぎ合わせることはできるのか。
さきほど失った部位を修復しようとしたときは、傷自体はふさがった。なら、繋ぐことはできるのではないだろうか。
予想通り、切り落とされた腕とオークの途中で断たれた腕の隙間がなくなる。
成功だ。思わず笑みをうかべ、オーク達の治療を続ける。もはやこの程度で魔力が切れることはなくなった。強くなっている。その実感は、エルの心を喜びで満たすのに十分であった。
なぜ態々倒したオークを治すのか?答えは・・・
「無駄に苦しませることは心苦しいんだがな。先に切りかかったのはお前らだからしょうがないよな?だから、今度はまともな練習台になってくれ」
起き上がった5体のオークは、怒りと恐怖でその顔を歪ませる。
振り下ろされる剣を、エルは自身の大剣で受け止める・・・
のではなく、以前ゴブリンにやったように受け流す。
エル自身、剣術に関して無知である。日頃から素振りをしているおかげで、オークと戦う程度の技量はある。だが、それはあくまで鍛えた身体によるものが大きい。技術自体は大したものではないのだ。
しかし、誰かに教えを乞うことはできない。であれば。自分で磨くしかないのだが、それならば、と。
エルが現在していることは単純。5匹のをオークの剣を受け流す。
実戦で技術を磨けばいいじゃないか、というのがエルの結論であった。
5匹という数は、同時にかかってきたときにエル自身がなんとか対処できるだろう、と考えての事であった。
力ではなく、技術で。最初のころは力で受け流していたところがあったが、時間が経つにつれ大分慣れてきた。
この修行を開始してから30分ほど経つ頃には、オーク達の体力は尽きていた。その内にオークは仲間が戦っている間に休憩するという方法をとったのだが、それでも足りない。そもそも、5体でも無理だったのにその数を減らしても、倒せるはずがない。相手の体力ももうすぐ尽きるのでは、という期待から考えた方法だったのだが、その淡い希望も崩れ去る。体が限界を迎えれば回復魔法で癒し、体力が多少回復すれば再び鍛錬を開始、それを一日中続けるなどという無茶な方法で増えたエルの体力は、オーク5体と数十分戦う程度では、大して汗をかくこともなかった。
いくら切りかかっても受け流される。こちらの体力は尽きているのに、相手の体力は尽きない。その事実に恐怖し、戦意を喪失してしまい逃げ出すオークにエルが止めをさすまで、経過した時間は一時間ほどであった。
今回はオークがエルに遊ばれる(修行相手として)回でしたねー
いやーかわいそうにねぇ←作者
戦闘シーンが多いように見えて少ないw




