第五話 魔法発動
エルの魔法練習記。
ちなみにエルはエルフの少女を若いとか言ってたけどまだ見た目は赤ん坊です。
治療が終わり、少しだけ疲れた様子の少女が口を開く。
「はい、これでもう大丈夫ですよ」
「すまないな・・・助かる。代金はどれくらいだ?」
「いえ、ファンドルトさんにはいつも助けてもらってるのでお代は結構です!むしろファンドルトさんのおかげで村は平和なんですから、感謝してもしたりないくらいですよ」
「・・・そんな大したことしてるわけじゃないんだけどな・・・」
少し視線をそらして明らかに照れているファンドルトに、エルは少々訝しげな目を向ける
「大したことですよ!"魔棲の森"から村まで出てくる魔物の討伐なんて村の人たちだけではどうしても被害が出てしまいますから!」
(なんだ・・・?"魔棲の森"?って確か強力な魔物が棲むって場所だったよな。親父がそこからでてくる魔物を退治してる?というかその魔物を村人が討伐しなきゃいけないって・・・まさかあの大木だらけの森がそうなのか?)
エルは"魔棲の森"のことは既に知っていた。だがそれは普通より強い魔物が出てくる特殊な森、という程度であり、まさかそこの魔物が村の近くに来るほど近くにあるとは思っていなかったのだ。
ましてや、ファンドルトがそれを退治しているなど想像もしていなかったのだ。確かにファンドルトは体がかなり鍛えられている、というのはエルからも見てとれた。だが魔物を退治するという兵士や冒険者がやるような危険な行為をしているとは思っていなかったのだ。
しかし、ファンドルトは元々は多少名の知れた冒険者である。今は冒険者をやめて村で農業を手伝っているため、エルが知らなかったのも当然といえば当然であるが。
「ま、まぁシスター、とりあえず助かったぜ。メルにも一応伝えなきゃいけねぇし、そろそろ家に戻るよ。本当に代金いらねぇのか?」
「はい!ファンドルトさんからお金を取るほうが村の人たちに怒られそうですからね!」
エルフの少女は茶化すように言うが、ファンドルトは照れ臭そうにそっぽをむいてしまっている
(親父、かなり感謝されてるんだな・・・普段は母さんにべったりな情けない感じなのに・・・)
尚、家ではエルの母親であるメルリーナを溺愛しているのがエルにも見てとれるような態度ばかりなので、エルの中でのファンドルトはかなり残念なイメージである
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家に帰ったエルは、少女にかけられた魔法の感覚を思い出していた
(あの感覚・・・おそらくあれが魔力なんだろう。思ってたのとは違ったが、俺も使えるようになるんだろうか?才能で決まる、とかじゃなければいいんだがな。まぁ試してみるしかないよな)
そして、エルはかけられた魔法の感覚を意識して、魔法を発動しようとする。だが当然ながらそんな簡単に使えるわけもないだろう。それはエルも予想していた。だが・・・
(この感覚は・・・俺の体内にも魔力が?いや、当然かもしれないな。空気中の魔力を集めるって可能性もあったが・・・)
そう、魔法をかけられたときと同じ様な感覚が小さいが自分の体の中にも存在していたのだ。
そこでエルは、ふとあることに気づく。
(でもなんだか・・・間違いなく魔力ではあるんだろうが・・・何か、何となく種類が違う?・・・あの時かけられたのは回復魔法、だとすると魔法の種類の違いか?いや、そもそも回復魔法と体内の魔力が同じなほうが不自然かもしれないな。うーん・・・魔法の発動の仕方が分からないが・・・体内の魔力をどうにかするのか?)
体内の魔力を動かそうとしてみる。
(なんとなく、動いてるような気がするんだがな。本当に僅かだな。でも動かせてる・・・よな?何度もやってればできるようになるんだろうか・・・)
体内に感じる感覚は小さなものであり、エルには本当に自分が考えているように魔力が動いているのかは分からなかった。しかし、自信はなかったもののなんとなく感覚はあるためその感覚を信じてみることにした。
その日から、エルフォードは魔法の練習を始める
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魔法の練習をし始めてから五日
(よし、そのまま・・・くそっ!やっぱり集中力が足りないっ・・・!!)
エルの体内で魔力が動いている、という感覚がはっきりと感じられるようになった。
(でもこれなら・・・前よりは多分、進歩してるよな?教科書もなにもないとやっぱり難しいが、そもそもそんな教科書はまだ読めないだろうしなぁ。魔力を感じることに長けたのか、それとも魔力を前より動かせるようになったのか・・・どちらかは分からないが、前よりは進んでいる、ハズだ!!)
自信はなくともとりあえずできることをやるだけだ、と息巻いて練習を継続するエルであった。
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さらに二週間以上が経過した
「よしっ!そうだ、そのまま・・・!」
エルの腕まで魔力が動いている感覚が届く。
この時、エルは自分が声を出していることに気づいていなかった。
幸い、両親は出かけていたが、それほどに集中していたのだ。
「かなり・・・動かせるようになってきたよな・・・!これでやり方が間違ってたら目も当てられないが・・・」
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さらに二か月が経過する
「はぁ、はぁ・・・!あと少し・・・!ハァっ!!」
エルが気合いと共に叫びをあげた瞬間、エルの手がわずかに光る。
本当に、本当にわずかではあったが、この瞬間がエルが初めて魔力を体外に放出した瞬間であった。
「よしっ!!」
光ったのは一瞬。その光も小さなものだった。だが、この瞬間、エルは達成感で満ちていた。自分の努力は間違いなく魔法を使うことにおいて無駄ではなかったのだと、そう確信できたからだった。
しかし、それから数日経過してもまだエルフの少女が使っていたような回復魔法は使えなかった。もしやと思い腕にわずかな傷をつけて試してみても、効果はなかった。
エルが回復魔法を使うために重要なことが足りていなかったのだ。
(まさか本当に適正が全く無いとか言わないよな?いやでも魔力は明らかに前より増えてる、多分。ん?ちょっと待てよ・・・まさかっ!?)
そこで、エルはあることに気づいた。自分は今まで、魔力を回復魔法の形にしようとしていたに過ぎなかったのではないか。回復魔法を使おうとしているのではなく、回復魔法の表面だけを再現しようとしていたのではないのか、と。そう考えが浮かび、エルフの少女の回復魔法がどんなものであったかということ、そして回復魔法を使うこと、起きる現象を強くイメージした。
そして、次にエルの手から出た光は、わずかに赤く染まったもの。
即ち、回復魔法だった。
(やっぱりか・・・回復魔法を使うことよりも回復魔法の魔力を出すことを意識しすぎたな・・・だが、これでようやく・・・!!)
エルはこの時まだ確信を持ってはいなかったが、この世界の魔法というものは、イメージがとても大きく影響する。回復魔法を使おうという意識ができていなかったのだ。
(これで回復魔法は使えるようになった・・・!けど、他の魔法はどうなんだ?とりあえずやってみるしかないが・・・)
そこで、水の魔法を使おうとしてみる。室内でも問題無いと判断したためだ。
部屋が水浸しになると困るので少量の水をイメージし・・・
(なんだこれ?いつもより魔力が動きづらい・・・?それに魔力の質?もなんだか違うような気がするが・・・まさか属性や種類であつかう魔力が変わるのか?)
水が現れることはなく、先程まで出来ていた魔力の操作の難易度が急に上がったように感じ、不思議に思い回復魔法を使おうとすると、問題なく使えた。
では何故かと考え、水の魔法を使おうとする時の感覚が、言葉では表せないものの、回復魔法を使おうとした時とはわずかに感覚が違うことに気づいた。
(いや、感覚の違いは当然か。元々体内にある魔力の感覚も違うんだからなぁ。だが、魔力を動かしづらいのは気になるな・・・まぁ最初に魔法を使おうとした時も違ったしな。やっぱり属性や種類によるんだろうが。とりあえずは練習だな)
エルは水の魔法の練習をする。が、その進み方は明らかに回復魔法を使おうとした時とは違った。
(これは・・・魔力を扱うことに慣れたからか?まぁ早いならいいんだが)
しかし、いい意味で、だ。
そう、明らかに以前回復魔法の練習をしていた時と比べ、魔力を動かせるようになるのが早かったのだ。
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そして三日後
「ッ・・・、ハァっ!」
エルの手から出たのは、イメージしていたわずかな水。
そう、水の魔法が発動したのだ。
回復魔法の練習時に比べ、その習得速度はわずか三日、桁違いの速度だった。
「...よしっ!!」
思わず喜びの声が漏れる。
(回復魔法は使えるようになったが・・・まだ一度しか試していないしな。やっぱりこっちなら魔法を使えてるって感じがするよな)
回復魔法は自分の腕をわずかにだけ傷つけ、既に試していた。結果は"教会"のエルフの少女よりも時間がかかったように感じたが、しっかりと元通りに治っていた。さすがに足の骨を折ってまで比較することは躊躇われたのでそれ以上検証することはしていなかったのだ。
水の魔法も使えるようになり、魔法がイメージにかなり大きく影響されることも確信できていた。
そして、魔法を使える、つまり、間違いなく強くなれる。
そう確信できたことで、エルは喜びに満ちていた。
だが、そうして水の魔法を何度も試していると、急激にエルの意識が遠のいていく。
(なん、だ・・・?)
この時、エルは喜びと集中により気づいていなかったが、かなり疲労していた。魔力が著しく減っていたためだ。そして魔力が尽きたことにより、エルは意識を手放した。
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エルは魔法を練習した→回復魔法は使えなかった→頑張った→使えるようになったぜ(//ω//)bb
水魔法も練習した→やっべなんか前より早く習得できるぜやっべ→アッ意識が・・・