第十四話 深紅のオーク
"魔棲の森"と呼ばれる森を、血の様に赤い肌をもつ豚の頭をした人型の魔物が歩く。
その魔物は本来オークと呼ばれる種であり、オークとは決して強い種族ではなく、むしろ魔物の中では弱者の部類に入る。
――そんな弱者が、魔棲の森を歩く。
人間であれば、それを異常だと思っただろう。
しかし、魔物達はそんなことは考えなかった。
――深紅のオークはだらしない脂肪を持つ通常のオークとは違った。
――通常のオークよりもむしろ小柄な体躯を持ちながら、引き締まった体躯と鍛え上げられた筋肉は魔物よりも屈強な武人を想像させる。
――魔棲の森に棲まう魔物は大抵、相手の強さを測るだけの力を持つ。
――故に、深紅のオークに手を出すことはしない。
――返り討ちにされるだけだ
――深紅のオークは自身の体の半分ほどもある硬い鱗に包まれたゴツゴツとした物体を片手で運んでいる
――それはワイバーンと呼ばれる最下級ではあるものの竜種に分類される魔物である
――翼と一体化した前足を持ち、火を吐いて空中から敵を焼き殺す
――もしもこの魔物がごく一般的な街にやってきたのなら、それはその街の壊滅を意味する
――それほどの存在だが、そのワイバーン、しかも魔棲の森に棲みついたことで通常よりも強いワイバーンを、深紅のオークは打ち倒した
深紅のオークは自らの住処である小さな岩山の洞窟に入り、周囲の気配を確認して食事をとる。
その日戦った強者の肉を食らうのが、深紅のオークの日課だった。
強者の蔓延る森にいながら、武器を持つこともしていない。
本来オークとは武器を使う知能と体があり、それが彼らの脅威を増す。
――だが、そのオークは武器を持つことはしない
――こだわりがあるわけではない
――元々は他の仲間たちと同じように武器を使っていたのだ
――しかし、深紅のオークはいつからか自身の体が生半可な武器よりも丈夫になっていることに気づいた
――そしてついには、以前の様に人間が落とした武器を拾って使っても、すぐに自分の力に武器が耐えきれず、壊れるようになった
――武器を使わないのは、自分の拳の方が強いから
――しかし他のオーク達とは違い、深紅のオークは『防具』を着た
――身体を鍛え、魔棲の森で暮らすうちに身体が縮み、人間の男に近い大きさになったからだ
――防具を着ることを覚えた深紅のオークは、着ていた防具が壊れた時、魔物の素材を使って防具を『作る』ことも覚えた
――補強と改良を何度も施した防具は、様々な魔物の鱗や皮で出来ている
――が、その色は赤黒い血の色一色である
――自身に襲い掛かる強者の血をひたすらに浴びたがために
――その日も深紅のオークは自身を鍛え、強者を打ち倒した
――かつて手も足も出せず敗走した、一体の龍種を倒すために
――食事を終えた深紅のオークは、再び強者を求めて森を歩む
―――――そして、深紅のオークは黒髪の少年を見つけた




